夜のパン屋さん
それは、夜にだけOPENするパン屋さん。
神楽坂・かもめブックスの軒先に木・金・土の19時30分~開店する「夜のパン屋さん」は、都内9店舗のパン屋さんからその日残ってしまいそうなパンが次々とやってくる、パンのステーション(2020年10月現在)。最後までパンを食べきってほしいと願うベーカリーと、1か所で複数のパンが選べることに加え、自分の買い物が小さな社会貢献になることに喜びを感じる消費者の、あったかい気持ちが交差します。
パンのピックアップと販売は生活困窮者を支援するビッグイッシューが執り行い、フードロスと同時に自立支援の一助も担います。
実は弊社が運営するフードソムリエでは2008、2009年と2年間、「食べ残しゼロキャンペーン」を実施しました。当時、まだまだフードロス問題は水面下であり、キャンペーンのスポンサーをお願いしに行った企業からは「ダイエット志向の強い女性に食べ残ししないようになんて言ったら企業イメージがダウンする」などと言われることも少なくありませんでした。しかし実際には2400人を超える食に関心の高い女性たちが、食品ロスを我が家でどう減らすか?というテーマに沿って、たくさんのアイディアや宣言をしてくれ、料理研究家からは食べ残しを減らす多数のリメイクレシピが集まりました。
12年の時を経た今、「フードロス」は社会問題として誰もが認識するテーマとなりました。時代の移り変わりとともに、社会問題をビジネスで解決することは当たり前の世の中に。アウトサイドイン、外的要因から問題を特定し、課題を解決する仕組みづくりや商品開発によって、社会に役立つ形で経済行動を推進していく。コロナはまさにそんな時代の価値感を加速化させ、時計の針をぐんと一気に進めてくれました。
そんな中タイミングよく、ずっと温めていた企画が「夜のパン屋さん」がローンチしました。
私の地元・北海道十勝に8店舗を展開する満寿屋商店は、数年前からその日売れ残った自社のパンを繁華街にある1店舗に集め、深夜営業のパン屋をやっていました。「これを東京でやれたら!」と考えたのです。
「パン屋の食品ロスが非常に多い」ということをデータで確認し、パン職人にもヒアリングをする中で、廃棄率の高さと同時に大切に作ったパンを自ら捨てるのがどれだけ辛いかを痛感しました。最後まで食べきることが出来たら…そう思って色々な方に相談・打診していた中で、料理研究家・枝元なほみさんが共同代表を務める、路上生活者の自立支援を行うビッグイッシューのチームが名乗りを上げてくださいました。このことにより、フードロスだけでなく、ピックアップ&販売で『小さな商い』を作ることに成功したのです。
9月からプレオープンを重ね、10月16日世界食糧デーにOPEN。毎週木・金・土の19時30分~東京・神楽坂にある「かもめブックス」の軒先を借りての営業です。
私たちの想像以上の反響で、毎日お客様は列を作って下さり、国内の新聞・雑誌・TVなどの各種メディアはもちろん、中には海外メディアからも取材が入りました。また、一番反響が大きかったのはSNSで、たくさんの方がTwitter、Facebook、Instagramを見てお越しくださいました。
慣れないオペレーションの中、貴重な時間を使って列に並んでくださるお客様お一人お一人とお話をすると、お客様自身の中にある「フードロスや社会問題に対するアクションへの想い」を受け止めることが出来ました。これまでエシカル消費をテーマに様々な活動をしてきましたが、自分の肌で実感ですることができ、プロジェクトが実現できてよかった…そう思えた瞬間でした。
現状、課題はまだまだあります。その日に入荷するパンの量は店舗ごとにまちまちで、人気のお店ばかりですから中にはパンが売り切れて入荷がない日もあります。現在はアナログで処理をしていますが、これらは今後全てIT化し、入荷状況のお知らせメール、売れ行き状況、金銭授受、店舗への支払いやなど全てをオンラインで処理できるようにしていく予定です。
また、現在は1店舗での営業ですが、同じ悩みを抱える複数のパン屋さんから問合わせが来ており、まずはこれを継続すること、次に複数店舗での展開を視野に入れていくこと、そのためにノウハウをためていくことが非常に重要だと思っています。
個人的には将来的にはこれを物流網として活かすことが出来たら、また新しい次のビジネスにつながるのではないか…と妄想しています。継続への道のりを丁寧に作っていきたいと思っておりますが、まずは一歩を踏み出すことが何より大切だと改めて痛感しています。アイディアは誰でも思いつきますが、アクションする人としない人では大きな差がつくのです。行動こそが社会と自分を成長させていく唯一の糧であると、今回も教えてもらいました。
JECCICA客員講師 北村 貴(きたむら たか)
株式会社グロッシー 代表取締役