楽しく誰にも分かるマーケティング:Vol㊹ 「サプライズの仕掛け人」がライフシフトを提案する時代
バブル経済がもたらした価値とは?
皆さんは昭和から平成にかけて日本中が沸いた「バブル経済」に対して、どんなイメージをお持ちでしょうか?バブルが崩壊してちょうど30年。既に50歳以下の方は当時の社会人経験がないため、都市伝説のような話の理解くらいかもしれません。
バブル経済は1986年頃から始まり、1991年2月に終焉した、株価や地価など資産価格の急激な上昇と、それに伴う好景気のことです。
バブルの都市伝説と言えば、高級住宅や輸入車が飛ぶように売れたとか、リゾート地、スキー場、高級ディスコはいつも満員とか、また企業は海外の企業や資産を買収して財テクに熱中し、接待費や交際費も大盤振る舞いで1万円を見せびらかせてタクシーを拾ったとか、これらは都市伝説ではなく全て事実です。
しかし、こうした浮かれた世の中が崩壊後、失われた時代に入ったと捉えられ、「バブル=負のイメージ」と考えている人も少なくありません。ではバブルがもたらしたプラス面、つまり「バブルの価値」とは何か?それは人間の右脳を生かし、世の中を「あっと言わせる仕掛け」が溢れかえっていたことではないかと考えています。そんな当時の仕事を私の体験から語ってみたいと思います。
高級即席麺のイメージを伝える「口説き文句」
バブル当時の私は20代後半、広告代理店の営業マンであり、仕事が分かってきて面白くなってきた頃でした。メインの広告主担当は即席麺メーカーの明星食品さん。1981年に「中国四千年の幻の麵」というキャッチコピーを業界最大手D社さんが仕掛け、「中華三昧」を発売し、明星食品さんは高級即席麵ブームの火付け役となりました。いま冷静に考えると即席麺であるにも関わらず、中国までロケに出かけて「中国四千年」を語るのも実に面白い仕掛けです。
その中華三昧が1987年リニューアルを機に、CM5社コンペがありました。中華三昧は当時の明星食品八原昌元社長の肝いり商品で、社長自らオリエンテーションで、「パリに住む岸恵子さんが中華三昧を、おもてなしに使っている。岸恵子さんに商品をお送りしたらお礼の手紙を頂いた。そのくらいこの商品のクオリティは高いのです。」と、岸恵子さんファンの社長が私たちにお話しされたのです。。
早速戻って企画会議。当時の広告はキャッチコピー、つまり「口説き文句」が重要で、先ずコピーライターを探しました。そこで起用したのが、資生堂宣伝部出身の小野田隆雄氏でした。「ゆれる、まなざし」、「ナツコの夏」など、一連の資生堂キャンペーンのヒットコピーを連発された方です。
社内スタッフは、「プレミアム感」をどう訴求するか議論しましたが、社長の話をそのまま表現するのは、あまりに芸がないと考えました。しかし小野田さんは、「社長の言葉と思いを、そのまま表現すべき。それもサービス業である広告代理店の仕事だ!」と力説され、岸恵子さんが自宅にお客様を招き、「拉麺の名作です。」というキャッチコピーで伝える案を提案しました。
結果、5社の中で他に岸恵子さんを提案したのは業界最大手のD社。しかしD社は岸恵子さん単独起用で、社長のストーリーをそのまま提案した我々の案が採用されたのです。業界最大手D社に勝ったのは、幕下力士が横綱に買ったようで現場は興奮しました。
そして岸恵子さんのお客様は、当時「ミカドの肖像」で脚光を浴びた作家の猪瀬直樹氏。スケジュールがとてもタイトな中でパリロケを敢行したのです。
「1,000円の即席麺」で注目させた後に満を持して市場導入
そしてユニークな市場導入作戦を実施しました。それは豪華レトルトの具をセットした、究極の1,000円「新中華三昧特別仕様」を、伊勢丹など都内デパートで限定販売してマスコミにパブリシティを仕込んだのです。その結果売り場に行列が出来て即完売。1,000円の幻のラーメンという評判が沸き、再びパブリシティに取り上げられて話題は拡散しました。
そんな「世の中のどよめき」がある中で満を持して、直後に麵とスープだけの120円の量産品を量販店やスーパーで販売したところ再び中華三昧はヒット商品となり、リニューアル作戦は成功したのです。
「面白いことを仕掛けよう!」という熱量の高さ
今振り返って思うのは、確かに麺とスープは絶品で、品質が高いとは言え、即席麵であそこまで仰々しいキャッチコピーや海外ロケ、そして1,000円ラーメン発売と、全ては「面白いことを仕掛け、世の中をあっと言わせよう!」という気持ちで、関係者一体となって熱量が高かったことです。
当時は遊ぶ時間がないほど仕事は忙しいのですが、リリースされた時に話題になると、流行の仕掛け人のように自分が思えて自己肯定感に繋がったのです。金曜日が終わると早く月曜日が来ないかと思えたほど仕事に夢中になり、オン・オフ一体で想像力を生かしていたと思います。
こうした企画が通る背景には、バブルの恩恵で広告主にお金があったことは大きく、私たち広告代理店は、「あらゆる仕掛け」を創造していました。まさに全員がクリエーターだったように思います。
人類未体験のアフターコロナ(ウィズコロナ)と人生100年時代、再びビジネスパーソンの創造力を生かす時代だと思います。世の中をあっと言わせる「サプライズの仕掛け人」が顧客の気づいていない潜在ニーズを喚起し、顧客を、そして社会をあっと言わせる時代が再び到来したのです。
それを実現するポイントは、「実体験と仮説力、そして行動力」だと思います。このお話の詳細は次回にお伝えします。
※次回に続く
JECCICA客員講師 鈴木 準
株式会社ジェイ・ビーム マーケティングコンサルタント
マーケティングコミュニケーションコンサルタント。「顧客視点でのマーケティング」を信条とし、生活者の価値提供を最重要視したマーケティングコミュニケーション領域の、コンサルティング&プランニングを手掛ける。