OMOへの対応は「with コロナ」対策になりえる
OMO時代の到来
2019年頃から「OMO(Online Merges with Offline)」がさかんに言われ始めました。OMOとは、“OMO時代”ともいわれるように「オンラインがオフラインを包含した状態そのもの」だったり、「オンラインとオフラインの融合を前提とした戦略」「オンラインを軸にして、これまで分断されがちだったオフラインを融合すること」などとされています。
それまで言われていた「オムニチャネル」における前提、リアルチャネルを主軸にしつつ、デジタルチャネルやデジタルマーケティングを活用していく。またはリアル店舗を主軸にしつつ、その補完・アドオンとしてECを整備する。そうしたアプローチ自体が古くなるというわけです。
確かに、どこに行くにもスマホを常に携帯し「常時オンライン」の生活が当たり前のいま、「オンラインでない状態の、本当の意味でのオフライン」は非常に少なくなってきました。いまや私たちにとって「オンラインこそがメインチャネル」であり、オフライン=リアルの場はその一部分でしかなくなってきていると言えます。
こうした時代に、リテール事業者はどのように消費者と向き合い、繋がり、何を目指すべきなのでしょうか。
オムニチャネルからOMOへ
リテールのデジタル戦略におけるキーワードはこれまでいくつもありました。2001年頃から「クリック&モルタル」、2010年頃から「O2O」、2013〜2014年頃からは「オムニチャネル」。特にオムニチャネルのインパクトは大きく、ここ数年、多くのリテール企業が「リアルチャネルとデジタルチャネル、全てをシームレスに連携させよう。これらを駆使して一貫性のある対応・サービスを提供しよう」という取り組みを推進してきました。
しかし、もともとの意味である“オムニ”とは「全ての」、つまり「販売活動のため消費者と接点を持つ場所や手段の全て」を指していたにも関わらず、多くの企業で「リアル店舗とECサイト」という“二つの販路”に限定して捉えがちだったように感じます。また、「シームレスに連携させる」という部分も手法化・手段化され、「リアル店舗で用いられてきた販売管理システム、ポイントシステム」などと「EC(のそれ)」とを連携・同期させ、「在庫の一元化」や「販売情報やポイントの一元化」といった“システム連携”の話に終始してしまうことが多かったように思います。
もちろん、全く意味がなかったというわけではなく、在庫の流動化や相互送客、一貫性のある対応・サービスの実現がある程度進んだというケースもあるでしょう。しかし、リアル店舗とECとでその売上規模や収益性を競っている(場合によってはお客様や在庫を取り合っている )状態では、オムニチャネルの実現はまだまだと言えるでしょう。
OMOが叫ばれ始めたいま、オムニチャネルの考え方は融合・アップデートされ、やっとその本来の目的「リアルチャネルとデジタルチャネル、(消費者と接点を持つ場所や手段の)全てを駆使したシームレスな顧客体験の提供」を目指す段階になったのではないかと感じます。
突然のコロナ禍〜加速するOMO
新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた緊急事態宣言が解除され、一般の店舗や商業施設の営業が再開して早2ヶ月。現在は感染拡大の再燃を用心しつつ、同時に社会経済を回していくという難しい局面にあります。
店頭にいらっしゃるお客様は、この状況にある程度慣れてきたとはいえ、当然ながら「必要以上のビル内・ショップ内の滞留を避ける」「ショップ販売スタッフや他のお客様との接触を極力避ける」傾向が見受けられ、今後も当面新型コロナウイルスの影響が続くであろうことを考えると、例えば以下のような手立てを講じていく必要があると考えます。
①店頭で短時間で目当ての商品やサービスが手に入る、オンラインとオフラインを組み合わせた提供方法
・事前予約制による販売
・オンラインによる商品情報・在庫情報の提供
・売り切れの際など、店頭でのオンライン注文対応
②人との接触がなくても、欲しい商品やサービスが手に入るオンラインを活用した提供方法
・ECでの販売(宅配/店頭取り置き・店頭受け取りなど柔軟な受け取り方法の選択)
・オンライン接客(ブログ、SNS、LINE、Zoomなどを活用した接客)
③なるべく不要不急を避ける中にも、いま「欲しい」ここにしかない・唯一無二な商品やコンテンツの提供
なるべく不要不急な接触をしないという非オフラインの状況にあって、多くの生活者・消費者がオンラインを活用することで可能な範囲で生活の水準を維持しようとする中、もちろんこれまでのオフラインでの体験と全く同じではないけれど、「これはこれでいい」「これで十分」「逆に効率的」そんな風に代替されていくものも少なくないことでしょう。まだ当面続くであろうこのオンライン偏重の期間は「OMOが加速する」状況だと言えます。
OMOへの対応は「with コロナ」対策になりえる
新型コロナウイルス感染拡大の影響下で多くの生活者・消費者が「オンラインへ偏重」したいま、「オンラインがオフラインを包含した状態そのもの」「オンラインとオフラインの融合を前提とした戦略」であるOMOへの取り組みの重要性は、一層増してきていると言えるでしょう。withコロナへの対応・対策になりえる部分も非常に多い。
ネットとスマホで常時オンラインとなり、また情報収集や購買における感度・スキルが著しく向上した消費者・お客様に対し、企業側がオンライン~オフラインを融合・駆使することで「どういう風にして情報を届けられるか、価値を伝えられるか」「どう気の利いたコミュニケーションができるか」、そして「どういう継続的な関係を構築できるか」を考え、取り組むべきタイミングがきたわけです。
思えば、リアル店舗やリアルチャネルは、店舗を増やすことで売上を拡大し、長らく多くの従来リテール企業の中心・メインストリームとしてやってきた。一方そうした影で、ECやデジタルチャネルは、社内に分かる人が少ないというのもあって、会社から協力や理解をあまり得られないまま、それでも独自の成長・進化を遂げてきた(もちろん、そうした企業ばかりではないと思いますが、一例です)。
リアル店頭を含めたリアルチャネルと、ECを含めたデジタルチャネル。二つの販路という意味ではなく「接点を持つ場所や手段の全て」という意味で、いかにこの両チャネルを一つの主体として融合させることができるか、これがポイントだと思います。
JECCICA特別講師 唐笠 亮
株式会社パルコデジタルマーケティングのコンサルタント。数々の専門店・ショッピングセンター等を背景とした大規模ECの構築やシステム連携のプロジェクトマネージャーを務める。