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なぜに保険会社とOpenAIが?

2026年3月4日付で日本生命保険の米国子会社 Nippon Life Insurance Company of Americaが、OpenAI社(ChatGPTの提供会社)に対して提訴したというニュースがちょっとした注目を集めていることはご存じでしょうか。

なぜに保険会社とOpenAIが?資金運用でChatGPTの回答を信じて被害を受けたとか?などと下衆な興味本位で見始めたところ、そのレベルではない、かなり奥深いテーマがあることが見えてきました。

この訴訟はAIの規制あり方や、訴訟文化の指し示す方向性に一石を投じることになりそうです。

訴訟の背景

ことの発端として、過去にあった日本生命の米国子会社と、その保険加入者であった女性との間で起きていた訴訟があります。これは障害年金の給付をめぐるものだったのですが、訴訟自体は2024年1月に終結していました。

しかし女性はその結果に納得できなかったのでしょう。和解成立後も、自分と弁護士との間でやりとりしたメールや和解内容をChatGPTに相談し続け、その結果ChatGPTは弁護士の発言に疑問を示したうえで、以下の回答を行ったとされています。

① 和解を覆す可能性を示唆
② 再訴訟の文書を作成

女性は①を信じて弁護士を解雇し、②の書類をもとに再度日本生命の米国子会社に対して申し立てを行ったとされています。

通常、終結した裁判については既判力が働き、同じ係争を申し立てることはできませんので、当初は裁判所もこの申し立てを却下したものの、この女性はめげずにChatGPTに相談し、複数の異なる理由で申し立てを行ったといわれています。

裁判を起こすこと自体は自由ですし、明らかな却下事由がなければ裁判所は対応せざるを得ず、また日本生命側もその対応に膨大な金額と労力を費やさざるを得なかった、ということが冒頭に記載した3月4日付のOpenAI社への提訴の大元にあります。

3月4日付の提訴内容

一般的に考えれば、膨大な金額と労力を発生させたのはこの女性ですから、この女性を逆に提訴するのがセオリーかと思いますが、日本生命側はそれを行わず、OpenAI社を訴えた、ということがこのニュースの肝です。

もちろんシンプルな理由として、この女性に勝訴しても賠償の資力はなく、訴訟するだけ無駄と判断したのかもしれませんが、一方で金銭的賠償を望むよりも、こういった訴訟の乱発はChatGPTが生み出したものと考え、AIの在り方の是正の方を望み、OpenAI社を訴えたとも考えられています。

請求内容

ロイター通信の報道によると、この提訴による請求内容は主に以下2点です。

1. いわゆる「非弁行為=違法行為」の認定と差し止め

AIが①の法律助言や②の文書作成を行っていることは弁護士法上違法行為であると認定するよう請求。また、これらの行為を差し止めるよう求めています。

2. 損害賠償(多大な被害が発生した、という明示)

本訴訟での損害賠償請求額は約1030万ドル(約16億円) 。しかしその内訳としては実質的な損害補償というよりも、ChatGPTの行為によってこんなに被害を生むことがあるということをOpenAI社や裁判所に明示するための懲罰的損賠が多くを占めています。

現在のAIの非弁行為の可否について

米国でも日本でも、法律上「人」が弁護士資格なしに法律業務を行うことを禁止しており、弁護士資格のない人が法律相談に乗ったり、代理人として活動することは違法です。

しかしAIは「人」ではなく、今の時点で非弁行為をAIがやってはいけないという規定がないのです。もちろん明確な判例もないため、グレーゾーンといえる状態です。

調べたところ、このグレーゾーンを避けるため、OpenAI社では利用規約やポリシーで次のような制限があるようです。

  • 法律アドバイスの提供は禁止
  • 医療・金融など専門助言も禁止
  • 必ず専門家に相談するよう促す

逆にAIがやっていい範囲としては「一般情報」のみの提供。法律関連では 「法律制度の解説まで」という建て付けで、設計的にも『あなたはこの裁判に勝てます』等の具体的な法律助言は避ける設計になっているそうです。

しかしながら「一般情報」と「法律制度の解説」を駆使した結果が非弁行為になってしまうのも事実。そもそも訴状はほぼテンプレートですし、過去の判例を照らし合わせれば、あら不思議、ChatGPTの回答だけで弁護士なしに訴訟準備が完了してしまいます。

この件がもたらす影響 (1) AI規制の法制化

急激にAI活用が広まっている現在、先行する米国での法制度はといえば、今まさにAIが弁護士や医師を装うことを禁止する法案が提案されている段階です。

この法案が通れば、AIが法律助言を提供しそれにより利用者が損害を受けた場合に、AI企業を訴えることができるそうですが、現在はまだ提案段階のため、今回のようなAI企業を訴えることは法的根拠のない行為ともいえます。

つまり今回の訴訟は、AI規制法案を後押しさせる可能性がありそうです。

この件がもたらす影響 (2) 訴訟文化の方向性

訴訟といえば、弁護士費用ありきの多額のコストを必要とする一大イベントですが、AI利用により弁護士なしで訴訟ができれば、一気に訴訟が身近なものになり得ます。

ここ数年日本国内では、弁護士を必要としない「本人訴訟」を後押しする動きもあり、AIの活用はそれをより加速させる力になると思われます。

一方、今回の提訴原因でもある女性の訴訟の乱発が、本当にChatGPTの後ろ盾によるものであった場合、今後日本でも同様に訴訟の乱発が起きかねないという心配も。下手すると一般人同士で訴訟を乱発し合う殺伐とした訴訟文化の未来があるかもしれず、今回の訴訟はそんな殺伐とした未来への方向性を是正する一石という面もあるかもしれません。

こういった未来への複数の影響が考えられるこの訴訟、注目したいと思います。

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客員講師

酒井 愛子

株式会社リンクにてLinuxサーバの提案営業を担当しつつ、2016年よりメール配信システム「ベアメール」の立上げを行う。現在、営業の傍ら、各ECカート会社様、ショップ様のメールやサーバインフラに関するコンサルティングを行う。趣味は銭湯巡りとはしご酒。

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酒井 愛子

株式会社リンクにてLinuxサーバの提案営業を担当しつつ、2016年よりメール配信システム「ベアメール」の立上げを行う。現在、営業の傍ら、各ECカート会社様、ショップ様のメールやサーバインフラに関するコンサルティングを行う。趣味は銭湯巡りとはしご酒。

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