先日、コカ・コーラシステムのリラクゼーションドリンクブランド「CHILL OUT」が、「秒で消せるバナー広告」という施策を発表しました。
https://www.coca-cola.com/jp/ja/media-center/news-20260601-11

内容はとてもシンプルです。WEBブラウザ上でよくある、閉じるボタンが見つけにくいバナー広告。その「どこを押せば消えるのか分からない」というモヤモヤに着目し、あえて閉じるボタンの位置が一目で分かるバナー広告を出すというものです。
つまり、広告費をかけて、ユーザーに“すぐ消してもらうための広告”を出稿する施策です。
さらに、コカ・コーラ公式アプリ「Coke ON」では、次々に表示されるバナー広告を消して遊べるゲーム「バナー広告バスター」も期間限定で配信されるとのことです。公式発表では、2026年6月1日から「秒で消せるバナー広告」を展開し、6月17日から6月30日まで「Coke ON」でゲームを配信するとされています。
広告の嫌われ方を、広告の企画にしている
WEB広告に関わっていると、広告がユーザーにどう見られているかを忘れそうになることがあります。
管理画面では、広告は表示回数、クリック率、CVR、CPAといった数字で見えます。どのクリエイティブが伸びたか。どのターゲティングが効いたか。どの配信面の効率が良いか。運用者はそうした数字を見ながら改善していきます。
しかし、ユーザー側から見ると、広告は必ずしも歓迎される存在ではありません。
画面を覆う。読みたい記事を邪魔する。閉じるボタンが小さい。押したつもりが広告をクリックしてしまう。スマホでは、ほんの少し指がずれただけで別ページに飛ばされることもあります。
広告主側では「視認性を高めた」と言いたくなるものが、ユーザー側では「邪魔」に感じられることがあるのです。
CHILL OUTの施策が上手いのは、その嫌われ方を隠していないところです。
「広告は本当は見てもらうものです」ときれいごとを言うのではなく、「バナー広告って、閉じにくいとモヤモヤしますよね」とユーザー側の感情から入っている。しかも、そのモヤモヤをブランドの文脈に接続しています。
CHILL OUTはリラクゼーションドリンクです。公式記事でも、「閉じるボタン」や「×印」が見つけにくい現代人のモヤモヤに着目し、バナー広告をクリックしてもらうのではなく、一瞬で消去してもらう爽快な体験を提供すると説明されています。
つまり、単なるネタ広告ではなく、ブランドの提供価値と接続された企画になっています。
自虐ではなく、構造をひっくり返す
この施策は、一見すると広告の自虐です。
ここだけを見ると、企業が自分たちの広告を茶化しているようにも見えます。しかし、実際にはもう少し踏み込んだ構造があります。
それは、広告の失敗体験を、ブランド体験に変えていることです。
通常、バナー広告を消す行為は、広告主にとっては失敗です。表示されたのにクリックされない。むしろ閉じられてしまう。数字だけ見れば、望ましい行動ではありません。
しかし今回の施策では、「消されること」自体が体験になっています。
ユーザーが広告を消す。すると、広告に邪魔されたストレスが一瞬でなくなる。その爽快感が、CHILL OUTのブランドイメージと重なる。
つまり、クリックされなくても、広告を消すという行為そのものがブランド接触になっているのです。
広告主の都合ではなく、ユーザーの本音に乗っている。
だから、広告なのに少し好感が持てるのだと思います。
企業SNSにも応用できる視点
この考え方は、企業SNSにも応用できます。
企業SNSは、どうしても「伝えたいこと」から始まりがちです。新商品を出しました。キャンペーンを始めました。こだわりの素材を使っています。職人が丁寧に作っています。もちろん、それらは大切な情報です。
しかし、ユーザーがSNSを開いているとき、企業の話を聞く準備ができているとは限りません。むしろ、企業の宣伝を避けながら、友人の投稿や好きな人の情報を見ていることの方が多いはずです。
そこで必要になるのが、ユーザー側の本音から企画を考えることです。
「広告って邪魔ですよね」 「閉じるボタン、見つかりませんよね」 「買うつもりはないけど、ちょっと気になることありますよね」 「企業アカウントのきれいごと、少し疲れますよね」
こうした本音に触れられると、企業発信は少しだけ“広告っぽさ”から離れます。
大切なのは、ユーザーの不満を茶化すことではありません。その不満を、自社のブランドがどう受け止められるかです。
CHILL OUTの場合は、「消せない広告のモヤモヤ」を「チルする」「スッキリする」というブランド体験に変換しました。ここに企画の強さがあります。
まとめ
企業が伝えたいことを、企業の言葉で押し出すだけでは、もう届きにくい時代です。むしろ、ユーザーが普段感じている小さな不満や違和感を見つけ、それをブランドの価値に変換すること。
広告を好きになってもらうのは難しい。
でも、広告に感じているモヤモヤを分かってくれるブランドなら、少しだけ好きになれるかもしれません。
これからのSNS運用や広告企画では、その“少しだけ好きになれる余白”をどう作るかが、ますます重要になっていくのではないかと思います。