商圏 と 市場規模 を考える== リアルの手法をECに
全国に「36万4千店」 日本の総人口=1億2千7百万人で計算すると、およそ「350人あたり1軒」の割合となりますが、さて、このお店は「どんな業種」でしょうか?・・・タバコ屋? いや違います。タバコ販売許可店は27万店弱なので、これよりも3割以上も多くのお店があるということなのですが。
答えはもう少し先に書くとして、まずは想像を働かせてみましょう。
人口350人当たり1軒の割合で「現在も 店が存在する」のですから、一応生業(なりわい)として成立しているわけです。もうすこし言えば、赤ちゃんからジジババまで含めた「総人口」に対しての数字ですので、「実際にこの業種のお店に行く人」を母数として考えれば、1軒当たりの人口はさらに少なくなるはずです。
日本全国に36万店以上もあるのですから、一般的には「企業というよりは家業」であろうという推測が成り立ちます。また、これだけ多くの店舗があるということは、「全国津々浦々」=かなりの田舎でも ほぼこの業種のお店があるということになります。ということは、「家族経営」規模のお店がこの業種の大多数を占めることは容易に想像がつくかと思います。
どんな業種でも、お店からの収入が 生活を維持できる最低ラインを下回った時点で、一般的には転業や廃業となります。そして その業種の「お店の数」が減っていきます。もちろん、他に収入があって「生きがい」として採算や収入に関係なく営業しているお店もありますが、これはレアケースと考えるべきでしょう。収入が生活を維持できるレベルにあるからこそ、「現在も」「36万店以上」も存在しているのです。
では、仮に家族経営のお店だと仮定した場合、1カ月にどの程度の収入があれば「生業」として暮らしてゆくことができるでしょうか。
もちろん家賃や人件費などの物価は地域差がありますが、「お店の数」に影響するのは収入が転廃業のラインを下回るかどうか?なので、ここでは地方で かつ 「持ち家 兼 店舗」の場合を想定してみましょう。
計算しやすくするために、家賃なし、世帯収入=店舗の利益 という仮定の上で考えてみたいと思います。
仮に、月収35万円が必要だとした場合、「平均の商圏人口」が350人だとすれば、350人から毎月1000円の 利益 を得られれば月収35万円になります。2カ月に1度2000円の 利益 を得られても収入は35万円となります。
一方、商圏人口は赤ちゃんからジジババまでの全てを含むので、仮におよそ8割=280人が、1.5カ月毎に平均2000円程度の 利益 を出してくれる場合、計算するとこのお店の1カ月の収入は37万円強となります。
実は 全国に36万店以上も存在している業種とは 「理容室+美容室」なのですが、髪の毛が伸びない人はごく少数なので、「商圏人口のほぼ全員」が「一定期間をおいて」「どこの店に行くか?」は別にしても、「この業種のお店」に「必ず通う」という構造になっているわけです。
前述のごとく採算面をブレイクダウンして行くと、「市場規模」と「店舗数」というのは大変整合性があることが分かると同時に、「競合状態」や「有利なエリア」なども見えてくるのです。
仮に、人口800人で近隣の町まで移動に40分以上かかる離島や山村で、唯一の「理髪店 兼 美容室」を開業したらどうなるでしょうか? 答えは簡単ですね。ハゲおやじだけの島 の様な 極端な顧客属性を持つ商圏でないかぎり、平均レベルの技術をもった理髪店 兼 美容室 であれば、競合ひしめく都市部よりも「儲かる可能性が充分にある」と判断できるかと思います。
ECの場合、黎明期から現在まで「新しいマーケット」を生み出したり、「新しい需要」を見つけてこれに対応したショップを創出したりする様なケースを頻繁に目にしてきたため、商圏人口や 市場規模と店舗数の「バランス」=競合度 についてはあまり重要視していなかった様に思えますが、読者の皆さんのご感想はいかがでしょうか。ECも黎明期の時代は終わり、成長は続いているものの そのスピードは緩やかになりつつあるのですが。
今まで、笹本は各都道府県の産業支援センターなどで長期講座の講師を務める機会も多く、その際に「うちの商品、売れるでしょうか?」という単純にして大変難しい質問をされることがあります。もちろん立場上、軽率に答えるわけには行きませんので、根拠に基づいた回答をする必要があります。
この様な時にこそ、前述の「理髪店+美容室」と同様に その商品に関する ネットの中の「市場規模」と「競合度」の考え方を利用しています。
たとえば年間の流通金額が6千億円で、4万店が出店しているモール という「商圏」を考えてみましょう。
6千億円を4万店で割ると、平均で1500万円/年 の売上=月商125万円 という計算になります。
一応これを頭に入れながらも(>川連さん やっぱ この欄は まずいかな・・・?すこしフォロー)即座には充分な売上が立たないという判断はしません。
もしもその商品の「競合度が低い」あるいは「商品力や訴求力」でトップが取れると判断できる場合には、商圏規模は大きければ大きいほど有利になるわけですので、あくまでその「商圏内」での「競合度」と 商品およびお店としての「競争力」を鑑みた上で判断しています。
では次に、検索という「商圏」のユーザーを例にとって考えてみましょう。今度はリアルの商圏分析と同様に、商圏人口の構成=「ユーザーの属性」という切り口で深堀りしてみたいと思います。
検索という商圏の「市場規模」は、単純に
キーワードの検索数 x 期待できる顧客単価 x コンバージョンレート という式で表せると思います。
キーワードの検索数については、検索広告を作る管理画面でチェックできますし、検索エンジン自体のシェアを知っていれば、日本全体でどの程度の検索数になるかも予想できるかと思います。
また「競合度」については特定のキーワードで検索してみて、サイトのヒット数や検索広告がどの程度でてくるかを参考にしながら各ショップをチェックすれば、価格や売り方を含めて把握できるかと思います。
ここまではモール商圏と同じ考え方なのですが、「ユーザーの属性」という点では充分な考察が必要です。
当たり前の話ですが、検索ユーザーは「検索をして」商品やサービスを探そうとしています。モールに直行したり、ブラウザのお気に入りから特定のショップに行ったりはしていないのです。つまり、まだどこで買うか?は決めていないということです。ポイントの付与があるから「ここで」買おうという様な指向が(今のところは)少ないと言えるでしょう。
同時に「できるだけ豊富な選択肢の中から選びたい」あるいは「どこの店でもいいから」という心理が隠れている可能性が高いユーザーでもあるので、売り手側としては「検索結果に出てくる全てのショップ」が競合店と言える環境にあります。
ちなみにPC検索ユーザーの場合、最近では「検索順位に関係なく気のすむまで探す」という傾向にあります。
スマホの場合はHPの表示スピードなどの影響もあり ある程度は 検索順位に左右されますが、スマホユーザーはSNS=クチコミを参考にする傾向も強いので、やはり「商品力とショップの訴求力」を基本として「商圏」の中で競っていく姿勢が必要になるかと思います。またSNSで話題になるだけのクォリティーを持ったショップでありたいですね。
検索という商圏のユーザーは、ショップに対するこだわりを持たず、どちらかと言えば 「細分化された」デマンド を持っているかと思います。一般的な商品を買うのであれば、最初から大手モールに直行すればいいことを誰でも知っている時代です。結果として大手モールで買うことになったとしても、検索をする段階のユーザーの気持ちとしては、特定のモールで探すだけでは(自分が欲しいモノが)見つからない可能性があると思ったからではないでしょうか。
もちろん「市場規模」÷「競合度」=「美味しいマーケット度」となるのは 検索「商圏」も同じなのですが、
前述の通り、検索商圏のお客様は かなり「細分化」された こだわりニーズ&デマンド であることに注目して下さい。(参考までに、2014年のネットユーザー700人へのアンケート結果では、1語で検索する人は6%となっています。)
例えば、財布と金運についてコメントした あるブログの記事ですが、
「純粋な黄色はパワーが強すぎるので、山吹色などのあまり鮮やか過ぎない色が良いでしょう。」この記事に反応したユーザーは、「黄色ではなく山吹色」の財布を探そうとするのではないでしょうか。
ちなみに「山吹色+財布」で ヤフーで検索したところ、本文執筆時点では「山吹色」を明記した検索広告はゼロ、ヤフーショッピングでの該当商品は30点でしたが、重複が多く事実上20点。長財布はあるものの二つ折りの財布は該当無しという結果でした。「細分化」された「競合度が低い」「美味しいマーケット」の一例です。
もちろん市場規模=「検索数」がどれだけあるかが重要なのですが、それはさておき「山吹色」という検索キーワード=細分化されたデマンドに対して、「黄色」の財布を見せているショップが いかに多いかを確認して頂ければと思います。SNS時代の今、ある日突然(黄色ではなく)「山吹色」という言葉が流行するかも知れないことをお忘れなく。
他、例えば「サイト制作」と「HP作成」という検索キーワードを比較した場合、依頼したいことは同じでもユーザーが考えている「規模感」(=例えば予算や期間)が相当に異なるかと思います。また、「サイト制作」や「HP作成」というキーワードの後に「業種や地名」をつけて検索するのが普通ではないでしょうか。
でも、検索広告もランディングページも細分化したデマンドに対応できているとは言えない・・・。例を挙げれば切りがないぐらいです。
まだまだECにおいては、たとえば検索という「商圏」の「人口構成=ユーザー属性」をきちんと把握するところまでには至っていないし、小さいながらも競合が少ない美味しいマーケットがまだまだ残っているかと思います。商圏分析をして利益が期待できる「立地」を探すのはリアルでは常識。学ぶところは多い様です。