感性から紐解かれる向き合うべき各々の顧客像
利便性だけがデジタルではない?
デジタルの台頭にともない、利便性という側面で、僕らの日常は大きく変わってきました。ただ、それも今、第二局面を迎えています。「感性」という側面から、事業を後押しし、デジタルを上手に絡めて、勢いづく企業も増えています。
個々が持つ「感性」をどうやって、企業は引き出し、伝えて、お客様を惹きつけるか。ここが次の時代を紐解く上で大事になってきます。
先日、「3COINS」を運営するパルの話を聞く機会がありました。彼らは30周年。その歴史を追うと、アパレルとお手頃という二つの軸を掛け合わせることで、若い女性を中心に人気を掴んできたことがわかります。
ただ、2020年、一旦、立ち止まりました。
「実際に自分たちの顧客はどこにいるのか」。そういって、実際にリサーチをしたと言います。すると、実は年齢層において想定外の結果が得られました。
お客様に合わせて自分を“進化”させる
当初、それは10代〜20代を意識していました。ところがメインは30代でした。彼らはそれを知るなり、リニューアルを果たしました。つまり、ややカラフルな内装から色を控えたクールなテイストに変え、商品ラインナップも転換しました。
彼らのお店では毎月、700〜800もの商品がアップデートされており、新陳代謝が激しい。そこでママさんや独身女性のその世代のバイヤーたちが率先して、売り場のニーズに応えることで、タイムリーに売り場を活気づけました。
男性寄りだったモバイル系アイテムを女性向けにアレンジし、推し活グッズでヒットが生まれるようになったのはそれゆえです。
そして、欠かすことができないのは、デジタルの有効活用。
逆に言えば、デジタルの最大化ができるからこそ、これだけ大胆に、売り場の「感性」に耳を傾け、舵取りができたのではないでしょうか。実は、そのスタッフの中には、SNS のフォロワー数が3万人を超える人すらいるくらいで、広告顔負けの発信力を持っています。
デジタルがあるが故に絞り込める
ここで気づくのは何でしょうか。
一貫して、3COINSはそのターゲットを「絞り込んでいる」わけです。そして、誰が自分たちの消費者なのか。そこを徹底追求し、その層の「感性」に耳を傾けてきたのです。絞り込むことで、必要のない商材をなくしていき、企業として生産性の高い製造工程を手に入れることで、業績を伸ばしていくわけです。
でも、繰り返しになりますが、その発信者たる売り場のスタッフたちが、そのお客様がどこにいるのかを絞り込んでいます。そうでなければ、SNSのアルゴリズムとして、フォロー数が増えることがありません。
だからこそ、店をきっかけにスタッフは成長し、店はよりそこを深掘りできるのです。それが、顧客満足度を高められることは言うに及びません。ゆえに、求められる商品で魅了し続け、結果、リアルのお店でのラインナップの価値を最大化させているのです。
組織が一体となって、その売り場の「感性」を最大化させる動きが起きています。それは、デジタルを起点としたお客様の絞り込みがあるからです。
自ずと商品もトレードオフになっていく
だから「絞り込むこと」が大事。これまで以上に「トレードオフ」は欠かせないキーワードになっていくでしょう。アックスヤマザキというミシンのメーカーがあります。伸び悩むミシン市場。しかしこの企業はその「感性」に従い、思い切った「トレードオフ」でシェアを握り、躍進しました。
きっかけは些細なことです。代表取締役の山崎一史さんの家族に子供が産まれた際に、自身の子供のものを、ミシンで手作りしたことにあります。それによって彼は、その工程の全てに、「感動」が伴うことに気づきました。
だから、彼は敢えて、『子育てにちょうどいいミシン』という切り口で、徹底して出産後の家庭に対して商品を手掛けたのです。約30cm、重さ約2.5kgと軽量でコンパクトにしたのも、そうした家族環境を意識してのこと。それなら収納が楽です。
本格的に、いろいろな機能を備えるのではなく、初心者でも簡単に操作できるシンプルな設計にしました。使い方やレシピ動画をスマホで視聴できる機能もあり、安心して始められるようにしたわけで、まさに「トレードオフ」です。
感性は全く新しいものを生み出す素地になる
また、感性で、ゼロから新たな視点が商品により生み出されています。最後に『アミーコットンライナー』という商品について触れておきます。
それは生理用品で、ようやくタブーではなくなったこのタイミングで、さらにニッチに深掘りしたのがこの商品です。女性たちが集まって起業し、作り上げたのが、通気性にこだわったコットンなんです。
実は、生理に絡んで不快な原因はムレに起因する。工場に掛け合って、一般的な紙製品の176倍以上という圧倒的な通気性を備えるようにしました。これも「トレードオフ」で、顕在化していない価値観を感性によって“寄せて”呼び起こしたわけです。
つまり、感性が重んじられて「ターゲットが絞り込まれていく」中で、どんな付加価値を提案できるかを思案していく。そして、焦点を当てる中でトレードオフしていく。それこそが、ネット通販も含めて顧客に優しいと言え、2025年以降、必要なことであるような気がしています。
今日はこの辺で。

JECCICA客員講師 石郷 学
(株)team145 代表取締役