ネットスーパーの現在地の整理
イトーヨーカドーがネットスーパー撤退を発表
セブン&アイ・ホールディングスは、傘下のイトーヨーカドーがネットスーパー事業から撤退することを発表しました。事業が堅調であれば撤退することはないのでしょうから、実際には売上はなかなか伸びなかったということかと思います。とは言え数百億規模の売上はあったわけであり、また2023年には横浜に大型のセンターを稼働させていましたので、やや勿体ないと思う方は多いのではないでしょうか。選択と集中に基づく経営判断ですので、外野がとやかく言うことではないのですが、私は何だかモヤモヤした感覚を払拭することができません。ということで、今回のコラムはネットスーパーに関するファクトを整理しておきたいと思います。
ネットスーパーの市場規模は拡大中
市場規模をチェックしておきましょう。いくつかのリソースを基にした当方の推計では、2023年のネットスーパーの市場規模は4,852億円です。グラフの通り2020年は3,493億円ですので、市場規模は着実に大きくなっています。イトーヨーカドーが撤退と聞くと、市場規模は大きくなっていないのかと思ってしまいますが、そうではありません。そのような状況下での撤退判断です。マクロ目線では上げ潮のマーケットであると捉えますが、実態としてはかなり競争が激化しており、イトーヨーカドーは思い描いていた通りには売上が上がらなかったということでしょう。
スーパーの規模感に基づく考察
一般社団法人全国スーパーマーケット協会の「2023年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、総売上高に占めるネットスーパー売上高の比率は平均で1.2%との回答結果です。ただし小規模店舗中心型のスーパーの場合0.8%と小さい一方、大規模店舗中心型は1.9%と平均値よりも高くなります。つまりネットスーパーは基本的には規模が大きいスーパーの方が有利ということがデータからわかります。しかしながら三重県のスーパーサンシはネットスーパーの成功事例として有名です。しかし同スーパーは決して大規模ではありません。よって必ずしも規模が大きくないからネットスーパーは難しいというわけではないようです。
利益率はどうか
利益率については明確なデータが表に出るケースが少ないため、正確な把握が難しいのですが、総じて高いわけではないと考えられます。もともとスーパー事業の利益率は高いわけではないため、ネットスーパーだからと言って利益率が極端に高くはならないでしょう。ネットスーパーには店舗配送型とセンター配送型があります。店舗配送型の場合は店舗での通常業務と並行でピックアップ業務と配送業務が発生します。配送料を高額に設定することは難しいでしょから店舗配送型の場合利益率の面で厳しいと思われます。センター配送の場合も新たな設備投資や人員確保が必要になりますので、決して利益面でメリットがあるとは言い切れないのですが、スケールメリットを活かすことができれば利益を追求しやすくなるのではないでしょうか。
プレーヤーの動きに変化あり
楽天は西友と共に「楽天西友ネットスーパー」を2018年から運営していましたが、2023年12月に楽天自身が倉庫型ネットスーパー事業の運営を継続する形で完全子会社化しました。一方西友はそのタイミングで実店舗を起点とする店舗配送型ネットスーパー事業を単独運営する形態へと移行し、楽天自身による店舗配送型のネットスーパープラットフォーム「楽天全国スーパー」にあらためて出店するという、少し複雑な動きを見せています。
Amazonについては「Amazonフレッシュ」(東京、神奈川、千葉、埼玉)、「ライフ」(東京、神奈川、千葉、兵庫、京都、大阪)、「バロー」(愛知)、「成城石井」(東京、神奈川、愛知)、「アークス」(北海道)、「マルキョウ」(福岡)を展開しており、少しずつ全国展開のエリアを拡大しています。またイオンは2023年7月に「Green Beans」を新たに立ち上げるなど、ネットスーパー業界は常に変化しています。このような動きにイトーヨーカドーは取り残されたのかもしれません。
展望
消費者によるネットスーパーの利用に関するアンケートを見ていると、徐々に利用が広がっているように思えます。共働き世帯の増加、高齢化による家事負担の軽減など、ネットスーパーの利用はこれから先不可逆的に進むでしょう。主要プレーヤーの離脱は厳しい競争が繰り広げられていることの証明でしょうが、サービス品質を競うことは重要ではあるものの競争によるプレーヤー同士の消耗戦だけはなって欲しくないと個人的には思っています。消費者の利便性向上と利益確保の両立ができるよう、各プレーヤーの皆様には是非頑張って欲しいと願っています。
ネットスーパーの市場規模推移(単位:億円)

JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役