人流増加に見る今後のEC市場
様々なデータを基に分析しコンサルティングに活かすスタイルでビジネスを行っている私としましては、新たな年がスタートしたこのタイミングというのは前年のデータがどのようなものであったかとても気になる時期です。常に多くの種類のデータをウォッチしているのですが、今回は2022年の「人出」について触れたいと思います。
人出とECとの関係
2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大し始めて緊急事態宣言が発令されました。これにより国民は不要不急の外出を控えたわけですが、皆様ご存じのように巣ごもり消費ということでEC市場が急拡大しました。つまり人流とEC以上規模の拡大は相関関係があります。終息しているわけではないにも関わらず人々のコロナ慣れや外食、小売店舗のコロナ対策の徹底もあり、2022年は人出が増加したと言われています。したがって2022年の人流を把握することは同年のEC市場規模の増加具合をいち早く予想する上で重要なファクターです。
参照データは?
内閣官房がコロナ対策の一環として47都道府県の主要地点・歓楽街の人出をモニタリングしており、インターネット上で公開されています。細かく言うと次の内容となっています。
●47都道府県毎に各主要地点・歓楽街の人出をデイリーで計測
●2019年初よりデータが存在
●計測時間帯は次の3種類(①8時 ②15時 ③21時と28時の差)
●NTTドコモ及びドコモ・インサイトマーケティング提供の「モバイル空間統計」を使用
●2019年の最大の人出の日を基準にそれ以外の日を相対比率として日別に算出
尚データ公開サイトは次の通りです。
https://corona.go.jp/dashboard/
以上を基に私は2019年~2022年それぞれの年間トータルでの人出(日別での相対比率の年間総計)を集計し、さらに2019年に対し2020年~2022年がどうであったか相対比率を算出してみました。
日中の人出はかなり戻っている
先ずは全国平均。2019年の年間総計を100%とした場合の2020年~2022年の相対比率は次の通りです。2020年は72.2%、2021年はさらに下落して69.3%でした。しかしながら2022年は80.1%にまで回復しています。2019年のレベルにはまだ遠いですが、着実に人出が戻ってきていると見てよいでしょう。尚これは3つの計測時間帯の和での計算です。本コラムでグラフ化していませんが、「①8時」の時間帯で比較すると2020年から2022年にかけては78.6%→80.9%→88.5%、「②15時」の時間帯は77.4%→80.2%→86.9%となっています。また「③21時と28時の差」は58.6%→42.7%→62.0%となっています。つまり夜の人出の戻りが十分ではない一方、8時、15時といった日中の人出はかなり戻っていることになります。
2019年の人出の年間総計を100%とした場合の2020年~2022年の相対比率
出所:新型コロナウイルス感染症対策 人流・モニタリング調査(内閣官房)のデータをもとに株式会社デジタルコマース総合研究所算出
都道府県別ではどうか?
次に都道府県別の結果です。3つの計測時間帯の和について2019年に対する2022年の相対比率を都道府県別に算出してみました。全国平均は上述の通り80.1%ですが、都道府県ごとに値が異なる結果となりました。以下上位と下位の10都道府県になります。
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上位10 都道府県 相対比率 1位 鳥取県 98.0% 2位 滋賀県 93.0% 3位 秋田県 92.8% 4位 山梨県 91.9% 5位 沖縄県 90.8% 6位 和歌山県 90.6% 7位 富山県 89.8% 8位 栃木県 88.9% 9位 岡山県 88.9% 10位 島根県 88.4% -
下位10 都道府県 相対比率 38位 鹿児島県 80.3% 39位 石川県 80.2% 40位 長崎県 79.3% 41位 山口県 79.1% 42位 岐阜県 78.5% 43位 宮崎県 76.7% 44位 広島県 76.4% 45位 熊本県 75.4% 46位 愛知県 75.3% 47位 東京都 70.5%
出所:新型コロナウイルス感染症対策 人流・モニタリング調査(内閣官房)のデータをもとに株式会社デジタルコマース総合研究所算出
東西南北での所在位置の違いや人口の違いなどが特徴として挙げられるかと思いきや、見たところ上位と下位で都道府県別に大きな特徴は見られません。ただし1点だけ言えることは東京都が最下位と言う点です。これは恐らく地方の方々が東京に遊びや出張で出かけること控えたのがその理由ではないかと思いますが、大阪府が20位に位置していることから断定的にそうとも言い切れません。ともあれ、いずれにせよ2022年は全国的に見て地域別で大きな偏りはなくかなり人出が戻ってきていると言えます。
2023年のEC市場の伸長率はいかに
巣ごもり消費の恩恵を受け2020年の物販系分野のBtoC-EC市場規模は前年比で21.71%の伸長率でした。翌年の2021年は8.61%の伸びに止まりましたが2020年の大幅な伸びの反動分を含んでいた感があります。上述の通り人流が大きく戻りつつありますので2022年のEC市場の伸長率はかなり低くなるのではないかと想定されます。まだ数値を算出していませんが恐らく5%を下回るのではないでしょうか。加えて言えば、この人流の戻りは一過性の現象ではなくよほど大型のパンデミックが生じない限り 2023年以降も人出は増える傾向だと考えられます。したがって2023年以降の数年間、EC市場は最大でも5%の伸長率で推移するのではないかと私は予測します。
JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役