2026年 年頭所感 鈴木準 ECの次の成長を決めるのは「問いの質」である
新年あけましておめでとうございます。
今やEC業界にとって、AIやデータ活用はもはや特別な武器ではなく、前提条件になりました。需要予測、レコメンド、価格最適化、CRM、広告運用。再現性の高い業務ほど自動化が進み、成果の差は見えにくくなっています。
この状況は一見、成熟を意味するようでいて、実は業界全体に静かな問いを投げかけています。
「私たちは、次にどこで差をつくるのか?」
1990年代以降、マーケティングは“再現性ある科学”として磨かれてきました。ECは、その集大成とも言える領域です。しかし皮肉なことに、その再現性こそがAIに最も代替されやすい部分になっています。
では、人間に残された価値は何でしょうか。
それは「非再現性」、つまり問いを立て、文脈を解釈し、仮説を描く力です。
優れたECの戦略は、データ分析から始まるのではありません。
▶「なぜ、この顧客は買い続けているのか」
▶「なぜ、このUI(操作画面や見た目、操作方法)で離脱が起きないのか」
▶「なぜ、このブランドは共感されるのか」
こうした“違和感”や“気づき”から始まります。
若い世代の方に伝えたいのは、スキルよりも「好奇心と問題意識」の重要性です。日常生活の中で感じる、小さな気づきや違和感を放置せず、問いに変え、仮説として言語化する。この習慣がやがて経験知となり、AIには代替できない価値へと育っていきます。
一方ベテラン世代が持つのは、「顧客の行動や感情を立体的に理解する解釈力」です。若手の問い、ベテランの経験知、そしてAIの分析力。この三つが掛け合わさったとき、ECは再び新たな創造のフェーズに入ると思います。
2026年は、効率化の先にある「意味」を問う年になるでしょう。どんな顧客体験をつくりたいのか。自社は社会にどんな価値を届けたいのか。
その答えは、データの中ではなく、問いを立てる人の中にあります。ECの成長は、テクノロジー以上に、人間の「問いの質」によって決まる。私はそう感じています。
皆様にとって幸多き一年であることをお祈りすると同時に、2026年も引き続き宜しくお願い申し上げます。

JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント