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「CPA/CPO合わない問題」はそもそも問題になることか?

「CPA/CPO 合わない問題」について

福岡大の太宰と申します。ID-POS や明細などのデータ分析をやる流れでダイレクトマーケティングや D2C を研究分野のひとつにしていまして、今回はじめてコラムを記します。

本コラムの話題は、過去のものになりつつあるのかもしれませんが、現場でしばしば耳にしてきた、表題の「CPA/CPO 合わない」というセリフに触れたいと思います。(CPA や CPO の略の説明は、ここのコラムを読む方には不要かな、と判断して説明は割愛してしまいますね!)

D2Cにおける広告投資回収の難しさ

D2C、その中でも化粧品や健康食品等の単品通販は、広告投資回収型の事業であることが少なくありません。90 年代や 2000 年初頭の回収が容易だった時代はもう完全に昔の話で、初回リピート(F2: Frequency の 2 回目)だけで回収は難しく、何回目かのリピート以降で広告投資や原価などのコストを回収し、利益を生むような形になっているのではないかと思われます。しかし、新規獲得のために経済的訴求や強いオファーをして薄く広く顧客を集めたりした結果、多くが 2 回目以降のリピートをせず、表題のような声となるかと思われます。

「合わない問題」をめぐる近年の変化

広告運用をする代理店側が事業会社側の顧客のリピート情報を持っていないから、コンバージョン(CV)として設定できないから、など理由は様々あるかもしれませんが、ここ数年では、広告プラットフォームでリピーター向けに対応できるようになったり、代理店がリピートのデータをみるようになったりして、考慮をするところもだいぶ出てきている感があります。

「合わない問題」に関連する意見や議論も多くあります。例えば著名なマーケターである西口一希氏はその著書「良い売上、悪い売上」(2025 年 10 月, 翔泳社)の中で、「将来の利益を生まない売上」や営業利益の意識を議論していますが、近年の改善はこうした議論も背景にあるのかもしれません。

なぜ「合わない問題」は表面化するのか

では、なぜこの「合わない問題」が表面化するのかを考えてみます。

現場の方々で理解されている方も多いと思われますが、「合わない問題」についていろんな複雑なことを無視して単純に言うと、1回目に買ったか否か、という変数しか考慮していないから、と言える面があります。もちろん、現実の業務においては、データを扱うポリシーや秘密保持の観点などから広告を任せる代理店側がデータを見られない、などなど、障壁がいろいろとあるかもしれません。けれども、突破できない壁ではないとしてとりあえず置いておくと、2 回目以降のリピーターとなる人に広告を打てばいい、2 回目以降に買ってくれる人に響くような広告・訴求内容にすればいい、ということになります。

データを精緻に理解するという視点

ここで、大学に勤務する研究者として、アカデミックらしく、この話を“一般化・普遍化”して考えてみたいと思います。個別のケースの問題ではなく、この問題やその解決策を抽象化して考えてみると、「データを精緻に理解する」点が重要となります。回収が難しい序盤の段階の変数=初回 CV、ではなく、回収ができる段階=何回目かのリピート、を目的変数にしたらよい、ということです。

短絡的な指標だけでは成果を見誤る

EC の分野における「データ精緻に理解する」別の例として、昔の、インプレッション(imp)だけを見て判断していたケースを考えてみましょう。さすがに最近は(WEB 広告の文脈における)フリークエンシー、インプレッションやリーチが考慮されるので、ケースとして無くなっていると思いますが、以前のネット広告黎明期は広告露出の imp“だけ”が成果のように語られることもあったかと思います。一部の人にアクセス数の大半が偏るために imp“だけ”では全然誤った露出の理解をしてしまっていたのですが、これも、ひとつの短絡的な指標だけでなく、WEB から得られるログとか WEB 上におけるユーザーの行動という「データが精緻に理解されるようになった」結果、より正しく成果が捕捉できるようになった、と言えます。

(※アカデミックの立場としては、一部存在に累計値の大半が集中する「パレートの法則」さえ理解していたら、WEB サイトアクセスも当然パレート則に従うのは自明だから、そもそもなんの問題にもならないのになぁ」と思ったりもしますが…)

真のCVとLTVを考える

「合わない問題」に話を戻しますと、初回購買は(たとえばユーザー登録とかお気に入り追加といった類の)あくまで顧客が通るルートのひとつに過ぎないわけだから、真の CV を目的にすればいい、というデータの精緻な理解があれば、改善も図れるわけです。

なお、そもそも事前に LTV が考えられたら「合わない問題」はほぼ発生しないわけですが、では LTV についてアカデミックではいつ頃から議論がなされていたかというと、2000 年に入って以降に Fader et al. (2005) や Gupta et al. (2006) などの代表的な論文がいくつか出ていまして、かなり早い段階からその計算を含めて議論がなされており、例えば後者の論文では CPA とリテンションなども議論されていたりします。現代はもう英語の論文でも難しい数式の論文でも、AI の力を使ってある程度読み解けるようになってきていますので、できれば、時にアカデミックの議論を調べてみることを強くお勧めします

実務におけるLTVの知見

なお LTV は研究だけで言われているわけではもちろんありません。実務においても(株)ムーンショットの「すがけん」さんこと菅原健一さんがブログ(note)において、(株)クラシコムの「北欧、暮らしの道具店」の取り組みを紹介しており、「広告+LP+CRM のセオリーで考えていたのですが実際調査してみると、『SNS を通じて顧客が欲しいものを欲しいタイミングで高単価のオリジナル商品を初回に購入した顧客のその先の LTV がとても高い』こと」と記しています。あくまで企業のケースではあるので全てに応用が利くわけではないのかもしれませんが、「合わない問題」に対するとてもわかりやすい知見の一つだと思います。

データの理解と研究の蓄積を活かす

このように、ツールでできないから、代理店ができないから、今までそうじゃなかったから、といった理由ではなく、データを精緻に理解したうえで分析をし、アカデミックを含めた議論を解釈し、しっかりと解決策を考えたうえで施策を考えて打てばよい、のです。ですので、実はそんなに問題になることではなかった、のかもしれません。

「そんなことわかっとるわ!現場がやりたくでもできないから悩んでるんだ!理想しか言わないから大学の教授はダメなんだ!」などという声が聞こえてきそうです(苦笑)。それでも、データの理解、論文や先人の議論を確認していけば、実はある程度解決をしてしまう問題、ということは他にもあると思います。これからも D2C や EC に関する“ほにゃらら問題”はいくらでも出てくると思いますが、いかに時代が変わろうが、データの精緻な理解と研究の蓄積という面は絶対に変わらないので、ぜひ事あるごとに意識されてみてはいかがでしょうか。

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客員講師

太宰 潮

福岡大学商学部 教授、博士(経営学)

2001年学習院大学経済学部卒業後、学習院大学大学院に進学。2008年から福岡大学商学部に専任講師。2022年から現職。

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客員講師

太宰 潮

福岡大学商学部 教授、博士(経営学)

2001年学習院大学経済学部卒業後、学習院大学大学院に進学。2008年から福岡大学商学部に専任講師。2022年から現職。

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