2020年代のEC構築・開発のやり方
コロナ禍の影響により、ECに注目・期待が寄せられはじめた
長引くコロナ禍の影響により、リテールをはじめとする多くの業種・業態が「販路や売り方の変革」「ビジネスモデルの変革」を迫られていることと思います。コロナ影響により店舗事業が苦戦する一方で、「急にECに注目・期待が寄せられはじめた」そんなリテール企業も多いのではないでしょうか。
実際、「OMO(Online Merges with Offline)」「DX(デジタル・トランスフォーメーション)※」という言葉が、自然に、当たり前のようにリテールのビジネスの場で使われるようになってきました。生活者・消費者自身や、それを取り囲む環境が「OMO」という状態にあり、またコロナ禍によって「オンラインへの偏重」が加速する中、それに応じて、必然的にリテール企業の活動も「OMO(対応)」してきているのだと感じます。
(※「DX」とは、デジタルを活用することで、ビジネスモデルに変革を起こしたり、競争優位性を高めること。)
「2010年代のEC構築・開発のやり方」してませんか?
OMO時代において「常時オンライン、スマホ×ネットでショッピング技術が著しく向上」し、またコロナ禍のもとで「オンラインへの偏重、消費の再定義・再選別が起こっている」生活者・消費者に対し、リテール事業者はスピード感を持ち、柔軟に、試行錯誤しつつ「ニューノーマル時代」におけるビジネスの新たな道を見つける必要があります。
昨年の緊急事態宣言発令以降、「OMO」「DX」を冠したプロジェクトを掲げ、ECサイトを新設・増設したり、リニューアル・リプレイスや機能追加改修を行うリテール企業は急速に増えました。ですが、ECの現場では相変わらず「2010年代のプロジェクトの進め方、開発の仕方をしてしまっているな……」と感じることがあります。
「2010年代のプロジェクトの進め方」と言っているのは、例えば「半年~一年以上にも及ぶ長期のEC構築プロジェクトを立ち上げ、壮大なRFP(提案依頼書)を書き、複雑なシステム構成を組み、ふんだんにカスタマイズを施し、大きな投資をかける」……そうしたやり方のことです。これが必ずしも良くないと言っているわけではありませんが、スピード感を持ち、柔軟に、試行錯誤しつつ新たな道を見つけるうえでは、マッチしていませんよね。
「大掛かりなスクラッチの自社システムや自社リソースでどこまでやり続けるのか」「長期のプロジェクト、多額のシステム投資の結果として何を得られてきたのか」。システム群の全容把握の困難さ、保守やアップデートにかかるコストの高さ、さらなるアップデートやリプレイスにおけるリスクの大きさなどから、2010年代によく見られたこうしたEC構築・開発のやり方は、見直すタイミングが来ているように感じます。
2020年代のEC構築・開発のやり方
実際、「当社はこういう独自仕様にしないといけない」「現場の運用フローや他システムに合わせ、こういう複雑な連携ができないといけない」そういった壮大なRFPをECシステム会社さんに提出・依頼しても、以前のように二つ返事で引き受けてもらえないケースが増えてきました。
システム群の全容把握の困難さ、保守やアップデートにかかるコストやリスクの高さは、それを引き受けるECシステム会社さんにとっても同様に大きな負担・リスクであり、好ましい案件でなくなってきたという事情もあるように感じます。
オンラインがオフラインを包含する「OMO時代」、そして誰も想像し得ないほど生活者・消費者の行動変容が起き、なお現在進行中の「with コロナ時代」を迎えた2020年代、事業者はどんなEC構築・開発のやり方をすればよいでしょうか。
スピード感を持ち、柔軟に、試行錯誤しつつ「ニューノーマル時代」におけるビジネスの新たな道を見つけるためにも、「完全な形でなくとも、いかに素早く対応できるか」「急速に変容する生活者・消費者の行動やニーズに対して仮説を立て、検証や改善を繰り返していけるか」が、より重要になってくるはずです。
●「すぐ始められる」スピード感
●「スモールスタートで始められる」安価さ
●「デザイン・レイアウトや機能をすぐ切り替えたり、追加できる」柔軟さ
ECを使って「ビジネスの中で何を実現できるか。お客様に対し、どんなエクスペリエンスを提供できるか」。この点の追求と、そのための素早い検証・改善の繰り返しこそが、「OMO時代・with コロナ時代の活路の見い出し方」であり、それを実現できる「プロジェクトチームの組み方、意思決定のプロセス、ECシステムや協力会社の選定、開発・制作・運用の体制」がポイントになってくると思います。
事業者側が一方的にガチガチなカスタマージャーニーを描いてみたところで、お客様がその通りに動いてくれる時代ではありません。少なくとも、それに半年~一年かけてシステムの要件定義をしている場合ではありませんよね。
従来リテールの喫緊かつ生き残りをかけた課題
2020年代、「OMO」が当たり前になっていく中で、生活者・消費者を取り巻く環境やその行動に合わせるように、リテールビジネスも急速に「デジタル偏重」「オンラインへシフト」してきています。EC(やデジタル)は「専門的なもの、専門の部署のもの」「単体のもの」ではなく、オフラインの場を主戦場としてきた部署の業務と融合し、企業全体で一つになっていく。
これは、「リアル店舗(リアルチャネル)とEC(デジタルチャネル)をどのように融合できるか」「どのようにそれぞれの役割を再設計し、一つの主体として有機的に機能させられるか」という、従来リテールの喫緊かつ生き残りをかけた課題と言ってよく、ここで重要になってくるのは、壮大な要検定義・複雑なシステム連携や重厚長大なスクラッチのシステムなどではなく、ビジネスそのものの再設計であるように思います。
例えば「D2C」という業態が、従来リテールに比べてよりOMOを体現しているように見える・感じるのは、D2Cの成り立ちが「そもそもOMOがベース」になっていることはもちろんですが、「オンライン(~オフラインを)駆使した、一貫したエクスペリエンスデザイン・サービスデザインがなされていること」「(事業規模も含め)企業が一つの主体として顧客に向き合いやすいこと」が挙げられるでしょう。
これはコロナ禍において、「オンラインへ偏重」「消費の再定義・再選別」が起こっている生活者・消費者に対し、リテール企業がオンライン~オフラインを融合・駆使することで、「どのような価値を伝えられるか」「どのようにして継続的な関係を構築できるか」そうした、「これからのブランディング・マーケティングの方向性そのもの」と言えそうです。
JECCICA特別講師 唐笠 亮
株式会社パルコデジタルマーケティングのコンサルタント。数々の専門店・ショッピングセンター等を背景とした大規模ECの構築やシステム連携のプロジェクトマネージャーを務める。