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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.96 【“選ばれる理由”はこう設計する―HACモデル実践編】

「売れない理由」はデータの外にある

前回は、「なぜデータ分析をしても売れないのか?」という問いに対し、その原因は“人間理解の不足”にあるとお伝えしました。

人は、価格やスペックといった合理的な理由だけでモノやサービスを選んでいるわけではありません。特に成熟社会の今、「なんとなく好き」「自分に合っている気がする」といった、感情や意味が購買意思決定に大きく影響しています。

つまり消費とは、単なる購買行動ではなく、その人の“生き方の選択”そのものです。では、その「選ばれる理由」はどうすれば設計できるのでしょうか。

HACモデルとは「誰に売るか」ではなく「どんな価値があるから選ばれるか」の設計図

従来のマーケティングは、属性で市場をセグメント(細分化)し、「誰に売るか(ターゲティング)」を考えることが中心でした。しかし前回ご説明した「HACモデル」は視点が異なります。HACとは、“その人が何を意味(価値)として選ぶのか”を設計するフレームです。

例えば「60歳男女」という属性ではなく、「自分らしさで承認されたい、バブル世代の元シティボーイ/シティガール」と捉え直したとします。この瞬間、同じ商品でもコンセプトが変わり、コピーもコミュニケーションも大きく変わります。

HACモデルで考えることは、単なる分析ではありません。「人間理解(ニーズの明確化)→仮説→コンセプト化」という順番で、“選ばれる理由”を設計することです。この順番が、ビジネスに再現性を生みます。

同じ商品でも「価値=コンセプト」が変われば売れ方は変わる

ここでは分かりやすく、「サプリメント」を例に考えてみましょう。
従来型のアプローチで、よくありがちなのは、

  • ターゲット~60歳男女シニア層
  • 訴求ポイント~健康維持・将来不安の解消
  • コピー~「今から備えましょう」

いわゆる「機能・不安解消訴求」で、必要性は理解されますが、心は動きません。つまり“買う理由”になりにくい構造だからです。なぜならこの世代は、70代以降と比べると、まだ健康に強い不調や不安を実感していないケースが多いからです。本来、健康とは目的ではなく、「やりたいことを実現するための前提条件」です。では、その「やりたいこと」の一つを考えてみましょう。

HACで再設計(意味・感情訴求)

H:Human Nature(人間の本質)

→人は人や社会との関わりの中で認められ、「自分らしさ」を実感する。→生きがいや自己実感が、行動の原動力になる。

A:Aging(加齢)

→競争よりも、「自分らしさ」「楽しさ」を重視する傾向へ変化。→加齢を肯定的に捉える人ほど、健康や幸福感、行動意欲も高い。

C:Cohort(世代)

→若い頃にサブカルチャーや遊びを楽しみ、自己表現を重視してきた世代。→個人の価値観が尊重される時代背景の中で生きてきた。

こうした結果として、従来の家族モデルに縛られない生き方も一般化し、現在は60歳の約3人に1人が独身(未婚・離別・死別含む)という実態があります。そして「婚活・恋活」といった市場も広がり、“人生後半のパートナーシップ”を自分の意思で選び直す動きが活発になっています。これは単なる未婚率の問題ではなく、「人生を自分らしく再設計する自由度の高さ」を象徴しているとも言えます。

これらを踏まえて仮説を立案すると、「この世代は、“健康のため”ではなく、“人生を楽しみ、自分らしく再選択するため”に行動する」、そしてその行動こそが、結果的に健康を維持すると定義できます。

HACによるコンセプト設計

ターゲット

⇒これからの人生を面白くしたい、成熟した大人世代。

訴求ポイント

⇒健康ではなく、“人生をワクワク楽しみ続けるためのコンディション”。

コピー例

⇒もう一度、心が動く人生へ。

⇒年齢は、重ねるものじゃない。面白くするものだ。

⇒人もワインも、いいものほど時間がかかる。

こうした結果、“必要だから買う”から、“こうありたいから選ぶ”へ変わるのです。

重要なのは「機能」ではなく「意味(価値)の提案」

ここで重要なのは、商品は同じ。変えたのは「顧客にとっての意味(価値)=コンセプト」の提案です。同じ商品でも、顧客に伝わる価値が変化します。

  • 不安を解消する商品 → 顕在ニーズ対応
  • 人生を楽しませる商品 → 潜在ニーズを喚起

つまり、ビジネスの成果は、この“コンセプト設計”で、ほぼ決まります。

マーケティングとは「共感率」を設計する仕事

CVRやLTVといった指標は重要です。しかしそれらはすべて「結果」に過ぎません。CVRは“結果の数字”、共感率は“原因の設計”です。

  • 自分に合っている気がする
  • このブランドは自分らしい
  • なんとなく好き

この“なんとなく”を仮説として言語化できるかどうか。ここに、成果の差が生まれます。どれだけ戦略やツールが優れていても、「伝え方=口説き文句」が共感されなければ、人は動きません。

ビジネスの成功確率を高めるために

マーケティングは、「正解探し」ではありません。マーケティングで私たちが得られることは、「成功確率を高める仮説の質」です。その質を決めるのが、どれだけ人間を立体的に理解しているかです。HACモデルは、そのための思考モデルです。

  • データは「結果」であり「理由」ではない
  • 人は機能だけでなく「意味」で選ぶ
  • HACは「選ばれる理由」を設計するフレームである

売れるかどうかは、“コンセプトの設計”で決まります。そしてそのコンセプトは、「誰をどれだけ理解しているか」で決まります。

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客員講師

鈴木 準

(株)ジェイ・ビーム代表

マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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鈴木 準

(株)ジェイ・ビーム代表

マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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