Eコマースでの返品プロセスと対応策
アメリカには返品の文化があることは、以前のレポートでご紹介したことがあります。Multichannel Merchant (MCM)による調査によりますと、下グラフのとおり、全体の3分の1以上が注文の5パーセント以上を返品しており、中でも全体の10パーセントは注文の15パーセント以上を返品していることから、返品がいかに多いかわかるかと思います。
また、FedExの顧客ロイヤルティに関するレポートによりますと、Eコマース利用者の95パーセントは、満足のいく返品プロセスを提供しているショップを再度利用すると回答しています。
その一方、32パーセントは返品ポリシーが好ましくないことからショッピングカートを放棄したことがあると回答しています。ショッピングカート放棄に関する別の調査によりますと、消費者の10人中8人は、容易な返品ポリシーがない限り、そのショップからは購入しないとも回答しています。このように、消費者にとって返品ポリシーは商品価格とともに購入にあたっての重要な要素になっていることがわかります。このことから、ショップ側は返品を減らす努力を行うと同時に、返品があるという前提で、注文から返品に到るまでの顧客経験における満足度向上の観点に沿った容易な返品ポリシーを提供する必要があると思われます。
返品プロセスにおける各フェーズとその対応には、次のようなことが考えられます。
<返品手数料>
ほとんどの消費者は、返品にかかる送料や再ストックなどの返品費用を払いたく
ありませんので、これらの返品手数料を無料にするか、もしくは次の返品可能な期間との組み
合わせで、購入後ある一定の期間は無料にするといった対策を講じることができます。
<返品可能な期間>
返品可能な期間は、30日から90日の範囲内で設定されていることが多いです。消費者の半数以上は、30日以内の返品可能期間が公平だと考えているという調査データも
あり、現在設定されている返品可能な期間は妥当と言えます。ただし、実際に返品する時期は、消費者の48パーセントが商品到着後数日以内に行なっていることから、例えば15日以内に
返品手続きが行われた場合には返品手数料を無料にするという対応も考えられます。
<返品方法>
MCMの調査では、全体の81パーセントがまだ自分たちで全ての返品処理を行っているとのことで、返品方法は返品プロセスにおいてショップにとって現時点で一番対策を講じることのできる分野と思われます。ショップへの返品希望通知後、返品ラベルの印刷、返品商品の梱包、物流業者への返品商品渡し、返送状況のトラッキングなどのプロセスの全てあるいは一部を自社もしくは第三者が提供するソリューションの利用により、プロセスの簡易化を図ることができます。
また、最近は、その簡易性からオンラインで購入し店舗で返品するという”BORIS” (Buy Online Return In Store)の利用を希望する消費者も増えてきています。
物理的な店舗も合わせ持つショップは、その物理店舗にて返品手続きを行うことは可能ですが、全ての顧客がその店舗の近くに住んでいるとは限りません。FedExでは、
消費者の47パーセントが店舗での返品の方が簡単だという自社の調査データを反映して、Walgreens、Walmart、Dollar General Storeなどドラッグストアやグローサリーストアなどと提携し、自社店舗を含む62,000以上の店舗で返品を受け付けております。これにより、アメリカ国民の90パーセントが、FedExのドロップオフ場所から5マイル(8km)圏内にはいるということです。
また、以前ご紹介したことのあるHappy Returnsは、ショッピングモールなどに拠点を構え、返品商品を持っていくだけで、ショップからの返品確認EメールやQRコードをベースにして、
梱包などその後の返品処理を行ってくれます。
<返金>
通常の返金は、ショップが商品を受け取った時点から行われ、その返金処理には5~7営業日かかるのが普通です。ただし、上述のFedExやHappy Returnsは、商品を受け取り、QR
コードなどをスキャンした段階でショップに代わりその場で返金する仕組みを提供しています。
ところで、頻繁に返品を行う顧客は問題客と思われがちですが、返品の対応次第では長期的に生涯価値を高める優良顧客になる可能性があることも忘れてはなりません。
JECCICA客員講師 渡辺泰宏
カリフォルニア在中チーフエグゼキュティブ、戦略ビジネスコンサルタント。日米の顧客に対し、新規ビシネス戦略立案および解約、新規パートナー開拓、コーポレートマーケティング、オンライン、ソーシャルメディア、モバイルマーケティングの戦略立案、EC市場動向分析及び商会等の戦略的コンサルティング。