楽天トラベル流通総額1兆円突破に想うEC市場への期待
楽天トラベルの流通総額が1兆円を突破
楽天が2024年12月期第一四半期の決算発表を行いました。衝撃的であったのは、国内EC流通総額が前年同期比でマイナス4.7%であったという点でしょうか。同社の実績において、国内EC流通総額がマイナスに転じるのは初めてのことではないかと思います。楽天の国内ECが少々伸び悩んでいることをご存じであった方にとっては「やっぱりそうなのか」いったところでしょう。決算説明資料には「SPU・0/5ルール改定」「トラベルにおける全国旅行支援影響」があったとしています。
ところで、楽天に関するトピックについて私自身は別のことに着目しています。3月に三木谷会長がXにて楽天トラベルの流通総額が1兆円を突破したことを明らかにしました。コロナが明けてトラベル需要が復活しています。経産省電子商取引調査によれば、2022年の旅行サービスは2兆3,518億円です。ピーク時の2019年が3兆8,971億円なので、2023年は3兆円近くまで戻しているのではないかと思います。そのような状況下、楽天トラベルの流通総額が1兆円を突破というのは良い意味でサプライズです。
リアル回帰と言われるが消費者はEC離れしているわけではない
アフターコロナという言葉はもうすでに死語に近いと思いますが、コロナ以降の消費者の消費行動はリアル回帰と言われていることは、既知の通りでしょう。そのあおりをEC市場は受けていると思い、伸び悩みが危惧されます。メディアの報道でもやや苦戦を強いられている様子が伝わってきます。そのような話に触れると、EC業界は先行きが暗いのかと思ってしまい、今後のEC業界を憂いてしまいます。しかしそのような状況下、楽天トラベルの1兆円突破というニュースを私自身とてもポジティブに捉えています。
トラベルはサービス系分野です。物販系分野ではないので楽天の動向など関係ないのではと思う方もいらっしゃるかもしれません。物販系分野では確かにいくつかのデータを見てみると消費者のリアル回帰トレンドを理解することができます(※百貨店売上高など)。この事象だけ切り取れば、あたかも消費者はEC離れを起こしているように思いがちですが、楽天トラベルの1兆円突破は、消費者が決してECから離れているわけではないことを証明している気がしてなりません。
EC市場規模を押し上げる要素とは?
2023年のEC市場規模の伸長率はおおよそ4.7%程度と私は見ています。2023年の伸長率は5.37%でした。おそらく2024年は4%前後になるのではと予想しています。ということは、既にEC市場は成長市場というより成熟市場であるとの見方が相応しいと思います。これから先数年は、ふたたびパンデミックが日本や世界を襲わない限り、伸長率は数パーセントの前半で推移すると思います。ただしこれはあくまでもコンサバティブな予想です。ではポジティブにEC市場のことを考えるとした場合、どのようなプラス要素があるでしょうか。
私は第一に、加齢によって30代は40代に、40代は50代にといったように人口構成がシフトする点を挙げたいと思います。これによりECやデジタルメディアに慣れた層が加齢に伴う所得向上によって、今よりも多くの金額をECに投じるのではないかと勝手ながら予想しています。次に挙げたいのは人手不足です。言うまでもなく人手不足は深刻です。これにより、リアル店舗を運営できないようになってきていると思います。あと10年もすればそのトレンドはもっと顕著になっていることでしょう。以上の2つの要素は確実にEC市場規模を押し上げるものと確信しております。
加えて、期待要素としては「マーケティングの進化」「ビジネスモデルの変革」「優秀な人材の流入」「資本の流入」「地方の消費者によるEC利用の促進」といったものがあると思います。いずれにせよEC市場/EC業界のさらなる発展を望んで止まないのですが、少しネガティブに思考していたところに楽天トラベル流通総額1兆円突破のニュースを知り、あらためて前向きな気持ちでEC業界に貢献できればと思っている次第です。
旅行サービスに関するEC市場規模の推移(単位:億円)
JECCICA客員講師 本谷 知彦
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役