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楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol.98 【マーケティングは「論破する技術」ではない】

なぜ売れないのか?その前に「なぜそう思うのか」を考える

先日、コミュニケーションに関するセミナーを聞く機会がありました。そこで改めて考えさせられたのが、「人はなぜ分かり合えなくなるのか」というテーマです。

ビジネスの現場でも、話し合いをしているはずなのに、いつの間にか相手の意見を否定したり、間違いを指摘したりすることが目的になってしまう場面があります。私はそのセミナーを聞きながら、前から気になっている「論破型コミュニケーション」を思い出しました。

マーケティングは本来、人を理解するための仕事です。しかし気づかないうちに、「正しい答えを見つけること」が目的になってしまうことがあります。

「なぜ?」「根拠は?」が目的になっていないか?

会議でアイデアを出すと、「なぜそう思うのですか?」「根拠はありますか?」「データはありますか?」「それは個人の感想ですよね?」そんな言葉が返ってくることがあります。もちろん論理的に考えることは大切です。私自身も45年間、マーケティングの現場で仮説やデータの重要性を伝えてきました。

しかし、その質問は本当に相手を理解するためのものなのでしょうか。それとも、相手の間違いを探すためのものなのでしょうか。同じ言葉でも目的によって意味は大きく変わります。

理解するための質問は「対話」になります。否定するための質問は「尋問」になります。後者のようなコミュニケーションでは、新しい発見は生まれません。

マーケティングの原点は「共感」

90年代、私がダイレクトマーケティングに携わり始めた頃は、データを分析すれば市場が理解できると思っていました。しかし長年現場に立ち続けて分かったことがあります。人は論理だけでは動かない、ということです。

ECサイトでも、お客様は商品スペックだけで購入を決めているわけではありません。

  • 「このブランドが好き」
  • 「世界観に共感する」
  • 「なんとなくワクワクする」
  • 「使っている自分を想像できる」

そんな感情が最後のひと押しになることは少なくありません。だからこそ、売れない理由を探す前に考えるべきことがあります。

それは、「お客様はなぜそう感じているのだろう」という問いです。

マーケティングの原点は共感です。相手を理解しようとする姿勢がなければ、本当のニーズにはたどり着けません。

ロジカルシンキングは武器ではなく道具

90年代以降、ロジカルシンキングやさまざまなマーケティングフレームワークが普及しました。これは素晴らしいことです。一方で、それらが目的化してしまうケースも増えたように感じます。

本来、ロジカルシンキングとは思考を整理するための道具です。ところが使い方を間違えると、相手の矛盾を探す武器になってしまいます。

組織では、

  • 問題点を見つける
  • リスクを発見する
  • 改善策を考える

ことが評価されます。その結果、「正しいことを言う力」は磨かれます。しかしマーケティングに必要なのは、正しさだけではありません。

  • 「面白いですね」
  • 「なぜそう思うのですか」
  • 「もう少し聞かせてください」

そんな好奇心こそが、新しい市場や新しい価値を発見する入り口になるのです。

昭和世代の価値観が生んだ強みと弱み

私は1960年生まれです。私たち昭和世代の男性は、「家族を養うことが男の責任」という価値観の中で育ちました。高度経済成長期からバブル期にかけては、仕事で成果を出すことが最優先でした。

そのため、多くの男性は「自分が家族を養ってきた」という誇りを持っています。一方、女性は「家庭と子育てを支えてきた」という誇りを持っています。どちらも間違いではありません。

ただ、お互いの苦労や立場を理解する機会が少なかっただけなのです。今振り返ると、正しさを主張することよりも、相手の背景を理解しようとすることの方が大切だったのかもしれません。

これからの時代に必要な「理解する力」

最近、ジェロントロジー(加齢科学)を学ぶ中で興味深いことを知りました。人は年齢を重ねるほど幸福度が高まる可能性があるという研究です。その背景には、人間関係への向き合い方の変化があります。

若い頃は競争や成果が重要です。しかし人生後半になると、「誰と過ごすか」「どんな関係を築くか」が幸福に大きく影響するようになります。

これはビジネスも同じです。AIが進化し、データ分析の精度が高まるほど、人間に求められる価値は変わります。

  • 相手の言葉の奥にある気持ちを想像する力
  • 数字に表れない感情を感じ取る力
  • お客様の立場で考える力

そうした「理解する力」が、これからますます重要になるでしょう。

マーケティングは人間理解の学問

EC業界はテクノロジーの進化が著しい世界です。AI、データ分析、パーソナライズ、マーケティングオートメーション。どれも重要です。しかし最後に購入ボタンを押すのは人間です。

そして人間は感情の生き物です。私自身、66歳になる今も、新しい人との出会いや新しい挑戦にはワクワクします。人は論理だけで動くのではありません。未来への期待や共感によって動くのです。

だからこそ、これからのマーケターに必要なのは分析力だけではありません。お客様を理解しようとする想像力です。

  • 「なぜ買わないのか」ではなく、「なぜそう感じているのか」と考える。
  • 「根拠は?」と問い詰めるのではなく、「なるほど、そう感じるのですね」と耳を傾ける。

マーケティングの本質は、相手を論破することではありません。相手を理解することです。その積み重ねこそが、選ばれるブランドや愛されるECサイトをつくるのではないでしょうか。

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客員講師

鈴木 準

(株)ジェイ・ビーム代表

マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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(株)ジェイ・ビーム代表

マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視した、マーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。

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