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買えるだけのECサイトは勝ち残れない。消費者の所属意識を高めるUXとは

「UX(ユーザーエクスペリエンス)」という言葉はご存知でしょうか。本コラムでは、WebサービスやECにおける顧客接点・コミュニケーション、UXの変化についてと、その設計について筆者が重要だと感じている点をご紹介したいと思います。

UXとは
UXと併用されることが多い「UI」についても、混同しやすいのでおさらいしておきましょう。UIとは、ユーザーインターフェースの略で、人間の身体活動とコンピュータやシステムとを紐付け、思考と操作の橋渡しをし、人間とコンピュータ・システムとの関係を築くものです。ここでは、視覚的な分かりやすさや操作のしやすさ、直感的な分かりやすさと考えていただいて大丈夫です。
UXとは、ユーザーエクスペリエンスの略で、前述のUIを通してコンピュータやシステム、サービスを使用・利用した際の知覚や反応のことを指します。例えば、「ECサイトで商品を購入しようと思ったが、会員登録の項目が多くて諦めた」という不満や、「欲しい商品をすぐに見つけることができ、購入した」という満足といった反応です。
「エンジニアにもデザイン思考が必要」「デザイン的に優れたインターフェイスとは?」といった風に、UIやUXはWebデザイナーやエンジニアの視点で語られることが多い言葉ですが、WebサービスやECに携わるすべての人にとって重要な概念です。

消費者の購買行動の変化とUXの重要性
消費者の購買行動は、この10年程度で急激に変化しました。主な要因は「スマートフォンの登場/インターネットの普及/Webコンテンツの増加/情報の検索性の向上」の4つからなると考えます。特にスマホ、2007年にiPhoneが登場したことが大きく、私たちはスマホからインターネットに接続することで、いつでもどこでもWeb上の情報を調べる・知ることができるようなりました。その結果、それまで調べること(情報の検索)に費やしていた時間・熱量・手間は大幅に軽減され、また、収集した情報をもとに最適な行動を選択することが飛躍的に容易になりました。
なぜスマホはここまで普及したのでしょうか。それはスマホが、ストレスを感じず、まるで自分の体が拡張されたように感じる、「それまでのデバイスに比べて段違いに使いやすいUIを持っているから」でしょう。スマホが普及する前と後で、消費者が接する情報量は、数百倍とも数千倍とも言われます。
同時に、大きな課題も浮かび上がってきます。それは、消費者に対して「実際に行動を起こさせること」です。せっかく自社のECサイトにたどり着いてもらうことができたとしても、売上につながらなければ意味がありません。そこで、消費者に実際に行動を起こしてもらう、つまり「自店を選んでいただく」「自店で買っていただく」ためのUX設計が非常に重要になってきます。

競合要件における優位性のワナ、カエルパルコのUX設計の例
一般にECサイトは、広告を出稿して認知を高めたり、商品力・商品数や価格、送料の安さや配送スピード、割引やポイント、独自のサービスといった「競合要件における優位性」を高めるべく、努力しアピールし続けます。しかし、競合要件における優位性とは、はたしてそれだけでしょうか。そうした競合要件において、Amazonをはじめ並み居る大手ECモールと渡り合うことができるでしょうか。消費者に「自店を選んでいただく」「自店で買っていただく」ためのUXは、もう少し違った点にポイントがあるのではと考えます。
ショッピンセンターPARCOが取り組む「カエルパルコ」を例にお話しましょう。カエルパルコは、リアル店舗の販売員=ショップスタッフが自店のブログで自撮りの写真とともに紹介・オススメする商品を、そのままWeb注文/取り置き申し込みできるサービスです。いわばリアル店舗個店が運営するブログをベースとした小規模なECサイトであるため、ECの競争要件として挙げられる、商品数や価格、配送スピードやポイントといった点での優位性は特にありません。また、カエルパルコで紹介・販売されている商品のほとんどは、メーカーの自社ECサイトや大手ECサイトで普通に販売されているものです。それでも多くの注文が入り、リアル店舗の売上向上に貢献するまでに成長しています。
これは、消費者が「一般的なECサイトよりも、カエルパルコに対して所属意識、すなわち“絆”のような濃密な信頼で結ばれていると感じているから」と考えられます。「店頭でそのショップスタッフに接客されたことがある/その店舗のブログを読んでいる/店頭で検討中にカエルパルコを案内されたので、帰宅後カエルパルコで購入してみた」など自己の意識や体験に紐付かせる力が通常のECよりも強く作用しているのです。
ECサイトの多くは、ショッピングするための拡張機能的な印象が強いため、消費者の行動や生活に溶け込んでいる感があるとは言えません。今後はこうした所属意識を感じてもらうためのUX設計・工夫が重要になってくるでしょう。

所属意識を感じてもらうためのUX
例えば、現在導入サイトが増加しているチャットツールやAIのbot。返信時間の短縮や消費者の不安を解消するツールというイメージが強いですが、インターネット上での1 to 1の双方向コミュニケーションによって、所属意識を高めているとも言えます。
また、これから本格的にトレンドが来そうな、動画によるライブストリーミングコマース。ライブストリーミングサービス(リアルタイム動画配信サービス)というと、国内ではTwitCastingやニコニコ生放送、SHOWROOMが有名ですが、InstagramやFacebook、LINEなどSNS各社がこぞってコマース機能を追加してきているあたりも、需要と将来性があることが伺えます。若年層が中心というイメージが強いですが、ユーザー層はさらに拡大していくでしょう。このライブストリーミングサービス、ECと組み合わせるとブログやSNSで紹介する以上に商品の売れ行きや販売数に差がでるようです。これは、知っている・身近に感じている人から商品を購入するというカエルパルコの特徴に、生配信という瞬間的・刹那的な時間軸という要素が加えられて、さらに購買意欲を駆り立てられるのではないでしょうか。カエルパルコではショップスタッフが、Instagramではインスタグラマーが、ECで商品を売る時代です。ライブストリーミングは、ECにおいても強固なフック・チャネルとなるでしょう。

ECサイトといえばお決まりの、トップページにメインバナーがあって、月に3~4本の企画を打って、きれいな商品画像が充実していて、カテゴリ分類されていて、送料が安くて、早く配送されて…そうした「型」にとらわれているEC事業者も少なくないのではないでしょうか。
消費者・顧客に見られているかどうかも分からない、刺さっているかどうかも分からない制作・販促活動や不毛な競争要件に時間を割くのではなく、「自店を選んでいただく」「自店で買っていただく」ための消費者・顧客の体験=「UI」の設計に目を向けてみてはいかがでしょうか。

村石さん

株式会社パルコ・シティのシニア・コンサルタント。接客販売・店舗運営を経験後、ECサイト構築・運用を経験。現在は顧客企業のECコンサルティングやオムニチャネル戦略の実行を支えている。

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