「伝える」と「伝わる」のあいだにVol.2 あるインストラクターの小さな工夫
こんにちは!コピーライターの近藤あゆみです。
突然ですがみなさんは「伝えたはずなのに認識されてない」「ちゃんと書いてあるのに目に留めてもらえない」ってモヤモヤすることないですか?
「言った」と「頭に入った」。
「書いておいた」と「目に入った」。
これらは意外とスムーズにつながらないし、「記憶した・理解した」まではもっと難しい。ボールを投げたつもりなのに相手は受け止めてくれないどころかボールが飛んできたことにも気づいてない。どうしたらいいんだ!今回はそんなお話です。
私はもう何年も「暗闇ボクシング」に通っています。派手な照明と音楽の中ボクササイズをするジムです。「パフォーマー」と呼ばれるインストラクターがキューを出しながら目の前でお手本を見せてくれるので、それに従って動きます。彼らはプログラム開始前にはお客さんに基本動作と用語の説明をし、プログラムが始まったら鳴り響く爆音に負けじとキューを出さねばなりません。
その中で、とある二人のパフォーマーさんが今でも印象に残っています。
通い始めの頃、私は「ジャンプロープ」という用語が聞き取れませんでした。爆音の中でサラッと言われると「今なんて??」となるのです。「ジャブ」や「ジャンプ」とも混同しやすい。ところがAさんのプログラムを受けたら「ジャンプロープ、なわとび」というキューが聞こえたのです。その瞬間、私の疑問は氷解しました。ああ、JUMPとROPEか!縄跳びの動作か!と。Aさんはジャンプロープで迷う人をよく見かけたのでしょう。たった四文字の「なわとび」の効力は絶大で、彼の気づきと「伝える力」に拍手したくなりました。
もう一人のBさん。初めてのお客さんへの「このパンチを“ク ロ ス”っていいます」という説明にハッとしました。彼は「クロス」という用語をあえて一音ずつ区切り、ゆっくり発音していたのです。
アナウンサーや舞台俳優でもない限り、我々が言葉をラフに発音すると頭の一音(ク)が消えたり、一音めとニ音め(クとロ)がつながって一音に聞こえたりします。ましてや音楽の鳴り響くスタジオでは聞き取りづらい。だからBさんは「初めて聞く人にも聞き取りやすいペースと言い方」で伝えたのです。細かな配慮がすごい…とこれまたグッときました。
真逆のケースには日常でよく遭遇します。
例えば携帯ショップなどで何らかのルールやキャンペーンを説明される時。店員さんは同じセリフを毎日毎日、もう5億回くらい繰り返してる。なので淀みなく話してくれるけど、淀みなさすぎてもはや説明ではなく「歌」や「読経」に近くなってる。これ、初めて聞く側にとっては頭に入ってこないんですよね。「言葉の羅列を口に出すこと」がルーティン化してて、相手が聞いてるのかどうか、聞き取りやすいか、完全に抜け落ちてる状態ですね。
あるいはプレゼンや発表の場。発表者の背後にはスライド、前には聴衆。発表者は自分の手元の資料やスライドを見ながら、書いてある文章を読み上げている。こういう光景もよくありますよね。目の前の人たちを見ることなくただ読んでるもんだから言葉は聴衆の頭上を素通りしていく。メリハリがなく、BGMや子守唄のように聴こえるのでそのうち眠気が襲ってくる…。
これ、自分が発信側になる時には意外と忘れがちなこと。そして「何でちゃんと聞いて覚えてくれないんだろう」ってイラついてしまう。
情報を人前で読めば、必要事項を文字に起こして置いておけば、相手は読み取ってくれる?いいえ。人にしみ込まない言葉は、ひとりごとや地面に落ちてる紙とおんなじ。それは単なる文字列であり、雑音であり、景色に過ぎないのです。
自分の発信が「伝わる」ためにはどうすればいいのでしょう?
まずは「目の前には生きた人間がいる」ということを強く認識するのが大事だと私は思います。それはオンラインでも全く同じ。
大勢でも「かたまり」として捉えない。それぞれを個人として認識し、1人1人としっかり目を合わせる。相手の状態と気持ちを想像しながら伝える。(TEDの優れたプレゼンターってそういう目配りや動作をしてる感じですよね!)
音声ならトーンやスピード。文字なら大きさや置く位置、バランス。そして「正しさ」より「わかりやすさ」に心を砕く。端的すぎても長すぎてもダメ。相手が飲み込んで咀嚼するための「余白」も取っておく…。
羅列すると難しい!って感じちゃうけど、工夫の1つ1つは前述の「なわとび」や「ク ロ ス」くらい、とても小さなことだと思います。
お客さんに。身近な人に。意識して1つ工夫するだけで「伝わらない」「相手の物分かりが悪い」というモヤモヤはかなり減るはず。ぜひトライしてみて下さい!
コピーライター 近藤あゆみ
Lamp 代表
博報堂コピーライターから(株)ネットプライス・クリエイティブディレクターを経てフリーに。企業のMMVやネーミング、サイトディレクションなど手がける。恋愛コラムやブログも人気を博す。