食品消費税を1%とする政策案が議論に
ご承知のように、政府にて食品の消費税を1%に減税する案が議論されています(※本稿執筆時点)。これは物価高対策の一環ですが、消費減税に関してはマクロ経済の専門家の大半が反対しているなど、実効性があるのか疑わしい気がいたします。しかしここは政治的な方針について論じる場ではありませんので、その代わりに、仮に食品消費税が1%となった際、EC市場で起きうることについて、私なりの仮説を述べてみたいと思います。
ECでの販売価格は実店舗よりも低く抑えられている
そもそも物価高とECはどういう関係にあるのか、消費者物価指数と3大ECモール(Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング)の平均購入単価を比較してみました。21年1月を100とする指数で25年12月までの推移を見ると、消費者物価指数はほぼ右肩上がりに上昇し、2025年12月には122.9となり、5年間で22.9%上昇しています。
一方、ECモールの平均購入単価は月ごとの変動が大きく、物価指数とは異なる動きを示しました。特に11~12月はブラックフライデーや年末商戦の影響で平均購入単価が大きく上昇しており、高額商品の購入増加や価格改定の影響が考えられます。しかし、それ以外の時期は消費者物価指数を下回る水準で推移する傾向が見られました。総じてEC市場では価格競争が激しく、実店舗よりも販売価格が抑えられていることがわかります。

食品消費税が1%に減税されたらどうなるか?
ここで、仮に食品消費税が1%に減税された場合を想像してみましょう。物価高騰対策として食品の消費税率が引き下げられると、家計の負担が軽減されるため、食品への支出は増えやすくなります。その結果、需要が高まり、食品価格の上昇につながる可能性も考えられます。いわゆる「デマンドプルインフレ」の考え方です。ただし、こうした影響はすべての市場で同じように現れるわけではありません。供給量を増やしにくい生鮮食品などでは価格が上昇しやすい一方で、競争の激しい市場では価格よりも販売数量の増加という形で需要が表れることもあります。そのため、減税による効果が市場ごとに異なる点には注意が必要です。
EC市場は食費消費税の減税でリアルよりも有利に
EC市場は、その代表的な例といえるでしょう。ECでは価格比較が容易で、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどのモール内では多くの事業者が競争しています。本分析でも、2021年から2025年にかけて消費者物価指数は約23%上昇した一方、3大ECモールの平均購入単価はそれほど上昇していませんでした。この結果からは、ECではコスト上昇や需要増加があっても、販売価格へ転嫁しにくい市場構造がうかがえます。食品消費税が引き下げられた場合でも、マクロでは需要拡大による物価上昇圧力が生じる可能性はありますが、ECでは価格競争がそれを吸収し、価格よりも販売数量の増加として表れる可能性があります。物価高が続く中で、ECは消費者にとって価格メリットを維持しやすい販売チャネルの一つといえるのではないでしょうか。
消費マインドの改善がEC市場全体へ波及する可能性
食品は生活必需品であり、ほぼすべての消費者が日常的に購入する商品です。そのため、食品分野で家計負担が軽減されれば、可処分所得の増加だけでなく、消費者の節約意識が和らぎ、消費マインドの改善にもつながることが期待されます。その結果、日用品や化粧品、家電、ファッションなど、これまで購入を控えていた商品へ支出が広がる可能性もあるでしょう。ECは幅広い商品カテゴリーを取り扱う総合的な販売チャネルであり、価格比較のしやすさや豊富な品揃えという強みを備えています。こうした特徴から、消費者の購買意欲が高まった際には、その需要を幅広く取り込める市場と考えられます。食品の消費税率引き下げは食品市場だけにとどまらず、消費全体を下支えする契機となり、その恩恵がEC市場全体へ波及することも期待されます。