楽しく誰にも分かるマーケティング：Vol.75 【市場創造は「ニッチ」から始まる！】

成熟社会は「レッドオーシャン」しかしライフシフト社会は「ブルーオーシャン」
私たちの成熟社会の暮らしは、様々なモノやサービスで溢れかえっており、売り場は店舗から通信販売、そしてEコマースと揃って、生活を行う上での不便は基本的にはありません。

こうした中で、例えば食品や飲料、トイレタリー製品などに代表される、既に形成されている多くの市場では、細かな差別化で競合としのぎを削り、まさに市場は「レッドオーシャン（競争が激しい既存市場）」と言えるでしょう。

一方で寿命が大きく延びてライフシフト、いわゆる人生100年時代は前例がないため、こうした社会のニーズを満たすモノやサービスを開発して販売することは、なかなか難しいことではありますが、それとは裏腹に、「ブルーオーシャン（従来存在しなかった新市場）」でもあり、ビジネスチャンスが極めて大きいと言えます。

どんなモノやサービスも、最初の市場創造は「ニッチ（隙間：特定のニーズを持つ規模の小さいマーケット）」な市場からスタートし、それを拡大していきます。

最初はニッチからスタートする「イノベーター理論」とは？
イノベーター理論は、1962年にアメリカ・スタンフォード大学の教授、エベレット・M・ロジャース氏が提唱しました。顧客を５段階の層に分類し、新しいモノやサービスをどのように市場に普及させていくかを定義づけた理論であり、フレームワークです。市場形成のポイントは、新しいモノやサービスの価値を求める人たちに受容させ、全体の16％を超えると大きく浸透すると伝えています。

その５段階の層とは「イノベーター⇒アーリーアダプター⇒アーリーマジョリティ⇒レイトマジョリティ⇒ラガード」に分類されます。

最初のイノベーターは、モノやサービスの新しさを重視しますが少人数であり、まさに「ニッチ」です。次のアーリーアダプターは、イノベーターより人数が多い上、顧客ニーズを満たすモノやサービスの「コンセプト（価値）」を重視して、その価値を他の顧客に伝える力を持っています。

イノベーターとアーリーアダプターの合計は「16％」と提唱されており、この分岐点である数値を超えると「マジョリティ（大多数の人達）」に広がって、大きな市場、ビッグビジネスになると言われています。

重要なポイントである16％を「キャズム（大きな溝）」と言いますが、これに着目し「キャズム理論」を提唱したのは、1991年アメリカのマーケティング・コンサルタントのジェフリー・A・ムーア氏です。

キャズム理論は、アーリーアダプターとアーリーマジョリティのあいだには「キャズム」が存在し、この数値を超えないと市場の大多数である「マジョリティ」には受け入れないと提唱しています。

購入する際の理由は、イノベーターとアーリーアダプターは「今までに無い新しさ」ですが、マジョリティは「大多数の人が使っている安心感」が購入を決める要因と主張しています。市場創造と拡大には「これまでにない革新的な新しさ」に加えて「使いやすさや安心感、手頃な価格」が大きなポイントと言えるでしょう。

「健康長寿社会」の市場創造にもっとチャレンジするべき！
2024年現在の日本の高齢者（65歳以上）人口は約30％、その予備軍を含めて50歳以上は過半数を超えました。こうした高齢化社会を迎えた社会の大きなテーマは「健康寿命（健康上の問題なく生活できる期間）」の延伸であり「健康長寿社会」の創造です。

このテーマを解決するためには、従来のシニア市場には無かったモノやサービスが求められていますが、当然のことながら「最初はニッチ」な市場からのスタートです。

Z世代のインフルエンサーがSNSで発信している情報は大きく取り上げて、「今のトレンド」とマスコミや企業は扱い、広げようとしますが、同じことを60代の人が行うと「それは特別なニッチな人達」と言って片付けてしまいます。これは以前から申し上げている「年齢に関する固定観念」から来ています。

今の多くの日本企業は「リスク」を冒してまでチャレンジをせず、大企業に至っては最初から大きな市場を狙いに行く傾向があると思います。これでは50歳以上が過半数を占める日本の社会に、新たなライフスタイルの新風を巻き起こすことは到底不可能と言わざるを得ません。

次回は「ニッチ」を生かして、どのように市場を、ビジネスを拡大していくのか、その事例とともに戦略を解説します。