ネットブランディングを考える EC成熟時代への対応
全国各地に名物があります。たとえば越前のカニ 浜名湖のうなぎ いや、九州の方々であればうなぎは柳川の方が・・・と言われるかも知れませんね。私の地元埼玉県の草加にも煎餅という名物がありますが、それでは草加煎餅の中で一番有名なお店はどこかご存知でしょうか。
「浜名湖」のうなぎは全国的に知名度が高くても、うなぎを売っている「具体的な店名」となると実は誰も良く知らないし、越前のカニにしても草加の煎餅にしても各地の名産品について同じことが言えるかと思います。
もちろん多数の販売業者が集積しているからこその名産であり、さらに“一番有名”という評価の部分についても様々な尺度があります。古くからの老舗を指しているのか 生産/販売の規模を指しているのか あるいは店舗の華やかさや面積の広さを指しているのかで“一番”は異なってきます。また通販やお土産として「家でたべるために」買うならココ、「食べに行く」のであればアソコのごとく「業態」や「使用する目的や環境」の違いによっても一番は異なるのです。もちろん均一な品質の商品を大量に安定的に欲しいという様なニーズであればなおのこと。そして「味」の評価など主観的な要素が介在する項目については、まさに多種多用な意見が出てくることになります。
一番が異なるとは一番が複数存在するということです。創業年数や売上、あるいは店舗面積など客観的な裏付けが存在するものでも、「細分化されたジャンル」においてはそれぞれの一番があるということになります。嗜好などの主観的な要素が介在してくれば“一番”はさらに“多様化”してきます。これによってそれぞれの業者がそれぞれの存在価値を見出すことができているという構図が成立します。
ちなみに「細分化」の項目は前述だけに留まりません。決済手段や期間、カスタマイズ/オーダーメイドの可否、あるいは納期や配送頻度に営業期間なども同様ですが、ほぼ“購買”という事象に付随する「全てのこと」が細分化の要素となるわけで、項目が増えるごとに“一番”の数も増えていくとこになるわけです。
細分化されたジャンルごとの一番という事象「=住み分け=共存」が成立するからこそ複数の業者が集積できます。そしてこれが名産地というブランドとなります。少なくともリアルのビジネスにおいての「集積と競合」はこの様な構図になっていて、細分化された自分のジャンルが見つかればリアルは幸いにも共存しやすい環境になっているかと思います。
(あっ、「うなぎ」をex.F2層のアパレル に あるいはex.ERP関連のシステム開発に ex.〇〇の通販に・・・など それぞれご自身のご商売に置き換えてお読み頂ければと思います。)
一方で、ネットの場合はというとリアルに比べて「細分化」を進める要素=“一番“を増やす要素が見えにくい環境にあるのではないでしょうか。例えば「うなぎ店」という検索結果に対してex.老舗順でソートをかけるという様なことは残念ながらできません。仮にユーザー自身が検索結果に出てきたサイトを一つ一つ見に行って創業年をチェックするとしても、実際に一番古くから創業しているお店のHPが検索結果の上位群に載っているとは限りません。もちろん店舗の広さや生産量、あるいは納期などについても同様のことが言えます。
従って、ユーザーから見れば「見てまわれる範囲内」において【 アタリをつけて 】それぞれのニーズやデマンドに合致する“一番“を選ぶという構図が一般的であるかと思います。
あえて「アタリをつける」という表現をさせて頂いたのですが、実はネットブランディングのヒントはここに潜んでいるのではないでしょうか。
「見てまわれる範囲」とは、言い換えれば徹底網羅した上での確定的なデータではないということでもあります。あくまで限定的な範囲の中で入手した情報なのです、またSNSでの第三者のコメントやポータルサイトなどでの質問に対する回答も、厳密に言えば情報発信者や回答者のコンテクスト(=単純に 背景や人物像 とお考え下さい。)が見えないので、その情報の信頼度については文脈から推し量る=“アタリをつける”しかないと言えます。
仮に地元の うなぎの名店 について回答した人が中学生だとしたら発信情報の信頼度はどの程度になるでしょうか。元気で裕福そうな地元のおじいさんからの発信情報であれば信頼に値すると思うのですが・・・。
リアルであれば情報発信者のコンテクストが見えるのに対し、ネットにおける情報は、「既知の人物」からのSNS経由の発信を除けば、コンテクストが見えない第三者の匿名情報に過ぎないと言っても良いかと思います。匿名度が高く信頼度も見えにくい発信だからこそex.複数の回答の中からベストアンサーを選ぶという様な機能が必要となったりしているのでしょう。
実は、ネット内で得られる情報は 限定的な範囲において入手した、客観的な事実という根拠に乏しく、情報の信頼度に関わる発信者のコンテクストなども不明瞭なものです。先般フェイクニュースという事件?がありましたが、これもネット情報の不確実性を証明する一例です。ネットショッピングにおける売り手や商品などの情報についても、第三者のコメントやレコメンドを含め、ユーザーはいつでも「アタリをつける」という嗅覚を働かせながら、
【 たぶん 】ここが一番(ではないだろうか?)
という“憶測”の元に購入先などを選別していると言ってよいかと思います。
あくまで憶測なのです。ネットは、老舗順の例のごとく購買行動に付随する客観的な事実を確認するには不便なつくりになっています。第三者情報にしても発信者の人物像を知るには至らない匿名性の高いものなので、信頼度が見えない構図になっています。となると「アタリをつける」ためにはショップや商品について述べた「内容」よりもレコメンドなどの「数」の方を頼りにするしかないのも無理はないのですが・・・。
ちなみにリアルの日常生活においては、数を頼りにして発信情報の信頼度=商品やサービスのクォリティーを推し量って購入の可否を判断するという場面は皆無に近いのではないでしょうか。一人の友人からの1件の発信情報ex.「あそこの店、いい感じだったよ」これだけでも購買行動を喚起するには充分かも知れません。さらに、仮に家族と友人(=異なるグループに属する情報発信者)の計2名から同一の店名を聞いたとなれば、この2件の情報だけでもその店名はもうブランドとして認知されることになるでしょう。数を頼りにせざるを得ない匿名情報と発信者のコンテクスト(背景や人物像)が見える情報をにはこれだけの“質の差”があるのです。
この様に考えてみると、ネットでのブランディングは根拠に薄い曖昧な“憶測”によって成立していると言っても過言ではないでしょう。逆に言えばブランディングの際に客観的な根拠を提示する必要もなく、根拠を調べられる可能性も低いのがネットであり、(仮に事実とは異なったとしても)ユーザーから見ての“憶測”の範囲にあればOKなのです。
前述のうなぎを例に取れば浜名湖周辺=例えば浜松市の住所を持ち、風格が漂う素敵なサイトを整えて、検索結果や評価サイトなどの“同業者の集積地“において ユーザーが「とりあえず見てまわれる範囲」にポジショニングしておけば、ユーザーの”憶測“の範囲には留まると言ってよいでしょう。
憶測にはいつも誤認の可能性がつきまといます。「“憶測”の範囲にあればOK」とは、一番店と“誤認”される可能性が充分にあるということです。そしてリアルに照らし合わせれば誤認と言わざるを得なくても、ネットの中では「それが事実であり本当の一番店」なのです。
極端な例で説明しますね。仮に浜松市天竜区水窪(みさくぼ)町にうなぎのネットショップがあったとします。検索結果や評価サイトなどにおいても、ある程度のポジショニングができていて風格漂う素敵なショップ。大手のモールにもとりあえず出店。価格も他店の相場と変わらない。通販で買ってみたけど美味しかったというSNSでの発信もちらほら。何か問題はあるでしょうか。
実は、水窪町はうなぎの養殖をしている地域からみると50~60kmぐらい離れた山間部に位置しています。車で行けば2時間で着くかどうかという距離です。リアルと照らし合わせれば“誤認”に該当するかも知れませんが、水窪がどの辺りにあるかを知らない日本全国のお客様の平均的な認識は、うなぎ=浜名湖=浜松市=という所でしょう。浜松市にあるというだけで充分ユーザーの“憶測”の範囲には入るのではないでしょうか。
前述でネットは同業者の住み分け=共存を成立させるための「細分化されたジャンルでの一番」の根拠を確認し難いしくみになっていると書きましたが、たとえば売上規模や店舗の大きさなどについての項目は、ネット内においてはまさに「アタリをつける」しかありません。ということは複数の一番=住み分けが成立しにくく、一強多弱の構図になりやすいとも言えるのです。従って水窪町のうなぎ屋さんでも一番店と「誤認」されれば卸や催事などの引き合いまでが舞い込んでくる可能性が充分にあります。これらのチャンスを活かして仮に仕入れに成功すれば、名(ネット)実(リアル)ともに一番店となるかも知れません。
ネットショップを活用して無店舗の個人販売から一定規模の会社になった例は数知れず。本屋さんが雑貨を売って成功した様な事例や、工業系の地場産業で他業種からの引き合いをほぼ独占し業界地図を塗り替えた例など成功事例のほとんどが、ブランディングの際に客観的な根拠を提示する必要もなく、根拠を調べられる可能性も低いというネット特有の“誤認しやすい環境”が生み出したと言えるでしょう。
そう言えば、草加煎餅は知っていても草加煎餅の一番店は知らないのと同様に、日本の〇〇は有名でも〇〇の一番店がどこかは知らないというお客様もいらっしゃいますね。サイドビジネスでやっている=当然無店舗のショップに某国から億単位の引き合いが舞い込んだり。これ実話です。申し遅れましたが、ブランディングにおいて先行者利益ほど大きなものはないのではないでしょうか。海外のお客様はIYさんやイオンさんもたぶん知らないわけだし。(笑)
JECCICA客員講師 笹本 克
全国各地で有名ネットショップを輩出。 自治体・関連団体にもEC関連の講演や講師を務める。 DeNA社やYahoo!Japanショッピング事業部スタッフへのレクチャーや、ドリームゲートの起業講座の他、上場企業から中小企業までコンサルサイトの累計は約600社、多岐にわたる業種でのコンサルティング実績も豊富。