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巣ごもり消費でEC化率は堅調、インフレで返品率も上昇?

経済産業省は8月12日に2021年(令和3年)の日本国内のEC取引市場規模の調査結果を発表しました。EC業界に従事している方であれば、必ずチェックしているはずのこのデータについて、今回は掘り下げたいと思います。このEC取引市場規模の市場調査は以下の4領域に分けて調査されています。
1.国内電子商取引市場規模(BtoC)
 ○物販系分野 ○サービス系分野 ○デジタル系分野
2.国内電子商取引市場規模(CtoC)
3.国内電子商取引市場規模(BtoC)
4.日本・米国・中国の3か国間における越境電子商取引の市場規模
この4つの中でも私が特に気にして見ているのは「国内電子商取引市場規模(BtoC)」の「物販系分野」のEC市場規模と、EC化率です。2019年に発生し、2020年に感染拡大した新型コロナウイルス感染症がEC市場や私たち消費行動にインパクト与えたわけですが、2021年はどのような結果が反映されたのでしょうか。

BtoCの物販系分野ECの市場規模は8.61%伸長
BtoCの物販系分野のEC市場規模は、2020年の12兆2,333億円から、2021年は13兆2,865億円と、8.61%伸長した結果となりました。前年の2020年はどうだったかというと、同市場規模の伸長率は驚異の21.71%でした…!2020年は緊急事態宣言が発令され、外出自粛など人々の消費生活に直接的に影響が出た年でもあります。その影響が色濃く出ており、必然と言えば必然の結果ですが、毎年、EC取引市場規模をチェックしていた側からすると、驚愕の数値です。転換の年とも言える2020年の伸長率と比較すると、2021年の8%台という伸長率は成長の鈍化を示しているかのようにも見えます。しかし、2021年の伸長率8.61%は、2017年から7〜8%台前半を推移してきたことを踏まえると、高い数値と言えるのではないでしょうか。

EC化率は0.7ポイント上昇の8.78%
また、各国のEC普及率の基準ともなるEC化率はどうだったのでしょうか。2021年のEC化率は前年の2020年から0.7ポイント上昇して、8.78%という結果となりました。3%台だった10年前を思い出すと、8%まで上がったことに対して、個人的には嬉しさも感じます。とは言っても、EC化率が4割超の中国や、3割超のイギリスには遠く及ばず、14%台のアメリカにもまだまだ届かない状況です。国土面積や人口、店舗数、物流網など様々な要因がEC化率に影響を与えると言われますが、ここ2年のEC市場規模やEC化率の変化を見れば、日本でも発展の可能性はまだまだあるとことが証明されました。新型コロナウイルス感染症を発端として、半ば強制的に進んだ企業のDX推進や消費行動の変化の結果が出た年と断言できる結果となりました。「ECでモノを買う」という消費様式が定着したとも言えそうですが、リアル店舗での消費も復権しつつあるいま、海外動向も踏まえて、臨機応変に対応していくことが吉だと言えそうです。

コロナ禍での成長予測が難しかったShopify
7月末に発表されたShopifyの従業員大量解雇についての報道。正式な人数は発表されていませんが、従業員の10%に相当する約1,000人を解雇するとも言われています。「アマゾンの対抗馬」「アマゾンキラー」とも言われてたShopifyのこの発表に対して、驚いた方も多いのではないでしょうか。CEOのトバイアス・トビ・ルーク氏は、新型コロナウイルス以前はECの成長は安定的で予測がしやすかったが、パンデミックによる急成長によって事業計画の見通しが困難で、事業拡大の判断を誤ったことが原因だと述べています。また、新型コロナウイルスだけでなく、40年ぶりのインフレーションや景気後退といったアメリカ経済の影響もあったことにも言及しています。ECの可能性と事業拡大性を判断することがいかに困難であるかということを象徴している出来事でした。冒頭で触れた経済産業省の「EC取引市場規模の調査結果」だけ見ると、ECには希望がたくさん詰まっているように見えます。「巣ごもり需要でECが拡大し、ECでモノを買うことが当たり前になる、だからECサイトを構築しよう」という風にも読み取れますが、EC一本に絞ろうではなく、自社の事業や顧客をしっかり分析し、社内都合だけではなく、世の中にフィットしてトランスフォーメーションしていくことが重要だと改めて考えさせられました。

インフレーションで返品率が上昇?
インフレーションがECに与える影響で印象的な記事がありました。それは、インフレーションの影響で返品率が高まったという内容のもの。EC事業者にとって悩みの種の一つといえば、商品の返品率。返品や交換回数が増加すれば、送料や人件費などがその分かさみます。イギリスを拠点とするアパレル通販の「エイソス(ASOS)」は、2022年3-5月期の業績速報で、インフレーションの影響で返品率が高まっていると触れ、売上高が前年同期比で微減となったこ理由として挙げています。インフレーションの影響で、顧客の心理が変化し、イギリスやヨーロッパ全体で返品率が著しく高まったそうです。在庫過剰や返品対応が利益を逼迫している現状に対して、最近では、返金手数料を有料にしようという動きも広まってきています。前述の「エイソス(ASOS)」だけでなく、「ザラ(ZARA)」や「ユニクロ(UNIQLO)」、「シーイン(SHEIN)」などが実施しているそうです。大半が購入者事由による返品場合(注文間違い、イメージ違い、サイズ違い、ユニクロ不備の場合以外)の返送料金を購入者負担という対応を取っています。送料無料が当然だと思っている消費者にとって、返送料が発生するというのは受け入れがたいかもしれませんが、返品にかかるコストが3,000円以上にもなるという事実を理解してもらうしかないでしょう。また、ミレニアル世代やZ世代をターゲットとする場合には、サステナブルという観点も重要です。慎重に商品を選ぶ、という消費行動を促したり、失敗しにくいUI/UXを提供するというのも企業の社会的責任の一つの観点であるといえるのではないでしょうか。

返送せずに返金対応。新しい返品形式「Keep it」
一方アマゾンは、商品を返送せずに返金対応をしてもらえる「Keep it」という取り組みを始めています。この「Keep it」は消費者から返品の申し出があった場合、商品の返送は不要で、商品代金を返金してもらえるという仕組み。ただし、これはすべての商品が対象ではなく、ガイドラインに合致する場合のみ適用されます。この判断は、主に商品の価格に依存しており、価格が安価で返送費用や、返品・補充に対してかかるコストが高く、マイナスになる場合に適用されます。要はアマゾンが物流上の手間をかける価値があるかどうかで判断される可能性が高いと言及されています。例えば、家具やキッチン家電、インテリア、ベビーチェア、歩行器、ベビーカーなど返品送料は高いにも関わらず、低価格な商品がメインになると想定されます。このような取り組みは、在庫過剰な小売業界の現実を鑑みると他の企業でも採用されていくのではないでしょうか。

今回はwithコロナ時代のEC市場規模の変化と、経済などが与える消費者の行動の変化について書きました。「商品は返品するもの」といった固定概念にとらわれない「Keep it」という取り組みなど、柔軟に考え、行動することの大切さを改めて実感しました。

muraishi

JECCICA客員講師 村石怜菜

株式会社パルコ・シティ シニア・コンサルタント。

日本女子大学被服学科卒。大手専門店企業で接客販売・店舗運営を経験した後、Eコマース支援企業で数々のファッションブランドのECサイトの構築や運用に携わる。現在は、ファッション専門店や商業施設へのECコンサルティングを得意としている。また、クライアント企業のオムニチャネル戦略の計画・実行を支えている。


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