AIで意識するべきこと
少し前までAIは特別な技術でした。しかしいまは違います。文章を書き、情報を整理し、アイデアを出す。多くの人が日常的にAIを使うようになりました。
そうなると、ある疑問が浮かびます。もし誰もがAIを使える時代になったとき、ECモールの中にAIを実装しただけで、本当に差別化できるのでしょうか。
そんなことを考えていたとき、ヤフーの戦略共有会で話を聞く機会がありました。話していたのは、Yahoo!ショッピングを取りまとめるショッピングSBU統括本部長の杉本務さんです。
僕は、まさにこの問いを杉本さんに投げかけました。AIが当たり前のように使われる時代になったとき、ECモールの中でAIを実装しただけで、本当に差別化になるのか、という問いです。
杉本さんの話の中で印象的だったのは、AIの性能そのものよりも、AIをどのように使うかという設計思想でした。
データは持っているだけでは価値にならない
そもそも、ECには膨大なデータがあります。購買履歴、閲覧履歴、検索履歴、商品データ。企業は日々、多くの情報を蓄積しています。しかしAI時代になると、それらを持っているだけでは価値にはなりません。
確かにAIは何でもできるように見えます。しかし使い方が浅ければ、体験もまた浅くなります。いわば薄いカルピスのようなもので、味はするけれど「これが飲みたかった」という満足感にはならないのです。大事なのは、どの情報を使い、どう組み合わせるか。その設計の中にこそ企業の専門性が現れます。
AI時代は、データを持つ企業が勝つのではありません。データを体験に変えられる企業が勝つのです。
つまり、単発的な質問と回答であれば、個人がAIを使って得ることもできます。しかし、その人にとって本当に最適な提案を導き出そうとすれば、話は別です。そこには、他のユーザーの行動や購買のデータも踏まえながら判断する視点が必要になります。
どのデータを使い、どのタイミングで、どの文脈で活用するのか。その設計こそが「専門性」であり、AI時代のショッピングの価値を決めるポイントになるのです。
LINEヤフーが選んだのは物流ではなく接点だった
さて、話を戻します。Yahoo!ショッピングはかつて、物流を含めたモールの総合力を高めようとしていました。フルフィルメントの整備もその一環です。しかし、その取り組みは結果として終了しています。
僕はあえて、そのことについて杉本さんに質問を投げかけました。正直、あまり答えたくない類の質問だったかもしれません。
しかし杉本さんは、その取り組みについて、自分たちの座組ではうまく生かしきれなかったと率直に語っていました。つまり、ECそのものを起点に顧客体験を高めていくという戦い方が、必ずしも彼らの強みではなかったということになります。
だからこそ今回の話を聞いて感じたのは、戦う場所を選び直したということだったのではないか、ということです。物流で勝つ戦い方は、Amazonや楽天が圧倒的に強い。
一方でLINEヤフーには、LINEという巨大なコミュニケーション基盤があります。この接点を起点に購買体験を作れる企業は、そう多くありません。だから彼らは物流ではなく、接点の価値を高める方向に舵を切った。これは、自分たちの強みを見極め、その価値を最大化しようとする戦略だと言えるでしょう。
AI時代のショッピングは「接点×専門性」で決まる
そして、それこそが彼らにとって活かすべきデータの礎になるのだと思います。つまり、データの何と何を掛け合わせれば顧客体験が向上するのか。その設計こそが、AI時代の勝ち筋なのです。
そして彼らは、その中心にLINEという接点を据えました。他にはないからです。
そこには、EC流通総額No.1を目指すといった発想はあまり感じられません。むしろ、一位であることよりも、自分たちが価値を発揮できる領域の中で最大限の価値を生み出そうとしているように見えました。
しかしそれは結果として、LINEという差別化要因をさらに強くすることにつながり、事業としても最も生産性の高い拡大の形なのではないかと思います。
だから、EC事業者に今までと同じ期待を持つのは間違っています。ただ、彼らなりのその導き出し方が、自分にとっての新たなマーケットを作り出す可能性もあるのです。
AI時代のショッピングは、AIを持つ企業が勝つのではありません。接点と専門性を持つ企業が勝つのです。
どこでユーザーと接点を持ち、どのデータをどう掛け合わせて体験を設計するのか。その専門性の高い視点こそが、これからのショッピングにとって重要になるのではないでしょうか。どのデータが組み合わされれば、自分のお客様にとって最適で、素敵な体験を生み出せるのか。
さて、あなたは、なんの専門性がありますか?
今日はこの辺で。