売上が上がるECサイトのためのスマホ対応マニュアル
売上が上がる「ECサイトのためのスマホ対応マニュアル」1
JECCICA客員講師
株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博
※本連載では、スマートフォンの略称を、Google Japan が正式採用している「スマホ」に統一しています。
■スマホ化したら売上が落ちた
「スマホ対応したら、逆に店の売上が落ちた」「カートがスマホ対応しているのに売上が伸びない」。2015年初旬、Googleの「スマホ対応していないサイトは、SEO順位に影響が出る」という告知に、あわててスマホ対応したものの、それが裏目に出てしまった、という店舗さんの声があとを経ちません。中には「ウチの商材はスマホでは売れないから…」と放置されている店長さんもいらっしゃいます。
日本にiPhoneが登場した2008年当時は、バッテリーが持たない、iモードが使えない、こんなの日本じゃ普及しない、などの批判も多かったのですが、ソーシャルメディアの台頭がスマホの普及に追い風ともなり、2005年12月には、日本国内でもスマホからのサイト閲覧数が、PCを追い抜くと予想される中(※1)、スマホ化はもはや放置できない問題となっているのです。
[※1:ネット視聴率調査会社:ニールセンの発表と図]図:http://www.netratings.co.jp/news_release/2015/05/26/20150526_01.jpg
Source
スマートフォン:Nielsen Mobile NetView ブラウザとアプリからの利用
PC:Nielsen NetView 家庭および職場からの利用
※Nielsen NetViewは2歳以上の男女、Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女
■Googleの公式ツールは「売上」まで保証しない
Google社は、自社サイトがスマホ対応できているかどうかのチェックツールとして公式に「モバイルフレンドリーテスト」を公開しています。しかし、現時点では技術的な「見た目」の判断しかされません。基準も英語サイトです。そもそも日本語サイトと英語サイトでは、ユーザにとって快適な文字の大きさは異なります。
だから、Google公式のスマホ化判定ツールではOKが出ているのに、実際には売上が下がっている、という現象が発生するのです。
[図:モバイルフレンドリーテスト]図:http://www.screencast.com/t/17K0VSoxd
■「レスポンシブ対応したので大丈夫」が落とし穴
スマホ化の話題になるとまず出てくる言葉が「レスポンシブ」。要は、ひとつのページの見た目を、PC・スマホ・タブレット、それぞれの端末で異なって見えるように変えてしまうデザイン手法です。
しかし、これが大きな落とし穴になっているケースが非常に多い。
実は、「これを使えば、一発でスマホ化できます」というテンプレート(雛形)がウェブ上には広く出回っています。例えば「ブートストラップ」と呼ばれるTwitter社が開発したCSSフレームワークは有名で、これをサイトに組み込めば、今までのPCコンテンツを「流用」して、スマホ用に「自動変換」されます。
制作現場の視点からもスピーディでコストも抑えられ、間違った選択肢では無いでしょう。しかしこの「流用」と「自動変換」が、サイトの売上を引き下げている大きな原因なのです。
[図:Twitter社が無料公開するレスポンシブ対応サイトが構築できるbootstrap。]
図:http://www.screencast.com/t/arwIL5B0dmP
■スマホが先か、PCが先か
[スマホが先か、PCが先かの図]図:http://www.screencast.com/t/1ZoSoeND
数年前まで、レスポンシブ対応といえば、PCサイトが先にあって、それをスマホ対応する、という流れでした。
しかし、前述のとおり、今後スマホ閲覧数がPCを追い抜いて行くのは明白です。商品やサービスによっては、すでにスマホ閲覧がPCの倍以上になっているケースも少なくありません。
「それなら、スマホを先に考えよう」と、スマホ優先でサイトを設計する「モバイルファースト」という言葉もありますが、既にPCサイトで売上を上げている場合、これは危険な冒険です。大きな企業のリニューアルもこれで失敗している事例が多々あります。
つまり、スマホ化といっても、サイト全体を一気に変えてしまうのは得策ではありません。スマホの比重を上げることは重要ですが、まだまだ全体的には過渡期である現時点においては、
・優先度の高いページと導線を見極める。
・スマホ専用ページを部分的に追加してゆく。
・サイト全体をレスポンシブ化する
といった流れが安全でしょう。
■本連載のねらい
2007年6月29日、アップル社は「iPhone」を米国で発売しました。
[写真:キャプション:当時筆者が米国から取り寄せた初代iPhone]添付
弊社もすぐに実機を米国から取り寄せ、これからのネット閲覧が劇的に変わることを確信し、それ以来、約120社のサイトのスマホ対応をコンサルティングさせていただき、スマホ経由の売上を平均で2倍以上に改善することができました。
特に、売上にシビアな「ECサイトのスマホ化」の答えは様々です。一定の法則がすべてのサービスや商材で成り立つとは限りません。どうすればその事業がスマホで収益化できるのか、もっと売れるのか、をクライアント様と一緒に考え、悩み、改善してきた経験から、本連載では、そうした知見やポイントを可能な範囲でお伝えしたいと考えています。これは!と思われたポイントはぜひ実践いただき、結果に結びつけていただければと思います。
※2 スマートフォンという語源については、1996年に Ericsson 社が「GS88」をスマートフォンとして発売したのが最初とされるが、本稿でいうスマホとは、現在一般化しているiOSやAndroidなどを基本ソフトとする携帯端末群を差している。
JECCICA客員講師
株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博
プロフィール
1992年から営業畑のかたわら、独学で顧客満足向上システムを開発し1997年に売却。1998年に開発プロデュースしたモバイル端末向けアプリがヒット、1999年にアクセス解析ツールを開発し、2000年からEC数社を立ち上げ、年商20億円などの急成長で、2006年に株式上場。同時に保有株を売却、渡米しシリコンバレーなど海外の次世代eコマースの運営現場を研究しながら、スマホやソーシャルメディアによる新たなマーケティング手法を確立。2011年にウェブ制作・マーケティング会社、ISSUNを設立。先細りしつつある従来のマーケティング手法を改善しながら「心の通うオンラインマーケティング」で収益向上のコンサルティング事業を行っている。