越境ECが重要である根本的な理由
日本から米中消費者に向けた越境ECの市場規模
2023年8月31日に経済産業省より電子商取引に関する市場調査の報告書が公開されました。国内物販系BtoC-EC市場規模は13兆9,997億円と前年比5.37%増、EC化率は9.13%となっています。
一方越境ECについては日本から米国の消費者向けは1兆3,056億円、中国の消費者向けは2兆2,569億円となっており、米中合計で3兆5,625億円に達しています。同市場調査では越境ECの市場規模は日米中3か国間のみとなっていますが、実際には韓国、台湾、ASEAN諸国へも相当額の市場規模が存在しています。市場規模はそれほど大きくないと思いますが欧州向けにも日本からの越境で製品は届いているでしょう。それらの市場規模の推計値は不明ですが、米中ならびにそれらの国・地域を含めた全体額は4兆円を超えると私は見ています。
越境ECが重要である背景
ところで非常にプリミティブな質問ですが、越境ECが日本経済にとって重要な背景とは何か皆さんは考えたことはあるでしょうか?
私は次の4点を挙げています。
① 長期化する円安
② 外国人による日本(人)への関心
③(一般論としての)日本製品への高い評価
④ 日本経済の長期的な低迷
このなかで①~③について言及する方は多いでしょう。しかしながら私が最も重視している点は④日本経済の低迷です。この点を見落としている方は多いと思われます。私が④を重視している理由は次の通りです。
数字に見る日本経済の長期的な低迷ぶり
誌面の枠の都合上グラフは非掲載ですが、日本の家計最終消費支出、つまり日本の個人消費額はこのバブル景気が破綻して以降約30年間300兆円弱で長年横ばいに推移しています。個人消費が横ばいということは小売市場規模も横ばいであるということを意味しています。具体的な数字を言うと小売市場規模は約150兆円での横ばいです。物価上昇に伴い若干の上向き傾向の兆しが見られますが、円安やエネルギーコスト上昇によるスタグフレーション状態ですので、実質的にはデフレ状態から脱却できているとは言えません。少子高齢化で今後は人口減にもなりますので、内需に依存していてはパイの奪い合いに終始するだけであり、ゼロサムゲームが繰り広げ得られるだけです。
先進国でも経済は成長している現状
一方で諸外国はどうでしょうか?ここで主要国のGDPの推移をチェックしてみましょう。ちなみにGDPの約50%~70%に相当する額が個人消費と言われていますので、GDPが増えることは個人消費が増えることを意味します。2002年のGDPを“1”としてその後のGDPを2002年の相対値として計算するとグラフの様になります。
最近は経済の低迷が報じられている中国ですが、これまでの歩みを見ると著しい経済成長を遂げています。また近年日本企業の進出が増加しているベトナムではGDPが急拡大しており経済が発展している様子がうかがえます。他方米国、ドイツといった先進国でも2前後の数値、つまりGDPが2倍に成長しています。それに対して日本のGDPはほとんど成長していません。つまり日本経済だけが世界から取り残されていることがわかります。
コロナを経て回復する世界の個人消費
2020年には世界全体を新型コロナウイルス感染症が襲いました。それにより日本のみならず世界各国で個人消費が急激に冷え込み、経済全体が縮小したことは記憶に新しいでしょう。しかしながらその後世界の個人消費はV字回復しようとしています。データ提供サービスのStatista経由で取得したデータを見ると、2020年の世界の小売市場規模は23.74兆USドルであったところ、2025年には31.27兆USドルに拡大するとの予測データがあります(※グラフ無しで申し訳ありません)。これは5年間で1.32倍に拡大する計算です。さすがに日本は5年間で1.32倍にはならないでしょう。
このように世界の個人消費の見通しは明るいわけです。その恩恵の一部を日本経済も享受することが望まれます。実は世界の越境EC市場を中国が席巻しており、日本が出遅れることでさらに中国に市場を持っていかれてしまうことを私は危惧しています。
EC事業者ではない私が言うと無責任に聞こえるかもしれませんが、EC事業者の方には越境ECの積極化を期待しています。
JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役