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ShopifyとTikTokが示した「ECが人間に戻る」転換点

ECの前提が変わる──「探す」から「出会う」へ

思うに、ECは長らく「商品を探しに行く場所」でした。検索し、比較し、最短距離で購入する。その合理性こそが正解で、運営の勝ち筋は最適化に置かれてきました。

しかし今、その前提が静かに崩れています。人はもう、能動的に商品を探し続けません。商品と“出会ってしまう”導線が、日常の中に埋め込まれ始めたからです。

最近でいえば、TikTok Shopがそうでしょう。動画やライブを眺める流れのまま、気になった商品をタップして購入まで完結します。外部サイトへ遷移しない。売り場は、サイトという「場所」から、コンテンツという「時間」へ移りました。極端に言えば、自社ECがなくても成立してしまいます。

これは販路拡張ではなく、購買の入口が「検索」から「文脈」へ移ったという変化です。結果、「サイトを育てる」だけでなく、「出会いを設計する」ことが問われます。検索の時代は答えが一つでした。最短で買えること。出会いの時代は、誰に、どんな文脈で届くのか。ECは人間理解を避けて通れません。

Shopifyの「ルネサンス」──AIで人間を取り戻す

購買の入口が「検索」から「文脈」へと移ることに拍車をかけているのは、AIもそうです。この流れの中で、Shopifyは、人間性を重んじる方向へ舵を切っています。AIを実装した新機能を発表しながら、そのテーマを“ルネサンス”と呼んだことに意図が表れています。再生、人間中心主義、個性への回帰。

つまり、Shopifyが描くのは、AIに答えを委ねる世界ではありません。AIがいるからこそ、人間が「判断」と「設計」に戻る世界です。

ShopifyのエバンジェリストでもあるMMOL Holdings Inc.の河野貴伸さんの言葉を手がかりにすると、その核心は「社会実装」でした。

そもそも、どれだけ優れた技術であっても、社会に根づかないのは、使い方が構造として設計されていないからです。だから、ShopifyはAI機能の追加以前に、AIが働ける土壌を整えてきたのです。例えば、Sidekickという機能は、ストア全体を俯瞰し、提案し、場合によっては実行まで担います。

大事なのは省力化ではなく、役割の反転です。AIが作業を引き受ければ、人は評価と意思決定へと役割を移します。

そしてShopifyは「丸投げしないAI」を明確にしています。

候補出し・整理・下書きはAI。価格、ブランド毀損に関わる判断、顧客との約束、「この店は何者か」という芯は人間です。だから最後に残るのは編集力です。AIの候補に「良い」「違う」と言うには、守る価値が自分たちで言語化されていなければなりません。AIは答えを出しません。

だからこそ、人が自分たちの言葉を取り戻す。これがルネサンスの正体です。

TikTok Shopは「モール」──成長の主語は商品ではない

感覚を改めるべきであり、それは従来の言葉の定義も覆します。

futureshopの安原貴之さんがTikTok Shopを「モール的存在」と位置づけたのが示唆的でした。実は、そこには、複数ブランドが集まり、プラットフォーム内で選び、購入まで完結する構造があります。つまり、これをモールと言っているわけです。ですが従来のモールと決定的に違うのは、「どこから成長が始まるか」です。

従来モールは、店舗が集まり、商品が増え、客が来る循環で拡大しました。主語は商品と店舗でした。一方、TikTok Shopには第三の軸があります。「売る人」です。

インフルエンサーやKOLが動かないと、売り場が立ち上がりにくい。要するに、人の感性を紐づけるアルゴリズムがあって、引き合わせる先に商品がある。

そこで背中を後押しするのが「誰が語るか」なのです。

まだ日本では実績はないですが、海外では施策により三軸が同時に回り始めた瞬間、流通が跳ねたといいます。

要するに、今まではブランドが抱えていた店員。それが解放されたイメージに近い。ブランドに依存しない「新しい店員」の誕生です。今でこそ、ブランドで働くのが常識ですが、ブランドにとらわれず、稼ぐ手段として考える人が出てくれば、自ずとそのマーケットは成立する。

出会いはTikTok、関係性は自社EC──最後に残るのは編集と教育

動画で知り、ライブで欲しくなり、買ってみて、もっと知りたくなる。その先で、背景や作り手、理由を理解する場所が必要になります。

ここでShopifyのルネサンスと、TikTok Shopは一本につながります。

どちらも「売る近道」を差し出していません。変化に向き合うための“思考の余白”を作っています。ShopifyはAIで作業を引き受け、人を設計者へと戻します。

正解が固定されない世界では、勝ち筋はツールではなく学び方そのものになります。AIは答えを出しません。売り場は場所でもありません。

だからこそ、人が学び、編集し、判断します。ECが人間に戻るとは、そういうことです。

今日はこの辺で。

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理事

石郷 学

(株)team145 代表取締役

ファンシー雑貨の業界紙ライター出身、ネット通販向け商材の問屋で企画営業や商品開発にも携わる。自らの企画の持ち味を生かし、ECのミカタ編集長を担う。2019年(株)team145を設立。

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石郷 学

(株)team145 代表取締役

ファンシー雑貨の業界紙ライター出身、ネット通販向け商材の問屋で企画営業や商品開発にも携わる。自らの企画の持ち味を生かし、ECのミカタ編集長を担う。2019年(株)team145を設立。

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