=CVR向上の根底 5 購買心理と「概論」から「具体的施策」へ=
お客様が商品を選択しご購入に至るまでのステップを考えてみたいと思います。
まずはネットショッピングの特徴としてリアルと「決定的に異なる環境」で、商品あるいはショップの「第一次選択」が行われていることに注目すべきだと思っています。
異なる環境とは、【 たった一人で 】商品やショップを探すことがほとんどであるということです。
以下、特に「高額」商品や家具などの「大型」商品を扱うショップは、この環境を充分に考察することで様々なCVR向上のヒントが見つかるかと思いますので「ご自身の業態」を想定しながらお読み頂ければと思います。
たった一人で探す環境をブレイクダウンしてみましょう。
まずは「人の目を気にせずに」というところに注目してみます。ネットショッピングにおいては他のお客様の目や店員さんの目を気にしなくてよいので、本当に気軽に「直帰・離脱」が行われます。そして直帰・離脱の理由は「どんなに些細なこと」でも良いのです。
例えばクレジットカードを複数枚持っていて、メインで使っているカードはあまりメジャーではない決済会社ながらポイントはどんどん貯まるカードだとします。決済しようと思ったらメインのカードは取り扱っておらずサブのカードなら使えるという場合、リアルなら即座に決済できないのは恥ずかしいという様な心理が働くのでサブのカードで決済し、ネットならば一度離脱してメインのカードを使える店を改めて探してみるという行動をとるのが一般的かと思います。
この「〇〇が恥ずかしい」という心理は、ある意味ではお客様を“拘束”できる=売り手から見て有利に作用する重要なファクターとなります。レストランや居酒屋などであれば、注文するまでに時間がかかりすぎるのは恥ずかしい、基本的な使い方を知らないのは恥ずかしい、値段の相場を知らないのは恥ずかしい、クオリティーの高さが分からないのは恥ずかしい など様々なパターンがあると思いますが、他のお客様の/店員さんの目があるからこそリアルでは「恥ずかしい」が成立するわけです。
そして、恥ずかしいからこれ以上粘って探すのを【 諦め 】この商品を選択することを「決心」したり、ポイントが貯まるカードを使うことを【 諦め 】他の決済手段を使って決済を「そのまま」進めることを決心したりすることになります。
クロージング(closing)という英単語は「手仕舞い」という訳し方もある様ですが、ビジネス用語としての成約に至るという意味においては(A)「お客様に最良の選択であることを充分にご納得頂いた上で」の成約と共に、実は(B)「これ以上他の選択肢を探すことを諦めて頂く」形での成約もあるのです。そして日常生活においては(B)のパターンが相当の割合を占めているのではないかと思っています。「(他にもいろいろありそうだけど)ま、これでいいかっ♪」という買い方は(B)パターンであることをお忘れなく。
ECの場合、ほとんど全ての売り手が王道である(A)パターンを追求しているのではないでしょうか。一方でリアルの「やり手の営業マン」は(B)パターンを多用している気がします。ネットに応用した分かりやすいケースを二例だけ挙げますね。
検索上位から
在庫切れ 在庫切れ 在庫切れ 在庫アリ 在庫切れ 在庫切れ
レストランなら
今一つ ここがいいかな 今一つ ダメ 今一つ 今一つ さっき見たここがいいかなと思った店 今一つ ダメ
笹本の場合はこの辺りでこれ以上探すのを諦めます。(笑)
((具体的な施策への落とし込み例))
自然検索で上位だからこそクロージングのために検索広告も出しておくべきではないでしょうか。私のクライアントには強く推奨していることの一つです。またユーザーが異なるチャネルで探した時に同じ店や同じ商品が出てきた場合も同様の効果を生み出します。従って多店舗&複数チャネルなどの施策については単体のROIだけで各媒体を評価するべきではないと思っています。
他、テキスト=言葉での「サイト内での」クロージングエッセンスだけをピックアップするとすれば例えばこんな感じでしょうか。
(今まで沢山見て来て)いろいろとお迷いだと思いますが、これなら/ウチなら 大丈夫です/無難です/似合います/喜んでもらえます/etc.
これはある種の断定表現になるのですが、これを聞くと(読むと)これ以上探すのを諦めて「ま、コレでいいかっ♪」的なクロージングとなる可能性が高くなるとは思いませんか。もちろん他にも様々な応用がありますので、どうすれば「諦めてもらえるか?」について是非ご自身の業態に当てはめて考えてみてください。
ちなみに高額商品や大型の商品の場合「間違った買い物をしたくない」という心理が強くなるため永遠にベストチョイスを探し続けるごとくの状態になりやすく、ウチが最有力候補にも関わらずお客様は“離脱”という事象も少なからずだと思うのです。これは数値指標での裏付けが取れない仮説想定領域のサブジェクトなのですが、経験上では高額・大型商品の場合(B)パターンでの何らかのクロージングエッセンスは必須と考えています。
人の目を気にしないという環境は、ユーザー属性の「ぶれ/乖離」という事象も引き起こします。
分かりやすい例で言うと、20代前半の女性向けのカワイイ下着がリアルでは売り手の意図通り20代前半のお客様に売れている一方で、ネットではユーザー層が30代後半まで広がっている様なケースです。
ネットの場合は、店員さんに年甲斐もなく・・・と思われるかも知れない という様なことは全く気にしなくてよいのですが、リアルの場合には「人の目」が売上の制約条件になっている市場で起こりやすい現象です。
リッチコンテンツ型サイトの多くはペルソナマーケティング(=特定の人物像を詳細まで想定して、その人だけを狙って語りがけるごとくの)手法でのコンテンツづくりをしていることが多い様ですが、実は売り手が「想定していないお客様属性」や「想定していない用途」での売上比率は見逃せるレベルではないかもしれません。
人の目は気になるのです。また誰しも恥ずかしい思いはしたくないのです。「恥ずかしい」についてはネットではリアルよりもかなり緩和されていますが、それでもゼロにはなっていない気がします。例えば初めての法律相談。法律事務所の門をたたく際には、前述の「値段の相場を知らないのは恥ずかしい/クオリティーの高さが分からないのは恥ずかしい(説明を聞いても分からないかも・・・)」などの感情はネットであってもつきまとうのではないでしょうか。
((具体的な施策への落とし込み例))
仮に法律事務所のHPであれば、初回の相談は無料と謳っているサイトは数多くありますが、これだはまだまだ考察が足りないと思うのです。費用面での安心感を謳っても「人の目」に対する制限要素(=敷居が高い)は解決していないのではないでしょうか。たとえ無料でも「シキタリを知らないワタシが粗相(そそう)をして恥ずかしい思いをするリスクは減っていないのです。だからこれを軽減する施策が必要です。例えば文字数制限をかけた上で「お問合せは匿名OK」として一定期間試験運用をしてみます。そして対応の事務負荷に問題なければそのまま運用を続けるような具合です。
「たった一人で探す」環境ということは、複数名で商品やショップを探すことはほとんどないということです。。スマホやPCは原則として個人専用機であり、誰かと“一緒に”探すということがしにくいデバイスです。従って複数名=グループが同じニーズを持っていても誰か一人がグループを「代表して」探すという形になるのではないでしょうか。
一方で「自分一人で“決める”」ことができない場面は日常的におこります。たとえば奥さんに相談せずにテーブルやベッドを買えるお父さんはごく僅かでは?(笑)他、会社の上司やクラスの仲間、町内会の重鎮や義理の両親・・・etc. 一応でも念のため話を通しておく必要がある人は沢山いるかと思います。
そして対象となる商材は、自分だけで使うモノやサービス以外の「全て」と言っても過言ではないかと思います。家族やグループ旅行での宿泊先などは分かりやすい例になるかと思いますが、たとえばお中元やお歳暮などでもあらかじめ商品の選択を任された場合を除いては“要相談”の商材と考えるのが普通です。一応事前に選択を任されているとしても・・・。仮に3千円の予算でPTAのお茶菓子を買う係になったとします。「おせんべいよりポテチが良かったわ」「もう少し甘いものがあってもいいのに」・・・誰にも相談せずに一人で決めるなんて震えが来そうです。お茶菓子でさえ。(笑)
おばあちゃんが孫娘に「ワタシが洋服を買ってあげる」と言って二人でショッピングに出かけました。孫娘が「おばあちゃん、この服似合うかな」と尋ねました。
代金の支払者と使用者が異なる状況下での購買は完全なる権限代行者(=保護者が乳児の服を買う/社長が設備を買って社員が使う)のケースを除き、ほとんど全て“要相談”となるでしょう。そして信頼できる第三者=おばあちゃんのコメントが最終的なクロージングトリガーになるはずですが、決心の直前で迷っているネットのお客様には“おばあちゃん”はいないのです。
リアルではこんな日常的なシチュエーションでもまだネットでは取り込めているとは言い難いのが現状です。さらなるECの発展には数値指標だけでなく購買心理や概論にも目を向ける必要がありそうですね。
JECCICA客員講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。