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ユーザー属性の経済価値を考える

中世ヨーロッパの有名音楽家のほとんどはパトロンと呼ばれる王侯貴族によって支えられていました。音楽家の方から見れば、たった一人のクライアントに気に入られることによって生涯の収入を保障されるということになります。もちろん街頭などで演奏をして聴衆からのチップで生業(なりわい)を立てていた音楽家もいましたが、街頭に集まる聴衆の多くは「庶民」であり、経済的に見れば「貴族」のお抱え音楽家とは比べ物にならない程度の収入に過ぎませんでした。
従って、当時は多くの庶民に称賛される音楽よりも特定の貴族に気に入られる音楽の方が「儲かる」という環境にあり、J.S.バッハなどの有名な音楽家も不眠症に悩むたった一人の貴族のために眠くなる音楽を作曲したこともあった様です。聴衆というユーザーの中で考えれば「庶民」という属性と「貴族」という属性ではその経済価値が決定的に異なるわけですが、この環境において「眠くなる音楽」という属性特化の“商品“を提供したとも言えるでしょう。(大芸術家の作品を商品と呼ぶのは世俗的で恐縮ですが・・・。)

ECサイトの運営者は どうしてもユーザーの“数”ばかりに目が行きがちの様な気がします。もちろんリピート率やLTVなどの数値指標は参考にしているかと思うのですが、表面的な数値を追うレベルに留まっていてユーザー属性については考察が充分に行われていないのではないでしょうか。
例えば「風邪」と「肩こり」の“ユーザー”が同数いたとした場合、どちらの属性の方が経済価値が高いでしょうか。LTVの視点で考えれば答えは簡単です。来院の頻度や継続率に治療費という商品単価をかけ合わせれば肩こりの属性の方が圧倒的に経済価値が高いユーザー群と言えるかと思います。年間の来院回数などを考えればその経済価値は10倍以上の開きがあるかも知れないのです。しかし単に風邪と肩こりという症状を目にした時に、そのユーザー属性の経済価値の大きな差に気がつく人が余りにも少ない様な気がしています。

リアルのご商売ではB to BにおいてもB to Cにおいても2:8の論理(=2割の有力な顧客が8割の売上を支えているごときの事象)があると言われていますし、健康食品などの業種では新規顧客から1割の「永年」リピーターを抽出できれば成功とも言われています。これらのリピート業種ではユーザー属性を充分に考察して、属性ごとに想定できる経済価値に見合った投資をしていると思うのです。まずは無料配布などで完全に新規のお客様を多数獲得して、CRMを駆使し2回目の購入や2週間の連続使用など「商品の習慣化」=リピート属性への移行まではかなりの先行投資をする様な図式です。

では漫画の「課長島耕作」の読者千人と「セーラームーン」の読者千人とではどちらが経済価値が高いでしょうか。(例が少し古くて恐縮。)当然ながらユーザー属性は大人と子供という大きな開きがあります。課長島耕作の読者の多くは働き盛りの大人だと思いますし、そこそこの規模の会社に勤めていて収入も安定しているかと思います。一方でセーラームーンの読者の多くは幼児から児童という年齢層が中心であり自分自身の収入はゼロと考えるのが一般的かと思います。仮にセーラームーンの漫画の横に興味を惹く“広告”が出ていても子供ゆえに買い方自体が分からないということになるかと思います。この視点では明らかに島耕作の読者の方が経済価値が高いと言えそうです。
一方で視点を変えれば答えが逆になる可能性も秘めています。セーラームーンは1992年から1997年の5年間に連載されたもので同時期にTVアニメでも放送されています。連載当時は10歳前後でも現在では30代の“ユーザー”なのです。ファッションや美容に興味を持ち購買意欲も活発な属性を持つユーザー層です。TVアニメはその後たびたび再放送されており、また海外でも人気を博しました。セーラームーンの読者中には、オリジナルの漫画を読むために日本語を勉強したごとくの外国の方々も含まれているかも知れません。
これは「現在では」連載も放送もされていないにも係わらずのセーラームーンの読者という、ユーザー属性の「背景」までを考察して初めて気がつく経済価値であると思います。ちなみに昨年の5月に六本木ヒルズで行われたセーラームーンのフェアには10万人の来場者があったとか。もちろん10万人の女子児童で会場が埋まったというわけではありませんよね。(笑)
ECプレイヤーには是非このレベルまでユーザー属性の考察をして頂きたいと思うのです。リピート率やLTVといった数値指標を見ているだけでは気がつかない価値が見えてくるのではないでしょうか。

それでは次のお題。一戸建て用の「階段のすべり止めマット」を買うお客様と「玄関マット」を買うお客様とではどちらがユーザー属性として経済価値が高いでしょうか。両方とも価格は2千円~3千円台でほぼ一緒です。
前述の漫画の読者の様にユーザーの人物像という切り口では属性の特徴を把握することは難しいかと思います。また商品単価もほぼ一緒なので、売価などから推察しての購買力の判別=富裕層と一般層という様な分類もできないでしょう。また両方の商品共にリピート商材ではないのでLTVの差もなさそうです。強いて属性を言うのであれば階段のすべり止めマットを買うお客様はマンション住まいではないということぐらいでしょうか。

ここで視点を変えて「どんな状況になった時に」これらの商品が必要となるかを考えてみて下さい。
ユーザー属性の経済価値とその特徴の大きな差に気づくことができるかと思います。

まず、両方の商品共に新築または新入居のタイミングで購入されることも少なからずだと思います。では、法人客が含まれる可能性が高いのはどちらでしょうか。玄関マットの方は店舗やオフィスなど業務用の“備品“として使われることがある一方で、屋内用階段のすべり止めマットを必要とする法人はほとんどいないかと思います。「この点での」ユーザーの経済価値としては玄関マットに軍配があがりそうです。ここで考えて頂きたいのですが新規開店や新オフィスという「タイミング」のユーザーに対して、数千円の玄関マット1枚を販売して喜んでいてよいのでしょうか。(笑)
「受付」や「TOILET」などのディスプレイや看板類はもちろん・・・観葉植物のレンタルから火災保険に至るまで とにかく「絶好の販売チャンス」であるはずです。個人宅の新居と新入居のオフィスに共通するアイテムを考えるならば、たとえば収納用品やスリッパなどが挙げられるかと思います。多くの販売者はユーザー属性とその経済価値という視点を持つことができないため、玄関マットもすべり止めマットもまとめて陳列しマット1枚を売って喜んでいるというところに留まっているのが現状かと思います。

ユーザーの顔が見えるリアルのご商売においてはユーザー属性優先の“提案”という手法はかなり普及しているかと思います。「女性アパレルとアクセサリー」や「おしぼりと高級割りばし」などは代表例ですが、本来は仕入れ先も業界も異なるアイテムです。スーパーなどでは原価ギリギリ大特価の焼肉用の肉の横にほぼ定価の焼肉のたれを置いて採算をとるごとくの高等手段も使われています。「ついで買い」=お客様への提案の根本はユーザー属性を充分に把握することなのです。また「同じタイミング」で必要となる商材の「ついで買い」の方がはるかに大きな金額になることも少なくないのではないでしょうか。

階段のすべり止めマットのユーザーには法人はほとんど含まれない一方で、「どんな状況になった時に」この商品が必要となるかという視点でユーザー属性を考察すると、法人ユーザーを含む玄関マットよりも大きな経済価値を持つ可能性も出てきます。
乳幼児がいる家ではすべり止め“マット“ではなく仮に転んでもケガをしないように階段の角をカバーする厚みのあるすべり止めを買うか、あるいは階段に入れないようにする柵などを買うことの方が多い様な気がします。仮に新築のタイミング以外でこの商品が必要になるとすれば、それはどの様な状況なのでしょうか。
すべり止めを購入したお客様の中には「高齢者がいる家」という属性を持つユーザーが一定数含まれていると思うのです。

ここで重要なことは「高齢者がいる家」ということだけではなく、家族や高齢者ご本人が体力の衰えについて【 気になり出した 】タイミングのユーザーである可能性が高いという点です。高齢者がいる家庭というだけでは、既に高齢者対策が完了してしまった家も含まれるので「絶好の」機会とまでは言い切れないかと思いますが、これが体力の衰えが気になり出したタイミングとなれば、これはまさに高齢者関連商品を提案する絶好の機会ではないでしょうか。
マーケティングリサーチなどではかなりの費用を使っても「気になり出した」という心理面までの属性抽出は難易度が高いと思います。その一方で数千円の階段のすべり止めマットの購入者は、体力の衰えが「気になり出した人たち」という「高度のフィルター」をかけた高い経済価値を持つユーザー属性を示している可能性があるということでもあるのです。

階段の手すり?いやいやその程度の経済価値ではないでしょう。浴室暖房や認知症防止などに留まらずバリアフリーのリフォームから相続や贈与、仮に高齢者が事業主であれば事業承継までもが「ついで買い」商品になるかも知れないのです。仮にすべり止めマットを買ったお客様の中に数%この様な属性を持つユーザーが含まれているとしたら、中世の音楽家における貴族と庶民ぐらいの経済価値の差があるかも知れませんよね。

水道の水漏れや浴室タイルの修理が必要となれば、築15年~20年ぐらい経った家と考えても不自然ではないでしょう。大規模リフォームとまではいかなくともシステムキッチンぐらいは提案してもいいタイミングかと思いますが、何も提案をせずに修理だけで終わっているのが現状では?ユーザー属性を考察すれば、例えばイクメンの“情報サイト”であれば生命保険の広告なども効果的に機能するかと思うのです。生まれる前から情報収集、これから家族が増える「タイミング」というのが一般像なのでは?

ユーザー属性とその経済価値を充分に考察した上での提案。一度“妄想”を膨らませてみるのも面白いと思います。

笹本 克プロフィール写真

特別講師・参事 笹本 克

全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。


 

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