コンテンツとシステム「寿命と採算」
JECCICA特別講師 笹本 克
「いつまで使えますか?」
「多少お値段は張りますが、長く使える分、こちらの方がお得です。流行に左右されないベーシックなデザインなので、長く着ていただけますし、他のお洋服とのコーディネートもしやすいので、ヘビーローテーションが可能です。」
この様な店員さんのコトバに押されて、買い物をされた経験も少なからずだと思います。
あるいは、30年でリフォームが必要となる家と、50年は住めると保障された家があって、50年住める方の家が3割高いとした場合、どちらがお得でしょうか。
これは製品寿命を考慮に入れた、減価償却的な「採算」の考え方ですが、ECサイトの運営にあたっては「製品寿命と採算」的な観点を全く持たないで、コンテンツ制作やシステムの導入などを行う企業がほとんどの様に思えます。
私がコンサルティングをしているクライアントに対しては、EC関連の様々なツールやサービスの導入、あるいはコンテンツを制作する際に、「いつまで使えるか?も考えて選択して下さい。」と言っています。
この「選択」は、様々なことを考慮に入れる必要があり、また、変化の激しいEC業界のなかで、将来、何が残って何が廃れていくのかを見極めていくのは容易ではないのですが、この「選択」が、コンテンツ制作費や、システム導入費の減価償却期間を決めるのです。
当然ながら、2〜3年で作り直しが必要となるのか、10年以上そのままでも通用するのかに依って、減価償却の金額も大幅に異なってきます。
右肩上がりのECの黎明期には、投資の回収期間も短く、それほど気にする必要もありませんでしたが、現在のEC市場は伸びているとはいえ、その伸び方は黎明期ほどではありません。従って、今後は製造業における生産ラインなどへの投資のごとく、新しいツールやサービスの導入に当たっては「寿命と採算」を考慮にいれるべきかと思います。
もちろん、未来が分かる人はだれにもいませんが、今まで私がクライアントに行ってきた「選択」は、幸運にも?寿命が長く、ほぼ採算がとれる=今も十分に通用しているという結果になっています。
ECにおける様々なツールやサービス、あるいは“制度”やテクニックなどについて、私が「寿命」を“予想“する時に留意していることは、【過去の累積を含めた普及度(シェア)と汎用性】なのです。
たとえば、HPを作る“言語“は、HTMLを筆頭に、XMLやJAVAスクリプトなど様々なものがあります。
すべてのレイアウトをCSSなどで構成することもできますし、PHPの形でも作れます。
将来もさらに様々な便利な”言語”が出てくると思いますが、私は「新しいもの」は多くの場合、現在の「少数派」であり、少数派は、将来出てくるであろうツールやデバイスなどではフォローされない可能性があると思うのです。
例を挙げれば、PDFファイル内の文章は、グーグルでは検索結果に表示されるのに、Windows7でのPC内のファイル検索や、中国の検索エンジン=百度では検索結果に出て来ません。
つまり、PDF内の文章を読み取ることについては、技術的には可能であろうことでも、PC内の検索や、百度などではフォローしていないということになるかと思います。
仮にPDFだけで作られたHPがあったとして、
「今はグーグル検索できるし、インターネットエクスプローラーで閲覧できるし。」
「安全度も高いし、タグを打ってレイアウトを作る手間も省けるから便利だし。」
「だからPDFでHPを作る」
という「選択」した後に、ex.中国語⇔日本語の精度の高い翻訳エンジンが普及して、日本語で作ったページでも中国の方々が細かいニュアンスまでも分かる様な時代になり、海外向け通販の環境も整って、中国向け通販が急成長という様な場合には、中国で圧倒的シェアを持つ検索エンジン:百度にHPを読み取ってもらえない限り、何万ページあろうと、すべてのHPを作り直す必要に迫られることになります。
この話を、「そんな奴いね〜よ」と笑った人こそ、大正解。
PDFだけのHPのごとく、「少数派」は、【今は大丈夫】であっても将来どうなるか?は分かりません。
だから、ツールやサービス、あるいは制度やテクニックの「選択」については、「大多数派」に属しているかを真剣に考えるべきなのです。
そしてこれこそが「寿命」つまり、減価償却期間を決定づけます。
「大多数派」に属しているかぎり、今後出てくるツールやデバイスは、これらを必ずフォローします。
たとえば、今後、どんなブラウザが開発されようとも、HTMLだけは必ずフォローしますし、今後W3Cがどれだけ新しい言語を推奨しようとも、大多数のHP制作ソフトがHTMLを基本としているかぎり、たぶんHTMLは使われ続けるでしょう。
「タグ打ち」の時代から累積されたHPの量を考えれば、新しいデバイスもHTMLをフォローしつづけます。
複数店舗からの受注を一括して処理できるソフトなども(しばらくの間は?)楽天とヤフーは必ずフォローするはずですし(でもビッダーズはどうなるか分からない…。)データベースなら、タブ区切りテキストに置き換えられる限りは高い汎用性があるので、寿命も長いでしょう。
カートに代表される各種ASPサービスなども、多くの人が使っているもの程、サービスが終了してしまう可能性は低いと思うのです。
今後も、音声認識や翻訳エンジンの精度向上、多くの商品にICチップが埋め込まれたり、鉄道系プリペイドカードの普及や顔認証など、ECを取り巻く環境はさらに変化してゆくと思います。
【今までより便利=新しい=たぶん少数派】ということを、あえて念頭に置いた上で、汎用性なども考慮に入れて、「今までより便利な新しいもの」を上手に「選択」して頂ければと思います。
JECCICA特別講師 笹本 克
自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。