リアル店舗が減少するかもしれない将来を真剣に考える
小売の事業所数はこの30年間どのように推移したか?
政府の主要統計の一つである経済センサスには、全国の事業所数のこれまでの経年推移が掲載されています。2021年時点の小売の事業所数は880,031ですが、今から30年前の1994年は1,499,948となっています。すなわち30年間で約4割減です。しかしこれを法人(小売を手掛ける法人企業)、個人(個人商店)で分割してみると、前者は約60万付近で大きな変化がないのに対し、後者は1994年の918,741から2021年には302,189と3分の1に激減していることがわかります。推移をグラフ化してみましたのでご参照ください。尚、正確に言うと毎年数字が記載されておらず“飛び石”となっています。よって、未記載の年については当方が試算した値となっている点、ご了承ください。
これまでの減少はビジネスモデルの変化によるもの
個人小売の事業所、すなわち個人商店がこの30年間で大きく減ったということですが、これは大規模小売店舗の拡大によって商店街などを構成する個人商店が影響を受け、結果的に衰退せざるを得なくなったということがその理由でしょう。これには大規模小売店舗立地法(旧大規模小売店舗法)の影響があるかもしれませんが、いずれにせよ小売法人は大きな変化がない(実際には新規と撤退によって相殺されている)一方で、個人商店が衰退する事象は、小売のビジネスモデルの変化によるものと説明づけることができそうです。
労働力不足により今後小売法人の事業所数が減少すると予測
ではこれから先どのように変化するでしょうか?このままだと個人商店はさらに減少することは容易に予測できます。一方で小売法人の事業所数について、今まで通り横ばいで推移するとは限らないと私は予想します。というのも、これから先少子高齢化による人手不足によって、そもそも労働人口は間違いなく減少します。またECのさらなる台頭による影響もあるでしょう。実際、県庁所在地にて百貨店が閉鎖されるというニュースをしばしば目にするようになりました。つまり小売法人の事業所数は、業種にもよりますが、トータルとしては減少トレンドになると私は見ています。これまでのことをビジネスモデルの変化による事業所数の減少だとすれば、これから先は労働力不足による減少と言うことができます。
2040年には小売法人の小売拠点数が今よりも10万減る?
実は小売法人の事業所数を細かく見ると、2014年の610,197をピークに微減トレンドが継続しており、2021年は577,842となっています。この間のCAGRを計算すると、マイナス0.78%です。政府機関によるこれから先の人口予想値等を加味し、今後の推移を前年比マイナス1.0%と仮定して計算してみたところ、2040年には今よりも10万減る結果となりました。これは驚く数値です。恐らくは人口が集中する大都市圏はそれほど減少しない一方で、地方都市では大きく減少するのではないかと私は予想します。地方在住の消費者にとっては大きなハンディキャップとなるでしょう。
消費難民化する地方都市
コロナが明けて消費者のリアル回帰により、ECとリアルとを連携させるオムニチャネルやOMOの議論が盛んになっています。もちろんそれらは重要なテーマであることに間違いはありません。しかしながら中長期の視点に立ち、仮に私の予想通り事業所数が減少するとなれば、オムニチャネルやOMOに関する議論は今と異なったものになるでしょう。誤解を恐れずあえて極端に表現すると、EC側から見てリアル店舗が存在しない、あるいはごくわずかといった状況が予想されます(※繰り返しますが極端な表現です)。リアル中心の買物を好む消費者は、ある意味「消費難民」の状態になるでしょう。そうすると、否が応でもECへの期待度は高まらざるを得なくなります。
問われるECの役割
以上はあくまでも私個人の中長期的な予想に基づく話です。しかしそうなった場合を想定し、あらためてECが果たすべき役割は何かということを議論し、認識しておく必要があると私は思っています。シンプルに言うと「ECのみで自己完結できる流通構造の構築」です。日本のEC化率は他国より低いわけですが、その理由はリアル店舗網の充実にあります。そのリアル店舗網の維持が難しいとなれば、あらためて流通のあり方を見直さないといけないでしょう。特に大都市圏と地方都市では状況が大きく異なりますので、いくつかのケースに分けて整理や議論が必要だと考えます。具体的にどうすべきかについては別の機会にお話しできればと思います。
小売の事業所数の推移(小売法人・個人商店別)
出所:総務省統計局経済センサスを基に筆者作成
(毎年数字が記載されていないため未記載の年については筆者試算)

JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役