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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.95 【データの先にある「選ばれる理由」とは?】

「なぜ、売れないのか?」は人間理解で解ける

EC市場は拡大を続け、データもツールも進化しました。それにもかかわらず、多くの現場でこんな声が聞こえてきます。

「顧客を分析しているのに、なぜか売れない…」

この違和感の正体は何でしょうか。私はその原因を、“人間理解の不足”にあると考えています。

人は合理的に選ばない

人は、価格やスペックだけで商品を選んでいるわけではありません。

  • なんとなく好き
  • 自分に合っている気がする
  • 共感できる

こうした感情や意味が、意思決定に大きく影響しています。つまり消費とは、「合理的行為」だけでなく、「文化的・感情的行為の側面が大きい」と言えます。

データでは見えないもの

ECは特にデータドリブンになりやすい業界です。

  • CVR
  • LTV
  • セグメント分析

データは様々な事柄を教えてくれますが、それらはあくまで「結果」です。なぜその行動が起きたのかという「理由」までは、見えにくい側面があります。

人間理解のフレーム:HACモデル

そこで有効なのが、以前に私が提唱したマーケティング・ジェロントロジーの「HACモデル(ハックモデル)」です。これは、次の3要素から人間理解を深めます。

H:Human Nature(人間の本質)

  • 社会的動物
  • 人は感情で動く
  • 意味を求める存在、など

人間の本質を理解するうえで、最も分かりやすい理論の一つが、心理学者のアブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」です。

人の欲求は、以下のような段階で構成されています。

  1. 生理的欲求(食べたい・寝たい)
  2. 安全欲求(安心・安定した生活をしたい
  3. 社会的欲求(所属・人とつながりたい)
  4. 承認欲求(役に立ちたい・認められたい)
  5. 自己実現欲求(自分の可能性を発揮したい)

重要なのは、上位に行くほど「感情」や「意味」が強くなる点です。

例えばECにおいても、安いから買う「安全欲求」から、人に認められたいという「承認欲求」、このブランドが好きだから買う「自己実現欲求」へと、購買理由は変化していきます。

つまり人は、機能や価格だけでなく、「自分にとっての意味」で選ぶ存在なのです。

A:Aging(加齢)

  • 年齢による価値観の変化
  • 幸福の感じ方の変化
  • ウェルエイジング(自分らしい年齢の重ね方)という視点、など

また加齢についても、近年の研究により重要な示唆が得られています。米国イェール大学の心理学者であるベッカ・レヴィの研究では、「加齢を肯定的に捉えている人は、そうでない人に比べて平均約7.5年長生きする」という結果が報告されています。

これは単なる寿命の話ではなく、自己認識、社会との関係性、行動意欲といった心理的要因が、健康や行動に大きく影響することを示しています。

また加齢に伴い、「競争から関係性へ」、「所有から体験や意味へ」と価値観がシフトしていく傾向も見られます。昨今は若い世代にも、見受けられます。

つまり加齢とは衰えではなく、「価値観の変化プロセス」なのです。

C:Cohort(世代)

  • 同じ時代に生まれ育った人に共通する価値観
  • バブル世代・Z世代・ミレニアル世代など

ジェロントロジーにおける「コホート(Cohort)」とは、同じ時期に生まれ育ち、近しい経験や共通の特性を持つ人々のグループを指します。

例えば同じ60歳でも、10年前・20年前とは時代背景が異なるため、価値観や消費行動も大きく異なります。

なぜ今HACなのか

従来のマーケティングでは、市場のセグメンテーション(細分化)やターゲティングを行う際に、

  • 年齢
  • 性別
  • 所得

といった属性データが中心でした。

私は一貫して「ニーズ」を起点に考える重要性を提唱してきましたが、そのニーズのベースにあるのが、「どう在りたいか、どう生きたいか」という人間の価値観です。

その価値観を読み解くには、以下の3つの掛け合わせが必要です。

  • 本質(H) 人間の本質を理解する
  • 加齢(A) 人がどう変化するかを理解する
  • 世代(C) 同時代経験による価値観を理解する

つまり、人は感情で動き(H)、年齢とともに価値観が変わり(A)、時代によってその前提が異なる(C)。この3つを統合して捉えることが、現代のマーケティングには不可欠です。

ECに限らず、ビジネスやマーケティングは、いま「優れた商品が優れている事実」ではなく、「何故、売れるのか」人間を理解していることが重要です。

ビジネス成功の確率を高めるために!

マーケティングを行う意義は、ビジネスの成功確率を高めること、そして属人化せず再現性(誰が行っても成果が出る仕組み)をつくることにあります。

データ分析やアンケート、インタビューなどをどれだけ行っても、「ビジネスの正解」は出ません。実際のところ、「やってみないと分からない」のが現実です。

だからこそマーケティングは、「仮説を磨く」ことで成功確率を高めます。そしてその仮説の質を左右する最大の要素が、「人間理解」です。
HACモデルは、その人間理解を体系化し、実務に活かすためのフレームです。

次回は事例編として、具体的に解説していきます。

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客員講師

鈴木 準

(株)ジェイ・ビーム代表

マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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