『Web3時代におけるEC』メタバース空間の実験
『Web3時代におけるEC』
DAO、ブロックチェーン、NFTなど、Web3を構成するこうしたキーワードは、まだまだEC業界では耳馴染みがない、というお声を伺います。一方で、筆者がお手伝いするスタートアップ企業様などはWeb3分野で株式上場されるなど「ちょっとEC、遅れているな」と日々感じていました。
そこで先日、筆者が参画する「日本イーコマース学会」にて「メタバース会場での研究発表」を企画し取り組んでみたところ、いろいろと失敗やら課題が見つかりましたので、その学びなどをシェアさせて頂ければと思います。
最初のハードル「会場選び」
今回は『Web3時代におけるEC』をテーマに、Z世代の高校生や大学生が世代の異なる大人達に、ポスターセッション形式で自分達の研究を説明してもらうことが狙いです。これをメタバース会場で行います。
音声SNSのクラブハウスのような「多対多」形式のポスターセッションは、セミナーやzoom会議のような「一対多」では成立しません。ところがメタバース技術ならこの「多対多」形式の会話が成立します。まずは「無料で誰でも使えるメタバース会場」を見つけることが課題でした。下図は現時点で日本で利用できる主なメタバース空間の一覧で、ここから選ぶことになります。
EC的にご説明しますと、メタバースもEC同様「独自ドメイン型」と「モール型」に分かれます。また、その設定と運用は「難しい」「簡単」に分かれています。
簡単さでいえば、図右下の群です。特にVRゴーグルを使わずにメタバースに参加できる「スマホ・メタバース」は注目を浴びていて、そのサービスが「cluster(クラスター)」 や 「ZEPETO」 です。特にクラスターはイベント会場を数分で簡単に作成できるのですが、営利・非営利に関わらず団体での利用に、1回100万円以上かかります。これは今回の選択肢から除外せざるを得ませんでした。よく似たサービスの「DOOR」はほぼ「クラスター」と同機能で無料で使えますので、まずは候補としました。
なお今回は「誰でも使える(運用できる)」という条件に当てはまらなかったため、選択肢に含めませんでしたが、図中の「難しい」に位置するVR-CHATやオープンソースの hubs cloud も自由度が高く多少のスキルさえあれば作成・運用可能です。例えるなら、hubs cloud でメタバース空間を作るということは、Wordpressを使ってECサイトを構築するようなものです。その際に必要となる CSSやHTML、データベース、photoshop、javascript といったスキル群が、図中央の「Unity」というVR空間を構築・制御するツールやAUTODESK社MAYAに代表される様な3Dモデリングツールのスキルや知識にあたります。
一方で、ブラウザ上で「マインクラフト」気分でメタバース空間を構築できるのが、クラスターやDOOR、ZEPETOです。
結論からいうと、今回は図中左のECに特化したメタバースサービス「V-air」を導入しました。ECつながりということで、価格面や機能面で色々と実験的な試みにも協力を得やすかったからです。
最大25名収納の会場に90名が!
メタバース空間自体はV-airを運営するUrth社が作成してくれますので、あとはおおよその収容人数などの仕様を決めて、諸々の細かな設定の調整です。発表者は4名、来場者9名、静かな美術館のような空間を想定しています。
メタバースの特長は、zoomのような一対一の会話ではなく、音声SNSの「クラブハウス」のような、多対多の会話が技術的に成立している点です。このため、「近い人の声はよく聞こえ、遠い人の声は小さく聞こえる」という技術調整を事前に完了しておくのですが、ここは今回のイベントでは最重要ポイントなので、かなり念入りにテストして準備していました。ところが実際には、発表者が増えたこともあり最大30名収納の会場に90名がお越しになるという、下図のような大盛況となってしまいました。
大盛況でうれしい反面、音声は大混線状態です。直ちに「音の壁」や「距離と音量の調整」といった対策を試みますが、参加者に会場を「再読み込み」してもらわないと変更が反映されません。すでに大宴会の状態となった会場です。私たった1人が「再読み込みして下さ〜い!ちょっと聞いて下さ〜い!」と叫んだところで反応なし。しかたなく1人1人に、テキストチャットで会話してもらったり、隣の説明が終わるまで説明を休憩してもらったりとカオス状態が数分続いてしまいました。実験的イベントとはいえ、各ご参加者様には相当なフラストレーションを与えてしまったと反省です。
閉会後、数名でメタバース会場にて反省会をおこないました。結果的には、久しぶりに大勢と会話ができた、など総じてポジティブな評価をいただけたということで、次回も開催しようと言うことになりました。個人的にうれしかったのは、ある先生からの「学生が大人にあまり臆せず会話ができていた」という声です。
筆者がメタバースECに期待していることは「メタバースなら、2人以上で買い物体験できる」という点です。
この図の女性は、中学生、お母さん、離れた実家のおばあさん、が、百貨店と若者向けファッションビルを行き来して、買い物を楽しんでいる、という想定です。メタバースなので「複数名の会話が成立する」「アバター効果で見た目的にも心理的にも年齢差が無くなる」「お金を出してくれる人が一緒にいる」など場所の成約を受けずに、買い物が活性化する条件を満たしてくれます。
今回は、こうしたECの売り場を想定した「ポスターセッション」という多対多の会話の場を設計し運営できたことは貴重な体験でした。次回はぜひ、今回は行えなかった「行動解析のパーミッション取得」「会話ログ収集」「AI接客ボット」などにもトライしてみたいと考えています。
JECCICA客員講師 宮松 利博
得意分野/Eコマースの立ち上げ・販売拡大
1998年に公開したフリーウェアがヒット。その知見で開発した商品が大手ECコンテストで12部門受賞、3年で年商20億円に(現ライザップ)。上場と同時に保有株を売却し、ECコンサルティング会社を立ちあげ、業界No.1クライアントを多数抱える。日本イーコマース学会専務理事。