+(プラス)EC、新たなプラットフォーマーは誰?
コロナでECを取巻く環境が大きく変わったことは、既に多くの方から語られていますが、今回は、「+(プラス)EC」という視点から整理してみたいと思います。
特にこの1年で参入が大きく伸びたのは飲食店と生産者です。いずれもキーとなったのは「プラットフォーム」の提供でした。
飲食店+EC
コロナで営業が制限されてしまった飲食店は、UBER EATSなどのデリバリーや、予約が取りにくい店のポータルサイト「OMAKASE」、「BASE、STORESなどのASPショップサービス」などを使って店舗外販売を実施して売上げを作っていくことが必須になりつつあります。
これは飲食業界にとって大きな意識の変化であり英断でした。料理は「出来立て」が一番おいしく、口に入れていただくその瞬間を想定してシェフは料理を作ります。しかし、デリバリーやテイクアウトではどうしても食卓に届くまでに時間がかかり、通販では仕上げの状態をお客様にゆだねることになってしまいます。イメージする状態で食べていただけない…トップシェフであればあるほどこのジレンマに陥り、昨年の段階では時期尚早と、手出しをしないお店も多くありました。
しかし、長引くコロナはその壁を一気に突き破り、多くのシェフが意識を変えなければ生き残ることができなくなってきています。コロナ当初の2020年5月頃は中華やエスニックなど比較的手軽な価格で提供でき、デリバリーに向いている業態が主流をなしていました。
星付きシェフのレストランなどこだわりの強い店がこの業態に出ていこうとすると、やはり前述の課題に直面してしまいます。そこで多くのシェフが選択したのが通販でした。
プラットフォーマーたちが体制を整え、料理人は1年かけて自慢の品を準備。いよいよここから、本格的な飲食店ECのスタートです。特に食通の間で利用されているのは「OMAKASE」の通販。展開は大きく2つ。「あの店の味が、この価格で自宅で食べられる」「あのシェフが新しく挑戦した商品」「OEMではなくすべて店舗で作る◎◎」など、プロフェッショナルからの提案に、顧客も購入で応えます
さらにコロナ前から続くアルコール離れにより、ドリンクで得ていた収益を外販に振り替えていく店や、店舗+外販を基本ベースとした店など、+ECの組み合わせで店舗が再構築されていくことが予測されます。
生産者+EC
もう1つ大きく変わったのは生産者です。この1年で食べチョク、ポケットマルシェの2つは「生産者モール」として飛躍的に成長しました。私自身も、2020年は既存の楽天やYahooなどのモールで1度も産直商品を購入したことがありません。販売者を限定しているからこそ、購入理由も明快で、わかりやすいプラットフォーム。これらはインターネット登場よりずっと前にあった「共同購入」のスタイルや広がり方に似ています。ただし共同購入との違いは「商品の選択基準は消費者にゆだねられている」「生産者性善説にのっとっている」という点です。目利きに自信のある方にとっては良いかもしれませんが、届いてみて「想像していた品質、味のレベルとは違った」ということも、ままあるのが現状です。
メディア+EC
これらの生産者直販に対してセレクター視点を取り入れて2020年にスタートしたのが「文春オンライン」「dancyu通販」など、既存客を抱えたブランド力ある雑誌系の通販です。またこの分野で先行し、ここ数年圧倒的な人気を博する「婦人画報のお取り寄せ」は、セレクターの視点が際立つ雑誌的な作りになっているのがユニークな点で、今後ますます充実していくことでしょう。
また大手通信キャリアが運営するモールも現在、有名フードライターによるリニューアルを図っており、LINEギフトもセレクターを立ててブランド力の高いグルメショップの出店が相次いでおり、大幅に売上げを伸ばしています。
ますますメディア+ECは増える傾向にあり激戦となっていくことでしょう。
次のプラットフォーマーは?
では、次のプラットフォーマーとなりうる可能性がある層は誰でしょう?
まず1つは「消費者による口コミュニティ」です。現在本カテゴリーは、お取り寄せネットの独り勝ちですが、口コミを主体としたコミュニティに通販が加われば鬼に金棒です。例えば2020年にオープンした食べログモールもセレクターを立てた通販で追随していますが、ここに口コミが加わると力を増してくるのではないでしょうか?
更に可能性があると分野とすればU&Iターンが増えている「地方コミュニティ」でしょうか。今現在はまだ目立つコミュニティがあるわけではありませんが、この分野が大きくなってくれば、これまでとは違った展開が考えられるのかもしれません。
また旅館・ホテル予約サイト、プロ料理家のコミュニティなども面白い分野でしょう。
いずれにしてもこれからますます+ECの観点からの業界参入が増えてくることになるのは間違いないと予測していますし、一人の消費者としては楽しみでもあります。
北村貴
全国の料理家350人や生産者と「毎日のテーブルにストーリーを」をテーマに、食が創り出す豊かな生活を提案。また大手メーカーやレストランの商品開発、PRを手掛ける他、全国の自治体や地域に根付く企業とともに様々なビジネス活動を行っている。
また、2015年には一般社団法人日本味育協会を設立し、理事に就任し、「味覚」をテーマにした食育事業を展開。同法人が監修しているユーキャンの通信講座「食育実践プランナー」は人気講座で、毎年多くの修了生を輩出している。