小売の変化で、メーカーの使命が変わる
変わるメーカーの使命
今、僕は、メーカーの使命が変わってきていることを実感している。今までで言うと、大量生産、大量消費の時代にあって、どこか問屋任せでどう売られるかは重要ではなかったように思う。でも、それは過去の話になりそうだ。
つい先日の話であるが、ライオンが「はみがきのおけいこ」という商品を発表して、ハッとさせられた。商品自体はIOT商品で、子供歯磨き嫌いを解消するべく、スマホと連動するなどして、ゲームのような感じで楽しめる歯ブラシである。
重要なのは、ライオンというマスを相手にした企業の商品でありながら、販売のメインは「ロハコ」である。大量生産大量消費を意識しているわけではなく、売った後のデータも連携して、細かく分析して、どういうお客様がその後、何を買ったかなど、自らの商品開発に活かす構えである。
また、少し視点を変えて、クイックゲットというサービスでは、デジタルコンビニという言い方で、お茶など好きなものがすぐに30分以内で届けられるというデリバリーサービスを始めた。配達の早さとかではなく、見るべきは、顧客データの方だと僕は思っている。
推測の域は出ないが、このようなデリバリーサービスが浸透すれば、メーカーは特に、小売店に関係なく自分達が直接、顧客データが手に入る。それだけメーカーがデータを欲するニーズが高まっているからではないか。
かつてコンビニはPOSデータを生かして、地域や時間を生かした品揃えを展開して、小売の雄となった。けれど、リアルの「POSだけ」では存在感を出せなくなりつつあるようにも思う。デジタルを使えば、それこそ店員の力を借りることなく、直接、メーカーは顧客データを手に入れることだって可能になってきているからだ。
Shopifyも「POS」に関心を示す
更に、オンラインストア側もまさにそのPOSに興味を持っていて、先日、Shopifyが「Shopify POS」を発表したことでもわかる。オンラインストアはその強みを生かして、顧客データが可視化され、実店舗のPOSデータと紐づけることで、より正確な商品に関する情報が蓄積されるというものだ。
メーカーにとれば喉から手が出るほど欲しい情報ではないか。
つい先日、ファーストリテイリング社が定款を変えて、事業目的に倉庫業を追加したというが、少なからず、そういう影響もなくはないと思う。物流を掴むことで、より顧客の状況が細かく見えてくるので、より生産性の高いビジネスが可能になる。配送が果たす役割は、先ほど、クイックゲットの話でもした通り、メーカー業にとって得られる価値が大きいからだ。
だから、時代の流れは製造小売業を増やすことにも繋がるだろう。資本力があるところほど、あらゆるところのデータに着目し、商品を作ることの生産性をより高く、最大化していくことが必要となるからだ。
そんな時代の店の使命とは何か?
では、店は何をすべきかを考える上で、気になる楽天の動きを取りあげたい。実は、最近、楽天は「楽天市場」で、広告プロダクト「RMP – Sales Expansion」という、メーカーに対しての広告プログラムを発表している。
これは楽天市場の「商品検索結果画面」に運用型広告を配信できるというもの。例えば、であるが「P&G」が「レノア」でこのプロダクトを出稿したとすれば、「楽天市場」で「柔軟剤」などの関連ワードでの検索結果に「レノア」を扱っている店舗の情報が広告として出るようになるわけである。
一見すると、メーカーが投資してくれるおかげで、出店店舗の商品が上位に出るので、出店店舗は売上を上げられ、メリットがある。だが、注目すべきはそこではないと僕は思っていて、その売上データは広告主であるメーカーにとっての貴重なマーケティングデータとなるわけで、見るべきはそちらである。
楽天はプラットフォームの強みをそこで生かしているわけだ。ということは、もしも小売店がその売上とデータの両方が自分の手元に入れば、そこにビジネスチャンスは広がりを見せられる。店として、どれだけ自分達の顧客データに価値がある、という認識がどれだけあるだろうか。
店はメーカーとの連携を密にブランド化を
店は、オンライン、オフライン問わず彼らに真摯に向き合い、そして、ファンにしていくことができ、ShopifyのPOSの動きなどは、まさにそれを推進する動きだろう。逆にいえば、メーカーにはできない芸当であり、その中で、店はメーカーを取り込みながら、その商品の中身をブラッシュアップしていけばいい。
情報はオンライン、オフライン問わず店からメーカーへ細かくシェアして、メーカーもまた、どの店に卸せばいいのかを判断して、商品の生産性を高くし、廃棄などを生まずに済ませる努力が必要。安売りを減らし、メーカーとしてのブランド力を保っていくこともできるし、店にとってのメリットになる。徹底して店と連携が密になるだろう。
小売も、売ろうとしすぎず、メーカー的思考を持つところに価値がある時代なのである。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役