失敗しないCRMツール選定と活用のポイント
今回はEC通販事業でリピート売上を向上させるために、CRMツール導入と運用を成功させるポイントを、自社の状況およびシステムの機能観点の2部構成に分けて解説します。
CRMツールは一度導入したら長い間使い続けるものなので、気軽に導入してだめだったら乗り換えるということが難しい性質があります。そのため自社の状況や目指す方向にあったシステムを正しく選ぶことが非常に重要です。
実際、多くの企業がシステムの導入に失敗し、システムを導入したもののうまく活用して成果を出せていないという問題が起きており、アクションリンクはそういった企業様の問題を数多く解決してきました。
今回まとめたポイントは、私自身が過去に関わった多数のEC事業コンサルティングで、実際に見てきたよくある失敗パターンをもとに、必ず確認しておくべきポイントをまとめています。
リピート対策のためにCRM導入を成功させたい担当者の方、事業責任者の方、経営者の方はぜひ意思決定の前にご覧いただき、さらなる事業成長の一手としてCRMシステムを活用いただければと思います。
■ツール導入の目的は明確になっているか
CRMシステム導入の目的は明確になっているでしょうか。
目的が明確になっていない状態でシステムを導入すると確実に失敗します。
よくある失敗① 分析が目的になってしまっているケース
顧客の分析はLTVを増やすための手段でしかありません。またいくら細かく分析してもそこから顧客に対するアクションに落とし込めなければ成果にはつながりません。
顧客に対する仮説がないと、そこから実行したい施策イメージも浮かばないので、その状態でシステムを導入してもうまくいきません。少なくとも自社の顧客はこんな状態なのではないか、こんな問題があってそれに対しこんな施策が有効ではないか、それにはこんな分析が必要になる、といった仮説がある程度のイメージで構わないのでできている必要があります。
よくある失敗② 導入が目的になってしまったケース
IT業界では定期的にバズワードが出てきます。目的を明確にせずに流行りなので、他社も導入しているからという安易な理由で、導入自体が目的になってしまい失敗するケースも他社ツールでは多く見られます。特に導入事例はイメージ先行であまり具体的な内容が出ない(出しても利用企業にメリットはない、むしろ成功事例ほど出したくない)場合がほとんどですので、自社にどんな問題があってそれをどう解決したいのかという目的を大事にしてください。
■具体策と優先度は明確になっているか
LTVを上げたいが具体的に何をしたらよいか分からないという場合、注意が必要です。
システムを導入してもそれを活用して成果を出すのは利用者であるユーザー企業です。
ある調査ではCRMシステム導入失敗の9割は「施策につながらない」ことが原因と言われています。
よくある失敗①
CRMシステムがメール配信システムになっている
顧客データを活用してきめ細かなセグメント配信ができる環境ができても、実際に施策をプランニングして実装することができないケースが目立ちます。結果として一斉配信メルマガや単純なステップメールなど、CRMシステムを導入しなくても出来る施策に終始してしまい、せっかく導入したシステムを活用できていない失敗です。
これは利用企業のノウハウ不足、時間の不足(担当者が他の業務で忙しく時間を確保できない)が原因になっている場合が多いです。
よくある失敗②
後からやりたい施策が出て予定外の追加開発が必要になった
システム導入時点で施策が明確になっていないと、施策に必要なデータが連携されておらず、後からやりたい施策が出てきた場合に利用企業側もしくはシステムベンダー側で追加開発が必要になってしまうという失敗です。これは「どんな施策を実行するためにどんなデータが必要か」という根本的な部分の認識が足りない、といった原因です。簡単に考えていたら追加開発費で数十万〜数百万かかることになったという話も業界ではよくある話です。
■ノウハウと体制はあるか
CRMにおける課題を見つけ、具体的策を立て、それをシステムへ実装しつつPDCAを迅速に回して課題を解決していくために、CRMのノウハウと実行体制を作る必要があります。特に高機能なツールほど運用工数がかかる傾向が高いため、じつに9割の企業がノウハウと時間の不足でCRM導入後の活用に失敗しています。
よくある失敗① ノウハウがなく施策を形にできない
施策を行うべきターゲット、タイミング、コンテンツ、チャネルを見極め効果的な施策を行って課題解決していくには様々なノウハウが必要です。例えば仮説の立て方から始まりその仮説を確認するにはどんな分析軸でどんな指標を見ればよいか、そこからどんなデータをどう利用して施策として形にするかなど、広く深いノウハウが必要になります。このノウハウが無いためにツールを導入しても分析だけで終わってしまい、そこから顧客へ届く施策として形にすることができません。顧客の目に見える形での施策を打って顧客体験を変えないと、当然ながら成果も出ません。このケースが最も多い失敗パターンです。
よくある失敗②
担当者が複数の業務を兼任しており時間を確保できない
仮にノウハウがあったとしてもそれを施策として形にする時間を確保できないという失敗が起こりえます。特に高性能なシステムほど設定項目が多かったり事前のデータ加工が必要となり、CRMの推進には多くの時間と工数を必要とします。この時間が確保できずにうまくいかないという事態にならないような対応が必要です。
■まとめ
EC事業の生き残りのためにCRMの重要性がますます高まっているなか、うまくCRMシステムを活用してリピーターを戦略的に増やし、EC事業を拡大していけるよう、機能面だけではなく、現状の自社の体制や知見もふまえたツール選定が重要です。
「自社にとって必要な戦略と施策を実現できる」という観点で、費用や機能面だけでなく運用体制も含めツールを選んでいただければと思います。
次回のコラムではシステムの機能観点での選定方法を解説します。

JECCICA客員講師 中村 隆嗣
株式会社ファブリカコミュニケーションズ
アクションリンク プロダクト責任者
2003年に北国からの贈り物へ入社。本店/楽天/Yahoo!/Amazon/ぐるなびなど全店のマーケティング戦略責任者として数々の賞を受賞。2014年株式会社メディックスに入社し、年商2500億規模の大手製薬会社や外資系アパレルブランドなど、メーカー直販ECの事業コンサルティングを手がける。コンサルティング先で多く見られたCRMの課題を解決すべく2018年にアクションリンクを立ち上げ、2023年ファブリカコミュニケーションズにジョイン。現在に至る。