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経済圏とエコシステム ~楽天に期待したいこと~

「囲い込み」雑感
「囲い込み」という言葉を時折耳にします。この用語は今に始まったものではなく私がビジネスマンとしてデビューした1990年代からあたり当たり前のように使われていました。企業は獲得した顧客をできるだけ逃したくはありません。そこでポイント、値引き、カスタマイズ、サービスのグレードアップなど様々な仕掛けをもって企業は顧客のロックインをねらいます。これが囲い込み的発想のベースでしょう。最近は「LTV(ライフタイムバリュー)最大化」という用語があちらこちらで多用されています。囲い込みとは別次元の用語でありそれらを一緒くたにするのはやや乱暴でしょう。しかしLTVの最大化と囲い込みは、根っこは同じものではないでしょうか。企業は何らかの仕掛けをもって顧客が離脱しないよう自社への重力(Gravity)を作用させようとしています。それ自体は合理的な思考です。

楽天エコシステム(経済圏)という表現
さて、囲い込みといってよいかどうかわかりませんが具体例は〇〇経済圏でしょう。その代表格のひとつは楽天ではないでしょうか。ご存じの通り同社グループ傘下の企業は多彩です。楽天の場合、ひとつのIDによってグループ内のサービスを横串で利用することができる便利な機能を提供しています。ここで少しずつ主題に移りたいと思うのですが、同社のWebサイトには“~楽天会員を中心としたメンバーシップを軸に有機的に結び付けることで、他にはない独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を形成しています。”(原文のまま)と書かれています。このこと自体は良い取り組みだと思うのですが、私が気になるのは「楽天エコシステム(経済圏)」という表現部分です。皆さんは当たり前のように楽天経済圏、楽天エコシステムという表現を使っていることでしょう。最近まで私もそうでしたが、ふとしたきっかけで「これって正しい使い方だろうか?」と思い始めました。

エコシステムの本来の意味は生態系
そもそもエコシステムとは正確には生態系を意味する用語です。調べてみると1871年生まれの英国のアーサー・ジョージ・タンズリーという植物学者による造語のようです。現代においてエコシステムはビジネス用語としてよく使われていますが、元々は生態系を意味する自然科学の用語です。生態系ですのである生物が絶滅すれば生態系全体に影響を及ぼすことになります。これは既に学生時代に教わったことでしょう。生態系は生物同士の絶妙な生存関係のバランスの上に成り立っており、バランスが崩れないよう生態系の頂点に立つ人類がその維持にエネルギーを注いでいます。翻ってそのような用語が楽天に限らずビジネスの世界において経済圏と同義語として取り扱われていることに、ちょっとした違和感を覚えます。エコシステムの“エコ”は実はエコノミーではありません。

楽天グループはネット時代のコングロマリット
では楽天グループをどう捉えればよいでしょうか?垂直的な企業はグループ内に存在していますが、消費者からみれば水平的にいろいろなサービスが並んでいる印象です。異論があるかもしれませんが、私は楽天グループを「ネット時代のコングロマリット」だと思っています。コングロマリットとは業種の異なる複数の企業の集合体であり、それぞれの企業は直接的な関係を持ちません。ただ楽天グループが従来のコングロマリットと異なるのはまさに共通IDと楽天ポイントでつながっている点でしょう。したがって“ネット時代の”という接頭語的な言葉を付け足しました。とは言え共通IDでつながっていたとしても、極端な言い方をすれば例えば金融系の1社が仮に破綻したとしても楽天市場の出店者や消費者に影響が及ぶものではありません(※実際には何らかの影響はあるかもしれませんが理論上の話です)。つまり楽天グループは経済圏ではあるものの、絶妙なバランスで成り立つ生態系を形成しているわけではないと私は捉えています。

産業界でもエコシステムは存在する
それでは産業界でエコシステムは存在しないのかというとそういうわけではありません。例えばAppleは半導体や部品を外部のメーカーに依存していますので、そういう意味で産業生態系の一部であります。トヨタ自動車も同様です。私が最も注視したいのはもう少し目線を上げた流通全体の話です。メーカーによって製造されたモノは卸を経由して小売によって販売されます。卸は一次卸、二次卸と構造化しており、小売もスーパー、百貨店、コンビニ、ドラッグストア、もちろんECも含め多彩です。流通構造は国によって異なります。米国や中国と日本の流通構造は同じではありません。日本は日本なりに長年かけて現在のスタイルが形成されました。日本の流通構造を細かく調べてみると企業間の絶妙なバランスが保たれており、まさにエコシステム=生態系のような生き物の集合体の様に思えてなりません。

楽天に期待したい本質的なアプローチ
なぜこのような話をしたかったかですが、ズバリ中長期的な目線での楽天への期待に他なりません。EC市場はしょせんEC化率8.78%(2021年)と10%以下であり大半の購入はリアルで行われています。結局のところEC市場は特別な存在ではなく従来の流通構造という産業生態系の一部に過ぎません。EC市場がこれからも成長し続けるには、流通構造に何らかの変化が起きる必要があると私は見ています。その変化を起こすことができるのは楽天のような大きな存在の力が不可欠でしょう。グループ内に様々な企業を擁して多彩なサービスを提供し経済圏を形成するのは素晴らしいことです。同社は流通総額10兆円を目指す巨大企業として大きな影響力を持つようになっています。そこで、エコシステムと言うのであれば本来の意味に基づき、生態系に変化をもたらすような中長期的目線での本質的なアプローチを是非とも実践して欲しいと私は考えています。三木谷会長と直接会話する機会はありませんが、万一あるとすればこの点を伝えたいですね(※世の中の様々な企業が倒産しろと言うような過激な変化を求めているわけではない点、読者の皆様にはご理解くださいませ)。

JECCICA客員講師

JECCICA客員講師 本谷 知彦

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役


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