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2022年末、EC市場の現在地をあらためて考える

2022年最後の原稿となります。本年もEC業界では様々なニュースや動向がありました。それらの内容を一つひとつ見ると実に多彩なテーマやジャンルに及んでおり、引き続きEC業界はアグレッシブであるように見受けられます。そこで今回のコラムはあらためて日本におけるEC市場の現在地について私なりに想うことを独自の視点で書かせて頂きます。

市場規模のおさらい
経済産業省電子商取引市場調査によれば、2021年の国内物販系BtoC-EC市場規模は13兆2,865億円、EC化率は8.78%、前年からの伸長率は8.61%、増加額は1兆532億円です。楽天市場がスタートした1997年をEC元年と位置付ければ、我が国のEC市場は誕生してから既に約四半世紀という長い時間が経過しているわけですが、それでもなお高い成長率を維持しており、比類なき巨大な市場を形成していると見てよいでしょう。カテゴリー別に見ると「食品、飲料、酒類」「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」「衣類、服装雑貨等」「生活雑貨、家具、インテリア」の4カテゴリーが2兆円を超えており、合計で市場規模全体の73%を占めています。またスマホ経由の市場規模は6兆9,421億円で市場規模全体の52.2%となっており、時代の流れに即してスマホでのEC利用率が上昇している点も特徴的です。

CAGR(年平均成長率)は下降気味
このように書くと順調にEC市場が成長している様に見えますが、実は私は少し違った見解を持っています。理由は次の通り。まずEC市場全体を俯瞰すべく長期時系列でEC市場規模の推移をグラフ化してみました。

国内物販系BtoC-EC市場規模の推移(単位:億円)

5年間隔でのCAGR(年平均成長率)を計算したところ、2006年→2011年は16.91%/年、2011年→2016年は11.67%/年、2016年→2021年は10.67%/年という値になります。しかしながら既知の通り2020年はコロナ禍においてEC業界には巣ごもり消費という追い風が吹きました。そこで2019年→2020年の伸長率を前年と同等との仮定を置き計算しなおしてみたところ、2020年には1兆3,676億円の押し上げ効果があったと推定されます。この押し上げ効果を取り除いてあらためて2016年→2021年のCAGRを計算してみたところ8.29%/年という理論値になりました。つまり2006年から2021年までのCAGRを5年刻みで捉えれば16.91%、11.67%、8.29%と着実に下降線を辿っていることがわかります。ただし誤解を与えないように申し上げると、下降線を辿っているとはいえ四半世紀が経過してもなおこの成長率は驚きであり、まだ伸び代を残している点は特筆すべきでしょう。

今後5年間の予想
ではこれからのEC市場規模の成長予想ですが足元の状況として2022年を見てみましょう。本稿の執筆時点でまだ2022年は終了していませんので材料は不十分なのですが、経済産業省の電子商取引市場調査を担当していた際のノウハウに基づき限定的なリソースを用いて試算したところ、2022年のEC市場規模は前年比5%前後のプラス、金額では14兆円前後と推定されます。コロナがなかなか終息しませんがコロナ対策の徹底や人々のコロナ慣れということもあって人流が大きく増えています。結果的にリアル店舗の売上が増加していると考えられEC市場にはコロナ特需の反動が確実にきていると見られます。前述のように長期トレンドで見ればCAGRは下降線です。2022年の伸長率を仮に5%とすれば、2023年以降も5%かそれを若干下回る伸長率で推移するものと考えるのが一般的でしょう。つまり2021年→2026年のCAGRは最大で5%/年、場合によっては3~5%/年で推移するかもしれません。

ポジティブシナリオかネガティブシナリオか?
これが意味するところですが、既に日本のBtoC-EC市場は緩やかな成長期に移行していると言えるでしょう。マクロ的な視点に立ちEC市場にプラスに作用する何らかのポジティブな変革が生じなければ上述の通り2026年までは最大で5%/年、それ以降は3%/年という成長に止まってしまうことも予想されます。そうすると最悪の場合2030年前後に市場規模が20兆円で頭打ちとなってしまうことも考えられます。しかしこれはあくまでもネガティブシナリオですので、EC業界に身を置く者としてそうならないことを祈るばかりです。ですがこのようなネガティブシナリオが現実問題としてEC業界に突き付けられるのであれば、関係者全員が緊張感をもつ必要があると考えます。逆にEC市場にプラスに作用する革新的な出来事や社会変革が生じれば、さらなる成長を目指すことができるでしょう。ECにおけるサステナビリティの実現、D2C、ライブコマース、SNSマーケティングなどアクティブなキーワードがEC業界には存在しますので、大いに期待したいところです。

これからはより大胆な戦略が必要に
ともあれ、長期トレンドで見たところEC市場の伸長率は下降気味(ただし決してマイナス成長ではない)であるという点は事実です。実は私は約1年前の原稿で2027年に22兆円という予想値を算出し執筆しました。まさに本コラムはその下方修正のような内容になっています。本コラムのタイトルであるEC市場の現在地ですが、成長ステージから成熟ステージへの切り替えのタイミングがまさに今であると私は考えます。個々のEC事業に関して言えば、従来の取り組みの延長線上ではなくより大胆な戦略が必要になってくるのではないでしょうか。ECに限らずあらゆる市場は永遠に成長するものではなくどこかで頭打ちとなり、その後はパイの奪い合いになります。まだ間に合うのでネガティブシナリオを念頭に置いた上で先を見据えた新たな戦略を計画実行されることをEC事業者には期待しています。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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