デバイスあっての技術革新 〜見るべきはソフトとハードの両面から〜
古い工場跡と最新テクノロジー
先日、僕は板橋にある、とある古い工場の跡地にやってきた。何か製造業でもやっていそうな佇まいではあるが、その中で稼働する会社が日夜、向き合っているのはAIを駆使した最新テクノロジー。技術に長けた精鋭部隊があつまるその会社の社名をロビットという。
では、そのAIのテクノロジーはどのように活かされているのか。ここが興味深くて、「外観検査」と呼ばれるものである。実は、製造業などのものづくりの現場には必ずと言っていいほど、必要な工程がある。それが「外観検査」である。
「外観検査」とは、製品が作られた際に、必ずそれが不良品かどうかのチェックをするもの。そこで、AIのテクノロジーが役に立つのである。なぜ、役に立つのかというと、これが人間に大きな負担をもたらす作業なのである。
外観検査が人に負担になる理由
負担とは何か。この時、僕が見せてもらったのは車の部品。それであれば、傷がないかをチェックするのが仕事であり、僕の肉眼では一見で判断することはできなかった。
簡単に判断ができないから、その外観検査をする現場は、ライトに照らされ暑く、そして長時間に渡るチェックとなり、厄介なのは長年に渡るカンのようなものが必要となる。
だから、外観検査にテクノロジーを持ち込み、人間の負担を軽減することの必要性を思ったわけだ。それを解決するソリューションを自ら生み出すところに会社としての意義を感じたと話すロビット。とは言え、彼らではなくても、このようなテクノロジーは作れそうに思えるが、この手のソリューションは、世界を見ても稀である。なぜ作れないのか。
ソフトはハードが優秀でなければ機能しない
それは、AIは手段にすぎないから、なのである。AIを用いれば、その傷だと思われるものを機械学習させて、それを判別させることはできる。そのソフトがあっても、ハードが作れない。
先程の例で言えば、ある一定のライトを決められた角度から当てることで、傷が判別しやすくなる。つまり、AIで判定する前に、その角度からライトを当てる機械が作られない限り、AI技術が宝の持ち腐れになる。外観検査には、その製品ごとに異なる“デバイス”が必要なのである。
だから、そのデバイスを作るために、その工場まで足を運び、その外観検査に関わる人たちから生の声を集めた。それを機械に反映させるべく、その仕様は自分たちで考え、部品を買って組み立てて、作ってきたのである。
さすがの最新テクノロジーの会社でも、機械を組み立ててまで、そのテクノロジーの可能性を模索することはしないものであり、だから稀なのだ。
ハードを自ら生み出し、ソフトの可能性を模索する
では、なぜ彼らがそれをできるのか。その理由も簡単で、彼ら自身はテクノロジーを駆使しながらも、自ら商品を作っているメーカーとしての顔も持つからだ。この外観検査についても、自らが商品を作る過程で知った。
現場の人と話すうち、そこに課題があることに気づき、解決できるのは、自分たちの持つテクノロジーと、それを活かす知恵なのだと。僕が注目した所以はそこにある。
日本のものづくりを救おうと立ち上がった最新鋭のテクノロジーの企業は、実はものづくりの会社であったということ。ものづくりへの想いゆえに、ものづくりを救うこのソリューションへの魂にも力がこもる。
受け止める企業側の考え方の変化も必要
これだけのソリューションだから、それなりの費用もかかるだろう。最初は躊躇する会社もいたが、結果、例えば、先程の外観検査でもし、ミスが一つでも発見されれば、ある一定の数量まとめて、返品ということもなくはない。
その時の額は、ざっと数えて、数百万円に及ぶ時もある。だから、自ずとそのソリューションの重要性を工場側も感じたのである。
そのリスクヘッジを含めて、企業の事業構造を変えて、そのソリューションを導入することの方が、先々の経営を鑑みれば、必要不可欠なのだ。
確かに、過去に依存する企業の多くは、まさに部分部分で見て、俯瞰で見ていないから、そういうものの価値に気付けないわけで、この工場側の前向きな姿勢にも拍手を送りたい。
見るべきはソフトとハードの両面から
僕は思った。僕らはソフトがもたらす利便性や新しさに目が行きがちだけど、実はソフトの力を最大限引き出すハードの力があってこそであると。ソフトとハードの両輪が回ってこそ、時代の進化があるのだ、と。
昨今、デジタルシフトが進む中である。そこで早くデジタルを取り入れて、と焦る気持ちはわかるが、肝心の人間がそのデジタルをどう活用して、人々の価値へとつなげていくのかを考えるのが、先決である。
自分たちの強みを生かせるかの答えが、テクノロジーではなくて、各々の頭の中にあるのではないか。原点に立ち返って、自分たちの立ち位置と、頭を使うことから、現状打破がある。そう思うのだ。
JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役