「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.20 ことばづくりのご注意ポイント
今回は企業や組織でつくる「ことばづくり」にまつわるお話です。ネーミングやタイトル、ステートメントなど「新しく何かを名付ける・表明する」ときに注意が必要なポイント、なるべく避けた方がいいことなどを挙げてみますね。
★読めない、発音がしづらい
日本語にしろ横文字にしろ、綴った時に一般の人が「何て読むの?」と首をかしげてしまうものは、いくら思い入れがあっても「日本で広く認知されたい」という場合は避けた方がよいかも。
例えばフランス語。一般的な日本人の感覚では、綴りと実際の発音がなかなか結びつかないんですよね。フランス語で命名したい場合は慎重に。そういえばかつて私の男友達はデパートの中でGUERLAINという看板を見て「ガーレイン」と読みました。知名度が抜群でも難易度高いんですよね。(正解はゲラン)
というわけで普通の人がローマ字読みできそうにない名前はあまりおすすめはしません。ただ「短め」「綴りを見ても発音しやすい」「音の響きがいい」などがあれば、検討してもいいかも。最初からカタカナ表記してしまうのも手ですね。
★漢字やひらがなが連続しすぎる
これはキャッチフレーズ、ステートメント、件名やタイトルなどで注意すべき点です。
いかに強い売りだとしても「超特価!四年連続売上一位!」みたいなタイトルにしてしまうのはNG。まず字面が怖い。メッセージというより暴走族の落書き(古っ)。目が滑って1つ1つの文字が入ってきません。
漢字は、四文字以上は続けないようにした方がいいでしょう。
ではひらがなならいいかというと、そうでもありません。この文章をみてもわかるように、これもまたよみづらいものです。漢字とひらがな、カタカナはバランスよく。
★時代性を多分に帯びている
少し前の小説を読んでいたら、登場人物の会話に「オジン」「KY」みたいな言葉が出てきて、ちょっと古いなーと気になったことが何度かあります。
流行り言葉や今っぽい言い回し、生まれたてほやほやワードなどは、「長く使う」ということを想定した場合には向きません。その時は旬っぽくていいけれど、賞味期限は予想以上に短い。逆に瞬間風速的なキャッチコピーには向いているかも。
ただ毎年開催されている「流行語大賞」の何ともお寒い感じを見ていると、やっぱり大人や企業人はおいそれと使わない方がいいと私は思います。特定の界隈のみで通用する略語やネットミームも、同様です。
★女性向け・男性向けにそれらしくする
「女性ウケを考えてこういう雰囲気に」「男性向けならこうかな」と考えるのは決して悪いことではないけれど、これもまた令和では危ういなーと思います。
考案者や決定権を持つ人のジェンダー観が如実に出てしまうものだし、それが果たして時代にフィットしているか、今の女性たち男性たちの感覚と合致しているかは甚だ怪しいからです。
かつて「女性はピンクを好むから」という理由で、商品パッケージやwebサイトが何でもかんでもパステルピンクにされる事象がありました。当の女性たちはそれを好まず、むしろダサいと思っていた…といういわゆる「ダサピンク現象」が取り沙汰されていましたが、ことばやネーミングの面でも同じ。ダサいくらいならまだしも、旧く固定された価値観や性差の呪いをかけてはいけません。なるべくフラットなものにする方がよいと思います。
★略称を先に考える
いまやサービス名、ゲーム、小説、映画、ドラマに至るまで、あらゆるものが略して呼ばれるのが当たり前になりました。
とはいえ私は「略称はお客さんや愛好者から自然発生的に生まれる」方がいいと思っています。企業側が先に決めて発信することが悪いとは言いませんが、下手すると身内の盛り上がりにお客さまが引いてしまう可能性も。
ただ「この名前だとこういう略称で呼んでもらえそう」と想定しておくのはいいと思います。それを想定しながらあえて黙っておく、くらいがいいかも。
…とまあ色々「やめた方がいいこと」を並べてしまいましたが、では一体どういうものがいいでしょうか?
それはズバリ「造語」。今までにない言葉を自分たちで作ってしまう。ネーミングに関してはそれが一番のおすすめです。
①独自性が出やすく、かぶりづらい
②検索で見つけやすい
③誰も知らない言葉なので、意味を伝える機会が生まれる
④発音や覚えやすさなどのコントロールがしやすい
そしてネーミングは単純・簡単なものほど愛されやすいと思います。ヤフーやグーグル、ナイキ…。意味が分からなくとも長く愛されている名前を思い浮かべると、納得できるかも。
または、いっそのこと長いのもアリです。商品名で言えば「辛そうで辛くない少し辛いラー油」「じっくりコトコト煮込んだスープ」。団体名(?)で言えばアース・ウィンド・アンド・ファイアーとか。
長い名前の良さは「つい声に出して読みたくなる」ところ。舌にのせて一気に発音したときの心地よさのようなものは、短い名前では味わえませんから。
何にせよ大事なのは「自分たちの個性を自分たちのことばで語ること」。もし行き詰まったら、ぜひ私にご相談下さいませ!
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。