2018年頭所感 宮松 利博
2018年 年頭所感《JECCICA客員講師 宮松 利博》
2018年の新春を迎えまして、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
■追い風のオンラインストアと、限界寸前のオンラインストアの明暗。
野村総合研究所によると、2018年の日本の消費者向けイーコマース市場規模は約26兆円と、2014年度の規模13兆円の約2倍となる成長が見込まれています。
しかしその一方で、先行き不透明な数字に頭を悩ませている事業者さんもいらっしゃるでしょう。特に昨年は、SEOや広告、スマホ対応などに取り組んでいるにも関わらず伸び悩んでいる、というお声が例年よりも多かったように思います。
でも、上手くやっている事業者さんもいらっしゃいます。その明暗の差の原因はいくつかありますが、今年2018年の年頭にあたり、こんな風に目先を替えると、上手く言ってらっしゃるお店の着眼点が見つかるんじゃないかな、というポイントを、今年の原稿やセミナーネタの整理も兼ねてご紹介してみたいと思います。
■音声検索SEO?音声購入?
日本でも、新しモノ好きのご家庭やオフィスではすでに「OKグーグル、xxxして」「アレクサ、xxxして」と音声コマンドが飛び交い、日々の生活に音声アシスタントが馴染み始めた頃だと思います。弊社でもオフィスに何台か設置していますが、特に女性スタッフは「ねぇグーグルぅ〜」とオネダリ口調で、あまり相手が機械であるということを忘れて自由に命令しているのが印象的です。
しかしやはり、イーコマースに携わる事業者としては、これらが買い物体験を高めてくれる新しいデバイス、という期待感があるでしょう。私もAmazon Echo 日本版が届いた時には、一番に「ピザ持ってきて!」と言いたかったのですが、「今から牛丼取りに行きます」が関の山でした。原因は、Amazon Echoなら「スキル」、Google Home なら「アプリ」と呼ばれる、PCでいうところの「ソフトウェア」がまだ未発達だからです。アメリカで「ピザ持ってきて」が通用するのは、ドミノ・ピザがいち早くデリバリーに対応した「スキル」をリスクを取って提供したからです。逆にいえば、日本の場合、まだまだ隙間がある、ということです。
■音声アシスタントのスキル・アプリにトライ!
Google Homeの「アプリ」にせよ、AmazonEchoの「スキル」にせよ、音声アシスタントのスキルやアプリの作成自体は決して難しいものではありません。誰でも簡単に作成できる開発環境が用意されているので、ノンプログラマの方でも、ぜひ一度トライしてみていただくと、様々なヒントが得られると思います。
例えば、もしあなたのオンラインストアを音声だけで見つけてもらったり、検索結果で読み上げられたときに、買いたい!と思ってもらうとしたら、ユーザのどんなアクションを想定して、どのような説明をするでしょうか。特にGoogle Home で検索した場合は、ユーザに適切な「アプリ」を紹介する機能も用意されているので、このあたりも視野に入れてアプリの準備をしておかれることをお薦めします。アプリだけでなく、Podcastでラジオ番組配信、というのも有効なユーザとの接点となりそうです。
「そんなの、まだまだ先の話じゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、テキスト入力よりも「速い」という理由で、音声入力検索はスマホ上でも使われています。『「超」整理法』で知られる野口悠紀雄氏は早くから原稿作成に音声入力を使われていたことで有名ですし、最近も大学生のiPhoneの音声入力を使った「文字起こし」術が秀逸、と、twitterでも話題になったりしました。かくいう私も、今回の原稿も3分の2は、iPhoneのメモに音声入力で下書きしています。
以前、https://jeccica.jp/voice-first-experience/ でご紹介したとおり、音声アシスタントの用途は「検索」が上位30%前後を占めているそうです。特にテキスト検索の時よりも、くだけた言葉で「質問」され、もっとニッチでパーソナライズされた結果を好む傾向にあるそうです。このあたりは、GoogleのSEO担当者も含めて、米国SEOの権威でもある「Moz」のコミュニティで、音声SEOの発言をみかけることが多くなってきました。キーワードは、「カジュアルな言葉で質問」「ニッチな要望に応える」「よりパーソナライズされた回答」といったところでしょうか。そろそろ思考回路にこうした音声入力の選択肢を加えておく準備をしておいても良さそうです。
■AIによるホームページ・オートメーション
パーソナライズといえば、ホームページそのものも、いつまでも「全員がわかりやすいホームページを設計する」と古い発想では出遅れそうです。テクノロジーはすでに「来訪したユーザが求めているホームページ」を変幻自在に形を変えて表示できるように進化しています。新規ユーザなのか、リピータなのか、上顧客なのか、どの商品を欲しがっているのか、などを見極め、彼らが求めているゴールに到達しやすい店構えに瞬時に切り替えてくれます。つまり、32歳男性インドア派の常連のAさんが見た時と、52歳女性アウトドア派の初めて来店したBさんが見た時では、あなたのホームページは変化しなければならないのです。こうした問題を解決するのが「レコメンドエンジン」だったり「パーソナライズドエンジン」といった最新のテクノロジーになります。ユーザの行動パターンや興味関心にあわせて、ファーストビューやバナー、ログイン、おすすめ商品の並び替えを自動で行ってくれます。ただ、自社だけでは元々のデータ母数が少ないために、オープンな機械学習データセットや外部プラットフォームと連携した上で、AIなどの機械学習を取り入れて補完してあげる必要があります。
とはいえ、実際にこうしたサービスを労力をかけて実装してみると、意外にガッカリすることもあります。というのは、ユーザは自分の興味関心よりも、あなたからの「強烈なオススメ」に心を動かされ購入することがしばしばある、ということです。秋の空のように移り気なユーザのニーズに対応する一方で、「コレがオススメ!」と熱があるお店の一声が購入を促します。消費者はわがままな反面、お店の上手なエスコートを求めています。こうしたユーザのハートに寄り添ってあげないといけないですね。
今、米アマゾンでスタートしている実験的な試み、自撮り専用デバイス「Amazon Look」は失敗するかもしれませんが、ある意味、アマゾンの本質を捉えたハードウェアサービスとして注目しています。「明日、映画に行くにはどちらのコーディネイトがいいかな」と、この「Amazon Look」で複数のコーディネイトを撮影し、専用のSNS「Spark」に投稿することで、一般ユーザからの投票が得られる、という仕組みです。まさに、アマゾンの「ヒトのレビュー頼みで判断する」という特性をうまく活用した仕組みです。とはいえ、まだ課題が多いらしく、レビューを書くヒトのモチベーションにつながるアソシエイトシステム的なしくみの拡充などが課題とされているそうですが、なんだかんだ言って、AIではなく、ヒト頼みのアマゾンのこうした取り組みはちょっと好感が持てます。
■生体認証IDの行方
Apple は iOS 11 の Safari 更新で、従来のCookieによる広告行動追跡を否定したかのような機能(ITP)をリリースしましたが、その一方で、従来のパスワードの代わりに指紋認証、顔認証と、積極的に生体認証IDを採用しています。正直、暗がりでは使えなかったり、眼鏡を外してると識別してくれなかったりと、顔認証の不便さ満載の一方で、Appleがここまでこだわるのは何故だろう、という疑問を、中国のAI+生体認証ブームが答えてくれているような気がします。もちろん、Appleは顔認証データ(Face IDデータ)やその属性は公開しないものとしていますが、サードパーティ製のアプリで流用されれば外部企業のマーケティングに利用されかねない、という問題をはらんでいる、ちょっといわくつきの技術でもあります。
で、Appleの顔認証IDとはまた別ですが、米国同様に高い技術レベルを持つ中国では、また、プライバシー意識ではある意味、日本の数年先をゆくチャレンジングな中国だからこそ成立する、顔認証IDによる個人認証の便利なサービスが先行し充実しています。空港の搭乗ゲート通過、ATMでの引き出し、遊園地の入場券代わりなどがそれです。Appleの顔認証も、なにもスマホにログインする時だけ使われているわけではありません。Apple IDや Apple Payと連携しているので、音楽の聴取履歴や購入履歴もと紐付いているわけです。多分、Appleはやらないと思いますが、他の企業の生体認証IDでは、リアル店舗で顔を見せるだけで、オススメの商品が提案される、といった日も近いかもしれませんね。
■LINE@のEC活用
LINE@といえば、ラーメン屋や居酒屋に設置されているクーポン付きのQRコードを思い出される方も多いかもしれません。ただ、目で見て分かるほど、イーコマースでもその威力が発揮され始めています。特にフキダシや画像送信とは異なる「リッチメッセージ」機能は、LINEの画面いっぱいに訴求することができるので、この活用方法には熟達しておく必要があります。基本は週一回、4回に3回は売らない、というところから始められてみてはいかがでしょうか。
■チャットボット開発
それがテキストであれ音声であれ、サイト上単体や、LINE@やFacebookメッセンジャーなどのアプリとの連携するにせよ、チャットボットがコンバージョン率を間違いなくアップさせます、と言い切れる段階になってきました。特に効果が発揮されるのがスマホ。ディープラーニングや機械学習である必要はありません。単純なシナリオベースの質疑応答を用意しておくだけで相当な効果を発揮してくれます。
■最後に:あなたのお店の魅力磨き
このように、時々刻々と進化してゆくテクノロジーですが、それが往々にしてお店や個人の個性やディティールを失わせてきたことを何度も目にしてきました。AIやチャットボット、音声アシスタントなども然りです。「売れるネットツールです!」といった言葉に煽られて、安易に手を付けた日には、没個性以外の何者でもなくなり、価格競争の闇世界へとまっしぐらです。あなたのお店は最新テクノロジーを身にまとった「量産型ザク」でしょうか、オズの魔法使いに出てくる心を失った「ブリキのきこり」でしょうか。
2018年は昨年にも増して、大きな技術革新が次々と起こる年と想定されます。でも、お客様があなたのお店を選んでくださる理由をしっかりと知り、磨き続けてさえいれば、テクノロジーを導入するタイミングが多少遅れても大丈夫、そうしたキモチで、技術や薄っぺらな情報に振り回されないことこそが、イーコマースの店舗としていちばん大切なことではないでしょうか。
株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博
営業時代に開発した顧客管理システムで営業業績を伸ばし1997年にシステムを売却。2000年、EC立上げ初年度で月商1億円に急成長するも数年後に上場失敗。新たなECを3年で年商20億円に成長させ、2006年株式上場。同年に保有株を売却し海外視察の後、2011年「小よく”巨”を制す」を掲げ株式会社ISSUNを立上げ、WEB/ECの運営・制作・コンサルティングで、業界No.1に成長するクライアントを多数抱える。