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修理する権利(Right-to-repair)とサステナビリティ

つい先日、買ったばかりのジャケットのボタンを、着用初日に紛失しました。洋服に関わらず、日用品や家電などで、そんなに粗雑に扱っていない商品が壊れたり、傷んだり、想定使用期間を下回って破損・故障したという経験はないでしょうか。今回は、ニューヨーク州で2023年7月から施行される「修理する権利」について、洋服のお直しと絡めて考えていきたいと思います。

塵も積もれば山となる洋服お直し費用
先日、ゴールデンウィーク前に、銀座のとある百貨店でジャケットを購入しました。トップスや着慣れたブランドであれば、ECサイトで購入を済ませる私。しかし、その時はある用事のためにすぐに手に入れたかったこと、サイズによってデザインが異なると公式のECサイトに記載されていたため、実物を見たいという理由から、銀座に行く用事もあったので実店舗へ行くことに。試着して気になったので即購入しました。さてそのジャケットを初めておろして、帰宅、ハンガーにジャケットを掛けたら、なんとボタンが一つなくなっているのです。紛失したボタンはジャケット用なので、大きめの作り。もし何かに引っ掛かって取れたのであれば、気づくはずですし、おかしい…。他のボタンを見てみると、恐らくですがボタンもミシンで縫い付けていたのでしょう。お店に問い合わせをしたところ、商品の交換を提案されましたが、一日中袖を通してしまったものだし、それを返品するのも勿体ないので、手元には購入時の付属のボタンがありましたが、またいつでもボタンが取れても困らないように、さらに追加でボタンを送ってもらいました。

女性の場合は、特にこのような、がっかりした体験は多いのではないでしょうか。女性の洋服は薄手で素材が元々強くなかったり、デザインが重視されがちなため、靴やアクセサリー、バッグなどの小物との相性によっては劣化することが多々あります。また私の場合、生産国に関係なく、メイド・イン・ジャパンと謳っているブランドでも、裾のほつれなどを何回も経験したことがあります。そのため、よくお世話になるのが洋服のお直し屋さん。お直し屋さんがなかったら、泣く泣く着るのを諦めるか、自分で直すか、それとももうそのブランドで買うのをやめるかになるので、大変有り難い存在ではありますが、安い服ならもう一着洋服買えるのではないか、と思うときも。

デジタルデバイスにも修理する権利を!
23年7月からニューヨーク州で施行される「デジタル公正修理法」

「デジタル公正修理法」という法律を聞いたことはありますか。今年2023年7月1日からアメリカのニューヨーク州で施行が始まる法律です。通称「修理する権利(Right-to-repair)」とも呼ばれています。2022年の12月にニューヨーク知事によって署名されました。

私がこの法律を知ったのは、自分のスマートフォンのバッテリー残量の減りが加速し、モバイルバッテリーなしでは外出できなくなったときです。「他の生活用品は自分で修理できるのに、なぜスマートフォンは修理できないんだろう?」とふと疑問に思い、調べてみたところ、Google Storeに関連するような記述がありました。
https://support.google.com/pixelphone/answer/9004345?hl=ja

私はGoogle Pixelユーザーですが、Apple Supportのサイトにも「Self Service Repair」というページを見つけることができました。
https://support.apple.com/self-service-repair

Google Pixelのページには「純正のスペアパーツをiFixitから入手してGoogle Pixelを修理することができる」と記述があります。「これは朗報だ!私もバッテリー交換してみよう」と思ったら、対応しているのはアメリカ、英国、カナダ、ヨーロッパの国または地域のみ。日本やアジアの国は含まれていないのです。詳しくは分からないのですが、日本の場合は法律の関係で対応が難しそうですね。

スマートフォンの買い替えサイクルは長期化傾向
エコ志向も「修理する権利」を後押し

スマートフォンの買い替えサイクルは、長期化傾向にあると聞きます。スマートフォンの機種代金の高騰や、携帯キャリアの2年縛りがなくなった結果でしょうか。巨大化するスマートフォンではなく、小さいサイズのスマートフォンを使いたいから機種変しないという知人もいます。また、一昔前だと、ひと目で古い機種だと分かりましたが、スマートフォンの進化速度も鈍化し、「このスペックでも充分だし、壊れていないなら長く使いたい」という人が増えたように思います。環境問題への興味関心も相まって、この長期化傾向は続くのではないでしょうか。またリサイクル観点から見ると、スマートフォンはリサイクル回収に積極的に取り組まれている印象ですが、部品ごとにきちんと分解して、分別することは至難らしく、時間も技術も必要だそうで、実際は粉砕処理する場合が多いそうです。

上記のような時代背景が後押しし、「デジタル公正修理法」が出てきたのではないでしょうか。今回のニューヨーク州のみならず、アメリカではそれ以外にもカリフォルニア州、コロラド州、マサチューセッツ州など20以上の州が議論しています。
(参考情報 https://www.repair.org/stand-up

また、EUでは1990年代から交換用の部品の市場自由化が議論されているそうです。

修理する権利には懸念点も
「一つの商品を長く大切に使いたい」という消費者の声が叶えば、消費者はスマートフォンを筆頭としたデジタルデバイスに余分な支出をしなくても済み、環境負荷も軽減され、レアメタルなどの貴重な資源も有効活用されるでしょう。しかし、良い面だけでなく、懸念事項も存在します。まず、デジタルデバイスはとても複雑です。中学の技術の授業で、はんだごてで作ったラジオのような単純な機構と違い、顔認証や画面タッチによる指紋認証など最新の技術が搭載されています。素人が修理するには、故障や製品の安全性、修理の品質低下などの危険性をはらんでいます。Google Pixelの修理についての説明文にも「スマートフォンの修理については、関連する技術的な経験のある方のみ行うことをおすすめします。」との記載があり、今回のニューヨーク州の法案可決でも、メーカーや修理企業からの反発が強かったそうです。

メーカーは公平性や社会的責任とのバランスの舵取りが今後より重要に
iPhone誕生当初は、そもそも消費者が修理・分解できないように外側から開けられないような仕様になっていたそうです。メーカーとしては、買い替えサイクルは短い方が売上に貢献して都合が良いですし、修理しやすい仕様を考慮して製品を設計・開発する工数が省けます。しかし、この「修理する権利」は拡大する一方となるでしょう。

スマートフォンなくしては生きてはいけないと思わされるほど、スマートフォンに頼って生きている私たち。そしてそのスマートフォンを製造する企業はサーキュラーエコノミーのなかでも一端を担う立場となっているのは明白です。消費を減らし、資源の再利用という「リサイクル」の観点も大事ですが、長く使ってもらえるようにすること、つまり「リユース」も大切なのだと改めて実感しました。

muraishi

JECCICA客員講師 村石怜菜

株式会社パルコ・シティ シニア・コンサルタント。

日本女子大学被服学科卒。大手専門店企業で接客販売・店舗運営を経験した後、Eコマース支援企業で数々のファッションブランドのECサイトの構築や運用に携わる。現在は、ファッション専門店や商業施設へのECコンサルティングを得意としている。また、クライアント企業のオムニチャネル戦略の計画・実行を支えている。


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