ネット通販の将来像 〜「残りの9割以上」は?
JECCICA特別講師 笹本 克
楽天やアマゾンの商品売上が伸び悩んでいるというニュースを耳にする昨今、一般消費財については一通り出尽くした感もあります。
簡単に言えば大抵のものは買える様になっています。
TVや雑誌で見た品物をすぐにお取り寄せできる時代。
北海道のホタテも遠州の生シラスも京野菜も宮古島の塩も、越前和紙も銀座のスイーツも。
最先端のファッションだって、3~4日待てば届く。
そんな時代になってから10年程度は経っているのではないでしょうか。
現在のネットモールというビジネスモデルも黎明期から数えれば20年弱。
そろそろ賞味期限が来ているのかもしれません。
とはいえ、すぐにモールが無くなると言っているわけではありませんが。
未来は誰にもわかりませんが、「EC」と言っている内は、「先端」を追っているうちは、現状に比べそれほど大きな変化はないと思っています。
日本の個人消費総額の「3%を超えた、5%を超える?」などといっても、つまりは9割以上が「ネットを使っていない」ことになります。
(但し、レストランや美容院、あるいは小売の実店舗の場所をネットで探すなど、ネット「経由」の消費を含めるとすれば、かなり上乗せされるとは思いますが。)
従い、ネット通販の大変化は、「のこりの9割以上」に改めて注目し、これをネットに取り込める可能性が見えてきた時だと思っています。
現在ではアタリマエ=定番になった様々な商品やサービス、あるいは販売手法や概念など、すべてリリースされた当時においては、革新であり先端でした。
たとえば、インターネットで品物が売れるのか?と言っていた時代もありましたし、お茶や水をお金出して買う人がいるか?と言っていた時代もありました。
夜中にパンや野菜を買いに来る人がいるのか?と言っていた時代からは今のコンビニエンスストアの隆盛は予想できなかったでしょう。
もちろん、この中から「進化」と「淘汰」のステップを経て、現在の「定番」が生まれたわけですが、リリースされた当時=最新&先端の段階においては、何が淘汰されて、なにが定番=ビジネスの大きな幹となりえるのかを判断することは、天才レベルの一握りの人しかできないことであり、現在の「定番」を創り上げた方々も、とりあえずやってみた結果、「幸運にも」定番となりえたというのが本音ではないでしょうか。
たとえば、エコは定番として残ったが、ロハスは淘汰され、私の知人の中では現在もRSSリーダを使っている人はいませんし、プレゼント企画でメールアドレスを万単位で集めて……と言う人も今はいません。(笑)
少なくともリリース当時は、まちがいなく先端であったはずなのですが。
私が思うに、トレンドや先端技術、あるいは最新の販売手法や新しい概念の中から、数十年の寿命を持つ「定番」を見つけることは、かなり難易度が高いのではないかと思っています。
未来は誰にもわからない。
そして定番の陰で、淘汰されていった多くのものがあることをお忘れなく。
それでも、もしも笹本が「近い将来」を「残りの9割以上」を視野にいれた上で予想するとすれば、
- 今後も長期的に「続く」であろう社会動向
- 今まで長期に渡って「世間になじんできたもの」から遠くはなれていないもの
- 充分な普及度をもっている、あるいは期待できるデバイスによるもの
この3点を考慮したいと思います。
今後もまちがいなく「続く」であろう社会的動向としては、
- 人口の減少と高齢化
- 過疎化の影響による、小売実店舗と公共交通機関の採算割れ
- 通信料およびPCやスマホなどデバイスの、さらなる価格低下
などが挙げられますが、これらからどのようなことが推測できるでしょうか。
人口の減少に加えて、郊外型大規模ショッピングセンターなどにお客様を取られた結果、地元の商店街が崩壊し、気がつけば、「売れ筋商品」以外のものは車を使わないと買えない時代になりました。
スチールの定規や簡単な接着剤あるいはちょっとした厨房用品など、百円均一のショップに売っていなければ隣の町まで買いにいかなければならなくなっています。
そしてその店は、駅前ではなく市街から離れた幹線道路沿いにあり、バス路線も充分でないというのが一般的な構図になっているかと思います。
高齢化が進めば運転免許を返上する人も増えるでしょうし、足腰が弱くなって外出が面倒になりがちの人も増加すると思います。
この様な社会的動向から考えれば、ネット通販だけでなく生協などを含めた「宅配型」の消費は今後も増加してゆくでしょう。
でも、ここで考えなければならないのが、注文の「窓口」としてのデバイスです。
ネット経由個人消費の「残りの9割」を取りに行くとすれば、高齢者の方々は外せませんが、PCからの文字入力や画面が小さく操作がしにくいスマホとの親和性は低いと判断していますが読者の皆様はいかがでしょうか。
また高齢者の方々でなくても、義務教育でキーボードを習った人はほとんどいないかと思います。
仮に、音声入力の精度向上などで入力ユーザービリティ―が改善されても、「一覧性」という大きな課題が残されています。
新聞折り込みのチラシや食品スーパーなどのリアルの店内は、「一度」に「様々な」商品が目に留まります。
ネットショップの場合スクロールせずに一度に見える商品数は多くてもやっと2桁を超える程度ですが、新聞を半分に折りたたんだ大きさのチラシでも商品掲載数は100を超えるかと思います。
コンビニでも商品数は3千点以上。
そして、この一覧性の高いフィールドでは、「今日の夕飯、何にしようかしら」「何か面白い本はないかな?」という【曖昧ニーズへの対応】が可能なのです。
さらには、「あ、お味噌が切れそうだったわね」「ついでにポテチも買っちゃおうかな」という「リマインド」や「ついで買い」のトリガーになるわけです。
現在のECは「○○が欲しい」という具体性を持った「指名買い」については、ほぼ網羅していると言えますが、一覧性の課題もあって、曖昧ニーズへの対応はほとんどできていません。
私は個人消費の9割は生活必需品と曖昧ニーズであると考えていますが、ここを取りに行く必要があるのではないでしょうか。
「残りの9割」を視野にいれた上での笹本が思う将来像とは、
A3版サイズ以上のキッチンタブレット(=タッチパネル&音声入力)が普及し、孫やご近所のお友達とTV電話を楽しみ、紙でなじんだチラシ代わりの充分な一覧性が高い画面で日常品を選び、場合によっては、「今日のオススメは?」の様なキュレーションを求め、買い物のコミュニケーションも楽しみつつ、昔なじんだ三河屋さんのごとく何でも届けてくれる。
配送は物流各社が個別に届ける現在の形からエリア担当型へ変化し、洋服もお米も新聞も牛乳もネットで注文したものは全てまとめて1日2回届く……。
こんな感じでしょうか。
ネットが本当の日常生活を取り込む時代には、ECなんて呼び名は消えると思っています。 「さて、昼メシ何にしようかなっ」(笑)
JECCICA特別講師 笹本 克
自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務め、DeNA、Yahoo!Japanショッピング事業部へのレクチャー、ドリームゲート起業講座の他、コンサルサイトの累計約600社、多業種でのコンサル実績も豊富。