高齢者のEC利用と通販への関心
先日久しぶりに実家に帰ったのですが、なにやら玄関に段ボールが積みあがっていました。「おお、老人が急にボケて通販に片っ端から申し込んでしまうという、いま話題のアレか?」と恐ろしくなったのですが、よく考えてみれば私の母はもともとフリースタイル自由形で、整理整頓があまり得意ではないという特性を持っているため、ゴミ屋敷状態であったとしても想定の範囲内だったな、とおもいだしふと目を閉じました。
という段ボール屋敷がまさか私の実家だったので転生します的な話はさておき、年配、とくに 70 代以上の方の EC 利用、TV カタログ通販利用についての話です。
私の親もしくは私の周りの親世代は、70~80 代のいわゆる後期高齢者が多いのですが、彼らは昔のお年寄りとは異なり、仕事を続けていたり、家にこもらずアクティブな生活をしている方が多いと思います。
とくにモノの購入に対する情報収集欲は旺盛で、健康食品から旅行商品まであらゆる情報を集め、積極的に購入していることに驚かされます。
一般的なEC施策では捉えにくい高齢者の購買行動
いまでも EC の基本的な方向性として、「いかに多くの顧客を集客するか」「いかに購入率を高めるか」という視点で議論をし、SEO 対策や Web 広告、ポイント施策、レコメンド機能など多くの施策を行い、顧客の流入やコンバージョン率の向上を目的として進めるのを正しい道筋として取り組まれている方が多いのではないでしょうか。
しかしながら高齢者の購入経路を確認すると、指名検索(直接 URL 入力や商品名などで直接サイトにアクセスしている)であることが多く、SEO 対策やポイント施策などの通常の施策ではない視点が必要そうに見えます。
高齢者が求める「信頼のおける店舗」
これは身近なサンプル(親や親戚)からの調査結果にはなってしまうのですが、高齢者は商品を購入する際、商品の入手そのものと同じくらい「信頼のおける店舗」という“かかりつけ店”を増やしたいのではないかと思えます。
我々が想定する一般的な購入者像としては、商品名を検索し、複数の商品を比較し、価格やレビューを見ながら購入を決定するだろうという購買行動を予想しますが、高齢者の場合、必ずしもそのような行動を取らないケースが見受けられます。むしろ「どこで買えば安心か」「困ったときに相談できるか」という「信頼のおける店舗」で買い物をすることを重視する傾向があるようです。
例えば若年層が Amazon や楽天市場などのモールを利用する理由としては、価格比較やポイントが利用をねらったという点が挙げられることが多いと思います。しかし高齢者の場合、「以前も買い物をしたことがある(利用方法を知っている)」「問い合わせ先が目立つところに書いてある」という理由で利用しているケースが少なくないようです。
つまり彼らにとって、EC モールは単なる販売チャネルではなく、百貨店のような「信頼のおける店舗」として機能していると言えそうです。
テレビ通販やカタログ通販が支持される理由
この考え方は EC だけでなく、テレビ通販やカタログ通販においても同様であり、それによりいまだにこれらは根強い人気を誇っているものと思われます。
例えば健康食品やサプリメントの 60 秒コマーシャルでは、商品のスペックや価格を前面に押し出すよりも、相談窓口や定期フォロー体制を充実させている、ということをこまめに挟み込むケースが多くないですか?
やたらとコールセンターのイメージ映像を挟んだり、ヘッドセットをしたオペレーターが優しく微笑みながら「お電話ください」と積極的な電話応対をアピールしたり。
ほかにも会報誌やカタログを定期的に送付する企業も少なくないのも特長だと言えるかと思います。1 回でも購入経験のあるショップであれば、そのショップがお勧めする商品は安心して買える、という高齢者の思考がばっちり働きます。
信頼関係がリピート購入とクロスセルにつながる
一見するとデジタル化の流れに逆行しているように見えますが、実際にはこれが顧客との信頼関係を築く重要な接点となり、単品リピートだけでなく、クロスセルにもつながっているのは明らかです。そして私の実家は段ボール屋敷になってゆく…と。
例えるなら、病院にかかるときに多くの人は毎回別の病院を探すわけではなく、信頼できる医師や病院を見つけたら“かかりつけ医”として継続的に利用しますよね。同じように、高齢者向け EC でも「この店なら安心」「困ったら相談できる」と思ってもらえれば、ずっと利用してもらえる=価格競争に巻き込まれにくくなると言えそうです。
高齢化社会で求められるECの「かかりつけ店」
今後、日本では高齢化がさらに進むことは避けられません。現在 60 代のスマートフォン世代が 10 年後には主要な高齢者層となることは明らかですし、高齢者のデジタル機器への抵抗感は減っていくことも明らかです。けれどもその一方で、この「信頼できる店を選びたい」という心理は変わらないと思われます。
EC 運営の議題として、「モール依存からの脱却」というテーマは不死鳥のごとく定期的に上がると思いますが、もし取り扱い商材が高齢者向けのものである場合、この市場において重要なのは、楽天や Amazon と真っ向競争することではなく、最終的に顧客にとっての“かかりつけ店”になることのように感じられます。
高齢化社会に向かう今、勝ち残るポイントはこの“かかりつけ店”なのかもしれません。