AI時代に考える、人間がやるべき仕事とAIに任せるべき仕事とは?
AIはこの数年で一気に存在感を増し、生成AIの登場は文章作成やアイデア出しといった“人間らしい”領域にも踏み込みました。その結果、「仕事がAIに置き換わるのでは」という不安と、「AIを活かせば生産性が跳ね上がる」という期待が同時に高まっています。
実際のところ、AIは決して万能ではありません。強みと弱みが明確にあり、人間にしか担えない役割は確かに存在します。
重要なのは、両者の得手不得手を見極め、適切に役割分担すること。
特にEC領域では、CRMやMAと組み合わせることで、効率化と顧客体験の向上を同時に実現できます。本コラムでは、AIが得意/苦手とする領域、人間が担うべき仕事、両者の協働で生まれるシナジーを整理し、実務での指針を提示します。
AIが得意とする領域、苦手とする領域とは?

AIの最大の強みは「大量データを高速・正確に処理し、再現性高くアウトプットすること」です。購買履歴や閲覧行動、在庫や価格の変動など、多変量で絡み合うパターンを見抜くことに長け、確率的に最適解へ近づけます。
ECで言えば、レコメンド、需要予測、在庫最適化、異常検知、メッセージのトリガー配信、クリエイティブの自動生成/自動最適化(件名やサムネの自動AB)などが代表的です。ルールや目的が明確で、評価指標が数値化されるほど精度は上がります。
一方、AIが苦手なのは「曖昧さと文脈を含む判断」「価値の新規創造」「倫理を伴う最終意思決定」です。顧客の“本音”や場の空気、関係性の歴史といった暗黙知は、データ化しづらく、外挿には限界があります。
ゼロから概念を生む創造性、ブランドの世界観を損なわない表現選択、説明責任や個人情報保護のような規範領域は、人間が責任を持つべき範囲です。
実務では「AIが強いところは徹底的に任せる」「AIが苦手なグレーゾーンは人間が補う」という線引きが鍵になります。
例えば、配信タイミングやセグメント抽出はAI、そこで何を語り、どの体験を届けるかは人間。価格改定の最適点はAIが提案できても、顧客との長期関係やブランド毀損リスクを踏まえた最終判断は人間が下すべきです。
AIの得意・不得意を正しく理解することが、誤用による失敗や過度な期待からチームを守ります。
人間が担うべき領域とは?
人間の本質的な役割は「AIの計算結果に意味を与え、社会と顧客の文脈に接続すること」です。具体的には次の4点が中核です。
①戦略設計と最終意思決定:
AIは選択肢を提示できますが、事業の目的階層や価値基準を定義し、トレードオフを引き受けるのは人間です。短期CVRより中長期LTVを優先する、価格最適化よりブランドの一貫性を守る――こうした選択は経営判断そのものです。
②顧客理解と共感:
同じ行動データでも、背景にある動機や感情は顧客ごとに異なります。問い合わせやクレーム対応、VIP顧客との関係構築では、言葉の温度や沈黙の意味、微妙な空気を察して応じる“肌感覚”が信頼を生みます。
③創造性と物語化:
AIは既存パターンの組み替えが得意でも、ブランドの“らしさ”を体験として立ち上げる企画は、人が描く物語と美意識に依存します。施策の成否は、機能価値に物語を与えられるかで大きく変わります。
④倫理・ガバナンス:
パーソナライズとプライバシー、効率と公平性、短期と長期の均衡を取り、説明責任を果たすのは人間です。KPIに表れにくい副作用を想像し、未然に抑止する仕組みづくりも人の役目です。
ECの現場では、セグメントやトリガーはAIが作り、「誰に・何を・どう語るか」という構成と表現の骨格は人が決める。ベンチマークはAIが収集し、人は競合と自社の文脈差を見極め、勝ち筋を定義する。プロンプトやルールの設計、例外時の運用判断も人間の仕事です。

要するに、人間は「意図・価値・責任」を担い、AIは「推論・自動化・拡張」を担う――この役割認識が、成果と信頼を同時に最大化します。
人間とAIの協働が生むシナジー
分担の次に重要なのは「連結の設計」です。AIと人間の出力を直列・並列でどう繋ぐかで、同じ資源でも成果は大きく変わります。代表的な設計を3つ挙げます。
1. Insight→Strategy 連結:
AIで購買傾向や需要の変化を抽出(誰が・何を・いつ)→人間が意味づけ(なぜ)→戦略仮説へ翻訳(だからどうする)。
例えば、若年層の深夜購入が増えているという洞察から、夜間限定バンドル、深夜帯のCSチャット強化、SNS文脈を活かした導線設計へ落とし込む。
2. Scenario→Automation 連結:
人間がブランド体験を損なわない“物語”として接客シナリオを設計→AIがタイミングとチャネル(メール/LINE/SMS/アプリ)を最適化して配信→反応をAIが学習→人間が学習結果を評価し、シナリオ自体を更新。自動化は“何を伝えるか”が設計されてこそ成果が最大化します。
3. Accuracy↔Safety 両輪:
AIは精度の追求に走りがちですが、ビジネスは信頼のゲームでもあります。人間が監査観点(差別的推論、過度な追跡、説明不能な意思決定)を設け、「高精度・高信頼」の両立を担保する。
例外時のフェイルセーフ(配信停止・手動審査・トーン変更)を事前に設計しておくと、拡張スピードが加速します。
この連結設計ができると、チームの働き方も変わります。手作業のオペレーションから、「問いを立てる→仮説設計→AIで検証→意味づけ→再設計」というループにシフトし、学習速度が上がります。
ECでは、AIがカゴ落ち兆候を検知→人間が“ためらいの理由”を仮説化→比較表や保証、レビュー提示などの体験を追加→AIが自動でテスト→勝ち筋を水平展開、という循環が代表例です。
シナジーとは、AI単体と人間単体では生まれない問いの質と反復速度を引き上げる設計そのものなのです。
AIは計算と自動化の限界を押し広げ、人間は意味づけと物語化、そして責任ある意思決定で価値を完成させます。
EC領域では、インサイト抽出、タイミングの最適化、実行のスケールをAIに委ね、顧客の体験設計とブランドの世界観、倫理と説明責任を人間が担うことで、効率と信頼を同時に獲得できます。
要は「AIが強い所で戦い、人間がしかできない所で勝つ」。
その前提のうえで、両者の出力を設計的に連結し、学習を高速で回すことが、これからの標準です。
AIを恐れるでも、過信するでもなく、目的と責任を明確にすること。それがAI時代における、私たちの実務的で創造的なスタンスだと考えます。


JECCICA客員講師 中村 隆嗣
株式会社ファブリカコミュニケーションズ
アクションリンク プロダクト責任者
2003年に北国からの贈り物へ入社。本店/楽天/Yahoo!/Amazon/ぐるなびなど全店のマーケティング戦略責任者として数々の賞を受賞。2014年株式会社メディックスに入社し、年商2500億規模の大手製薬会社や外資系アパレルブランドなど、メーカー直販ECの事業コンサルティングを手がける。コンサルティング先で多く見られたCRMの課題を解決すべく2018年にアクションリンクを立ち上げ、2023年ファブリカコミュニケーションズにジョイン。現在に至る。