UPSが返品サービスのHappy Returnsを買収
Eコマースの普及に伴い、消費者はオンラインでの簡単な返品を期待するようになっています。Digital Commerce 360がオンライン購入者1,017名を対象に7月に実施した調査によりますと、購入者の52.3パーセントが、オンライン購入時の考慮事項トップ5の1つとして返品送料無料をあげており、また39パーセントは返品のコストも考慮していることから、オンライン小売業者にとって、消費者がいかに返品を安く容易にできるかがロイヤルティを高めることにつながります。
ただし、小売業者にとって、返品には多額の費用がかかるとも言われています。Wall Street Journalが今年の5月に報じた記事によりますと、企業は100ドルの返品をする処理に平均26.50ドルを支払っているということです。全米小売業連盟によりますと、2022年には小売購入額の約16.5パーセントにあたる、総額約8,160億ドルが返品されたそうです。
このような背景において、数年前にもご紹介したことがありますHappy Returnsは、ショッピングモールなどにあるカスタマーサービスや店舗などと提携し、Return Barsと呼ばれる返品箇所を設置し、Eコマースで購入した商品を簡単に返品できるサービスを提供してきております。
消費者は、Eコマースでの購入商品を梱包する必要なくそのままReturn Barsに持っていくだけで、梱包からその後の返品処理をHappy Returnsが行ってくれます。さらに通常は日数を要する返金処理もその場ですぐに行ってくれることから、実店舗をもたないEコマース専門の小売および消費者の両者にとって、価値の高いサービスとなっています。
2015年の創業後、現在は小売チェーンのPetcoやStaplesなどとの提携を通じて10,000以上のReturn Barsを有し、800もの小売業者の返品、返金を処理し、収益は2020年と比較して10倍に増加するほど成長しております。
最近、このHappy Returnsを物流運送の大手UPSが買収することが発表されました。ちなみにHappy Returnsは2021年にPayPalに買収されており、今回のUPSはPayPalからの買収となります。
UPSは、オンライントップ小売業者トップ1,000の半数以上が利用している配送サービスで、Happy Returnsの買収により、配送から返送まで一環した物流サービスの提供が可能となります。
Happy Returnsの簡単なデジタルエクスペリエンスと確立された引き渡しポイントを、UPSの小規模パッケージネットワークと5,200ヶ所近くあるUPSストアの拠点と組み合わせることで、箱なし、ラベルなしの返品が、アメリカ国内の各地にあるUPS拠点でも行うことが可能になります。さらに、UPSのデータによりますと、UPS単独での配送サービスを利用している小売業者に比べて、UPSに加えて他の配送業者も使用している小売業者のほうが圧倒的に多いそうです。
今回のHappy Returns買収は、UPSにとって他の配送業者からの囲い込みによる売上増加が見込めそうですので、とても価値ある買収と言えそうです。
JECCICA客員講師 渡辺泰宏
カリフォルニア在中チーフエグゼキュティブ、戦略ビジネスコンサルタント。日米の顧客に対し、新規ビシネス戦略立案および解約、新規パートナー開拓、コーポレートマーケティング、オンライン、ソーシャルメディア、モバイルマーケティングの戦略立案、EC市場動向分析及び商会等の戦略的コンサルティング。