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「伝える」と「伝わる」のあいだに Vol.38 イヤな「伝わる」、素敵な「伝わる」

私は数あるSNSの中では文字メインであるX(エックス)を頻繁に使っている(本当は永遠にTwitterと呼び続けたかった…)。今回はそこで両極端な伝わりを体感したおはなし。

「おすすめ」という恐怖の餌場

休日散歩で東大駒場キャンパスを訪れた時、ある立て看板を見かけた。
「やめよう、国籍差別」「差別の春は 叡智なき冬」という文字の下に「A spring of discrimination, a winter lacking illumination.」と書かれている。
後で調べたら博士課程学生支援制度の対象を日本人限定にしようとする文科省への抗議の立て看で、そのプログラムの通称「SPRING」にかけているとのこと。英文の方は韻も踏んでいる。何と知性溢れるプロテストだろう。

私は立て看の写真に「よいなあ」という感想と内容の説明を添えて何気なくXに投下した。検索したらこの立て看に関する投稿は既に去年からあり、今さら物珍しいこともなかろうと思いつつ。
すると、すごい勢いで「いいね」とリツイートがついてゆく。「さすが東大」「知性が違う」という引用と共に、皆も感心しているようだ。

しかし、いいねとRTが1000を超えたあたりから、いわゆるクソリプがつき始めた。最初は「1000を超えたらヤバい人に見つかるって法則は本当だな」と苦笑いしていたけど、そのあと何らかの一線を超えたかのように、一気に罵詈雑言が押し寄せてきたのだ。
内容はいわゆる排外主義の言葉。冷静な反対意見は1つ2つ。あとは外国人ヘイトと東大生へのルサンチマンだ。

この立て看は部外者の私が通りすがりに撮っただけのものだ。このままマイナス方面に拡大したら東大と制作者に迷惑がかかりそう。そう思って私は投稿自体を削除した。
するとここぞとばかり「ツイ消して逃げやがって負け犬が。こっちは選挙で大勝したんだぞ」(??)などというリプライがいくつも来始めた。

私自身の考えや人格を攻撃されているわけではないので傷ついたりはしない。しかし、立て看の写真ひとつにこの憎悪の嵐は一体何なのだ。そしてなぜダムが決壊したかのように増殖したのか。
その時Blueskyの方でこんなコメントをもらった。
「Xはそういうアルゴリズムなのだろう。炎上させたいクラスタに炎上しそうなネタを提供する。おすすめを開いて待ち構えてるだけで餌が降ってくる感じ」

ああそれだ!と膝を打つ。
Xの「おすすめ」欄は、最近とみにエコーチェンバーを増進させている。自分の関心事だけでなく賛否の方向性も絞ってきて「同意見の人たちがこんなにいますよ」と並べてみせる。「あなたの参加できる喧嘩一覧」とうまい例えをしたのは誰だったか。
おそらく私の投稿は誰かの批判的な引用RTを添えた形で「餌を待ってるアカウント」のおすすめに登場してしまったのだろう。

いったんバズるとその勢いには歯止めがきかない。そして「おすすめ」されたが最後とめどなく人が群がり、一方向に向かってひたすら転がっていく。真実か否かはどうでもいい。センセーショナルなもの、断定的なもの、威勢がいいものだけが「事実」になっていく
最近の選挙ではそういうネットの奔流をうまく利用して排外主義を広める政党もいた。現政権も巨額のネット広告費を投じて「印象」を操作するのに長けている。ネットでの収益化が進めば進むほど、個人も政治も「強い印象残すぞまつり」に血道を上げるようになる。恐ろしい。

「光の抵抗」の拡大

こうしてイヤ〜な気持ちになっていた頃、各地の改憲反対デモに、自分の推しアーティストのグッズであるペンライトを持って参加する人が増えてきた。そしてそのさまざまな形と色のペンラの写真と共に「初めてデモに行ってきた!」の投稿がXに増え始めたのだ。

ペンラでデモ」の発祥は韓国。2024年、尹大統領の戒厳令宣布に対し集まった大勢の市民たち。そこにはあまたのペンラが光っていた。かつてろうそく集会に対してある議員が「風が吹けば消える」と揶揄。怒った市民たちは消えない光であるペンライトに持ち替えた。
大統領の内乱を阻止した韓国市民のこの行動は、今回ノーベル平和賞に推薦されている

日本ではまずK-POPファンの女性たちが韓国に倣ってペンラでデモに参加。その投稿を見て今まで「デモはちょっと」と思っていた女性たちが次々と参加している。その広がりの勢いはいま現在、Xを見ているとよく分かる。
「平和な社会でしか推しを楽しく推し続けることはできないから」…そんな思いを綴る人も多い。

Xならではの揶揄や冷笑のコメントも多くついたが、それより韓国の人たちから「まさか日本でこの活動が!」「民主主義は国を問いません。共にアジアの平和のために頑張りましょう」という連帯の投稿がたくさん届いている。
これはXがないと起こり得なかったことで、こんなに勇気ある温かな「伝わり」もあるんだな…と胸が熱くなった。

ネットの拡散力は時に地獄への下り階段、時に希望への上り階段。どちらの「強さ」に同調するか、または一切の無関心を装うか。それは私たち1人1人にかかっている。雰囲気に流されることなく、道を選びたい。

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コピーライター

近藤 あゆみ

Lamp代表

博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。

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博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。

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