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【カゴ落ち】についての考察

JECCICA特別講師 笹本 克

笹本さん

 

1)【 カゴ落ちの定義とデータの精度 】

まず、カゴ落ちと呼ばれる事象について【簡単に】定義をしておきたい。

ECサイトにおいて、ユーザーがショッピングカートや資料請求などの画面に到達したにも関わらず、商品の送付先や決済方法の入力を途中で止めて、オーダーを完了させずにサイトから離脱する事象を本文では「カゴ落ち」と呼ぶ。

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また、ショッピングカートなどのオーダー画面に到達したユニークユーザー数を母数にして、オーダーを完了させずに離脱した率をカゴ落ち率と呼ぶ。

但し、「カゴ落ち」および「カゴ落ち率」について【厳密に】定義するとなると未確定要素を多分に含むこととなる。

 

まず、ユニークユーザー数の定義について、曖昧さが残っている。

一般的に、複数のセッションを経た後にオーダーを完了させるユーザーの割合は大きく、1回のセッションでも複数回のセッションでも同一のユーザーであれば1ユーザーとカウントする必要があるが、

 

A:同一セッションについては、どこまでのセッションスパンを同一セッションとみなすのか?

これをどの様に定義するかにより、母数となるユニークユーザー数が異なってくる。

 

B:どの時点でオーダーを断念したと判断するのか?

セキュアな環境のユーザーは、リロードや一定時間経過後のポート変更などにより別セッション、場合によっては別ユーザーとカウントされる可能性が残る。

 

C:カゴ落ちを計測するデータの締切時点をまたいでの連続セッション後にオーダーした場合

実際には同一セッション内にオーダーに至っているのにも関わらず、データの集計締切時点ではオーダーに至っていないので離脱とカウントされることとなる。同時に、ユニークユーザー数はダブルカウントされることとなる。

また、

D:オーダー画面に到達後に、電話やメール、ファックスなどのサブルートでオーダーした場合
E:オーダー画面に到達していない時点でサブルートでオーダーした場合

たとえば上記Eの場合、カゴ落ち率100%でも受注自体は存在するという事象にもなりえる。

F:ファーストコンタクトとオーダー時のデバイスが異なり、データ上は同一人物と判定できないケース

 

これらA~Fの取り扱いについては議論の余地があるので本文とは別途に充分に考察したいと思うが、以下、ごく簡単に意見を述べておきたい。

上記Fを除けば、カゴ落ちデータの精度を大きく左右するのは一般的にはAの事象である。

同一セッションの定義=サイトへのファーストコンタクトからオーダーを決心するまでのリードタイムについては、業種やショップのコンセプトなどにより様々であるので本来は各サイトオーナーの経験則によってその期間を設定すべきであると考える。

 

また経験則から導き出された期間は「将来も再現性が高い、充分な裏付けがあるもの」として位置づけしてよいと考えたい。

商品やサービスが高額となりオーダーに至る検討期間が長いECサイトなどであれば、数か月数年といったスパンを経たセッションでも同一セッションと見做すべきケースもあり得ると思われる。

 

以上のことを考慮した場合、カゴ落ちデータを計測する「環境」:クッキーなどの期間設定やログインしたユーザーとゲストユーザーの比率などにより、データの精度がかなり異なってくると思われる。

従いサイトごとのカゴ落ち率などを比較する場合には、それぞれの「計測環境」を確認し、データの精度を考慮する必要がある。

 

なお、あくまで理想論であり実際の運用には至らないが、仮に無期限のクッキーなどが利用でき、かつ、ユーザーが同一のデバイスを使用し続ける環境というものがあるのであれば、オーダーに至ったユーザーのサイトへのファーストコンタクトからオーダーまでの期間について、最長・平均などの分布図を作成して、どこまでの範囲を「同一セッション」と呼ぶことが可能かを定義すればカゴ落ちのデータ精度がより高まることになる。

Fについては、全てのユーザーがログインした状態であるならば、異なるデバイスでも同一ユーザーの識別が可能である。

理想論ではあるが、運用を理想論の環境に近づけることにより精度が高まることは事実なので断念せずに工夫を続けることを推奨したい。

 

2)【 カゴ落ち率改善についての費用対効果面での考察 】

カゴ落ち率を改善すればCVRが向上する。

CVRが向上すればCPO(コストパーオーダー:受注一件当たりの獲得コスト)が低減する。

 

具体例を示せば、

CVRが1%のショップ(A)は100ユーザーの集客で1件の受注となるので、仮に全てのユーザーがリスティング広告をクリックして来訪し、広告費が1クリック50円であれば、

50円x100人=CPOは5000円となる。

CVRが0.5%のショップ(B)であれば、

50円x200人=CPOは10000円となる。

 

仮にショップAとショップBが同業種=つまり商品価格も平均顧客単価も粗利率もほぼ同じであって、いずれも受注1件当たりの平均粗利額が7000円と仮定した場合、

ショップAは受注1件当たり2000円の黒字であり

ショップBは3000円の赤字となる。

 

同時に、例えばリスティング広告のクリック単価で考えれば、ショップAは1クリック70円が損益分岐点。

1ユーザーの獲得に70円まで出せる。

 

ショップBは1クリック35円が損益分岐点。

1ユーザーの獲得に35円までしか出せないこととなる。

 

リスティング広告のクリック率が同じであれば、通常はクリック単価の高いショップAの広告が上位に表示される。(re:リスティング広告の実際の順位決定には、クリック単価やクリック率の他に適合率などの要素が加わるがここでは割愛する。)

 

つまり、CVRの向上はECサイトの利益に直結するだけでなく、CPOの低減=集客媒体費用の損益分岐点の向上により、競合他社では採算が取れない高額の集客媒体を利用できることとなり、さらなる集客増の施策が取れる環境を生み出すのである。

前掲は採算構造を理解して頂きやすい様にリスティング広告を例にしたが、他の媒体でも採算の考え方は同じである。

 

CVR向上=集客増 この公式を是非とも覚えておいて欲しい。

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さらに、サイト全体のCVRとは区別して カゴ落ち対策の費用対効果を考察してみたい。

まず、カート内(=資料請求などのフォームメール画面を含める)に到達したユーザーとは、多くのコスト(SEO対策などの労力投入も含め、)をかけて集客し、サイトコンセプトやターゲットなどをセットアップ段階から熟考し、訴求力の高い商品画像や魅力ある文書、あるいは効果的なページレイアウトやデザイン、購買導線などを長期に渡って学習し、その様々なノウハウを投入して 膨大な時間と労力を費やしてこれらのコンテンツを作成し、【これにご納得頂き】あるいは、競合他社との比較選別の結果として再来訪という形で、やっと最終的に当店および当店の商品を選んで頂き、価格や送料、また決済方法や納期、返品規定などについても(一度は、)ご納得頂いたお客様である。

 

どれだけ多くのフィルタリングを経た後に、ようやく残ったユーザーなのであろうか。

 

ECサイト運営者からみて、カゴ落ちしたユーザーの機会損失と、フロント(カート以外のページ)で離脱したユーザーの機会損失について考えた場合、そこに至らせるまでに投入した時間と労力と費用に目を向ければ比較にならないほどの大きな差となることに留意すべきである。

一部、いわゆる「ひやかし」でカートに入れるユーザーも存在するが、これも買いたいけど「今は」買えないごときの心理を反映したものと位置づけることが可能であれば、潜在顧客の獲得形態の一部と考えることができる。

少なくとも、商品自体やあるいはサイトコンセプトなどに魅力がなければカートに入れるという行動はとらないとすれば、仮にカートに強力なクロージング力があったならば実際に購入して頂けた可能性もあるのである。

 

カゴ落ち率の改善とは、自助的な作業であって、競合他社の動向などの外部要因に左右されるものではない。

また、PDCAのサイクルを回す必要はあるが、改善を施す対象のページは数ページに限られる。

改善についての考察自体は充分に行う必要はあるが「作業量」としてはごくわずかであり、この改善が前述の多大なコストをかけてカート内に到達させたユーザーのカゴ落ち率を左右するとなれば、カゴ落ち対策の費用対効果(投入労力対効果と言うべきか。)は、ECサイト運営の他のタスクとは比較できないほどの大きなものではないだろうか。

 

ちなみに過去に筆者のクライアントに行ったコンサルティングの事例では、カゴ落ち率改善の施策だけで売上自体が4割以上向上した例もある。

なお、カゴ落ちについて既存のカートがどの程度までケアされているかによってその伸びしろが異なるので一概に言えないが、一般のレンタルカートを使用している自社ドメインサイトであればカゴ落ちの改善だけでも5~15%程度の売上(=CVR)向上は見込めるのではないだろうか。

 

カゴ落ち率改善の施策での売上向上とは、集客数も増やさずに、である。

月商が、年商が、である。

外部要因に左右されず自助作業で、である。

 

またカゴ落ち率の改善とは確率論であるので、「原則としてはであるが、」売上100万円が110万円になるのも100億円が110億円になるのも同じ10%の向上である。

今のところECサイト運営者がレンタルカートを選択する場合、使いやすさや料金、あるいはSEOの効果などフロント関連の項目だけを判断材料にするケースがほとんどであり、サービスを提供している事業者もこれらをアピールする形となっているが、仮に他社とは段違いのクォリティーを持つカート事業者があれば、EC運営者は利用料について多少の差を云々すべきではないのは前述の通りである。

仮にカート事業者Aとカート事業者Bでカゴ落ち率に20%の差があった場合、100億円規模のプレイヤーであれば20億円の売上を左右することとなる。

 

CVRの向上は集客増に直結することも再述したい。

 

大規模なプレイヤーほど カゴ落ち率に敏感であるべきであり、一方でカート事業者はさらなるクォリティー向上に努め、プレイヤーには正当にその対価を求めるべきと考える。

現在のEC業界においては、ショップ全体のCVRについては広く認識されているものの、LPOや購買導線などの概念などに代表されるフロント部分だけに意識が向けられていると言えるだろう。

「カゴ落ち」という事象自体は広く認識されているが、これがECサイトの運営に与える影響については充分に考察されているとは言い難い。

 

EC業界全体でカゴ落ちについて更なる考察が進み、ユーザーから見ればさらに買いやすく、ECサイト運営者からみれば、より採算が向上し、結果としてEC業界全体の発展につながることを望みたい。

 

 

JECCICA特別講師 笹本 克

笹本さん

自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。

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