===ネットビジネス発想のヒント 歴史はくりかえす?===
JECCICA NEWS VoJECCICA特別講師 笹本 克
「学園天国」という歌をご存知でしょうか。笹本の世代であれば「フィンガー5」の曲という人が大多数かと思うのですが、40代以下の方々であれば「小泉今日子」の大ヒット曲だという人が多いでしょうし、10代
20代の若い世代であればDream5の曲だという人が多いのではないでしょうか。
もしも、その時代の心情や世相を汲み取った曲がヒットするとするならば、往年のカバーバージョンがヒットするのは、世相や心情が一巡してまた戻ってきたからと言えるのかも知れません。
なんとなくですが、ネットビジネスの世界も一巡して、最近では1998年~2002年ぐらいの黎明期と同じ様な雰囲気を感じることがあります。
たとえばO2O(オンラインtoオフライン=ネットとリアルビジネスの融合)といったキーワードもECの黎明期に既に「クリック&モルタル」という表現で、ほぼ同じ意味で使われていました。また技術系ではクラウドサービスなどもそうですが、およそ四半世紀前の「電算室のホストコンピューターと各事務所にある端末」のシステムにそっくりです。
もちろん当時とは技術やインフラが格段に違いますので、それぞれのテーマキーワードが指し示す詳細部分については大きく異なるのですが、基本的な考え方や意図する効果はほとんど同じ様な気がしています。
例えば、最近の「クラウド」と四半世紀前の「ホストコンピューター」であれば、ホストコンピューターのプログラムを変更すれば 全社の端末にその変更が反映される利便性や、「端末」には重要なデータが入っていないのでセキュリティー面での管理がしやすいなど、「意図する効果」はかなり近いと思うのですが。
一方、「O2O」と「クリック&モルタル」で言えば、昔の クリック&モルタル の方が「概念的なクオリティー」としては若干 O2O よりも進んでいた様な気がします。
O2Oの場合、ネットのお客様をリアルの来店者に育てる という様な意味合いの方が強い印象を受けるのですが、当時の クリック&モルタル の概念は、CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント=お客様とのつながりを強める)の意味合いも多分に含んでいました。
笹本は2001年ごろのクリック&モルタルの企画に参加したことがあります。知人のある麹屋さんのネットショップで「手作り味噌の体験イベント」の告知をしていたので、これに参加したことがあるのですが、その麹屋さんが「ネットのお客様と実際に会い、実際に(商品を)体験して頂くことで、強いつながりが生まれる」と言っていたことを記憶しています。この点では、当時のクリック&モルタルの概念を正確に表すとすればO2Oではなく、O and Oとでも言ったらよいかも知れません。双方向のシナジーを充分に意識したものであり、かつCRMに重点を置いた概念だったと思うのです。
さて、本コラムのテーマである「ネットビジネス発想のヒント 歴史はくりかえす」に戻りたいと思います。
例えば現在のO2Oの概念は、リアル店舗とネットショップで同時に使えるポイントなどに象徴される様に、技術やデバイス的なテーマになりがちですし、また、ユーザーから見ての利便性などに重点を置く方向で考えられがちかと思います。多くの企業がO2Oのテーマに取り組み、技術やデバイスの発展によりクリック&モルタルの時代に比べれば、より多くのことができる様になったはずなのに、今一つお客様の反応がついてきていない気がするのです。O2Oのテーマにおいて、何をすれば活性化させることができるのでしょうか?
一つの仮説として「歴史はくりかえす」「歴史に学ぶ」とするのであれば、「CRM的な要素」=特に、実際に会ったり 実際に体験して頂く様な要素を付け加えてみるのはどうか?
という発想=ヒント が生まれてきます。ここで世相=ビジネス環境を考慮してみたいと思います。クリック&モルタルの時代は、お客様の多くが「実際の商品を見ないで買う」ということに不安を感じていた時代でした。顔が見えない売り手から 買う ということにもかなりの抵抗を感じていた時代でした。だからこそ「実際に」ご来店頂いたり、商品に触れて頂いたり、お客様に実際にお会いしたりということに重きをおいていました。
ネットショップの方も、これらの環境を「常識として」認識していたので、まずはお客様に、売り手として「怪しくない」ことを充分に確認して頂くところからコンテンツを作っていくのが常識でした。店長やリアル店舗の写真を掲載するなど、「怪しいバーチャル」ではなく「本当に実在しています」というところから一つ一つ訴求していって、お客様の信頼を得た後に初めて「商品を語る」という構造を必要としていたのです。
また、この時代は、お客様から信頼を得て=親しい感情を持って頂くことができて初めて商品を売ることができたので、あたりまえ過ぎてCRMというテーマは存在していなかった様な気がします。
現在ではネットショッピングが世間一般に認知され、売り手としても あたりまえの様に商品が売れているので、ネットショッピングそのものに不安を感じているかも?という前提に基づいての「根本的な部分での信頼醸成」には気を遣わなくなっているかと思います。少なくともECの黎明期に比べれば、「怪しくないことを証明するコンテンツ」の比率は大幅に減っていると思うのですが、読者の皆さんとしてはいかがでしょうか。
冒頭で 最近「ネットの黎明期」と同じ様な雰囲気を感じる と書きましたが、これは最近のインバウンドや越境EC、あるいはスマホをキーデバイスとした様々なテーマの空気感によるものではないでしょうか。漠然とではありますが、かなり大きなマーケットが「見えて」いて、成功事例は「出始めている」ものの、「試行錯誤」を要する段階であり、まずは「やってみながら考える」ことが必要とされるので、まさに2000年前後のインターネットビジネスの環境にそっくりの様に思えます。
2000年前後のECの環境を考えると、ブラウン管のCRTモニターに従量課金制の回線利用料、1ページのダウンロードに数分かかることもしばしばで、画面サイズは600x400ピクセルで今から考えると大変狭く、お客様は顔の見えない売り手に不安を持っていた時代でした。ネットで注文してからも、本当に商品が届くまでは一抹の不安を持ちつつ・・・あれ、何かに似ていませんか?
インバウンドや越境ECの対象のお客様は、当然ながら外国のお客様です。文化や生活習慣も違うし日本語も不得手でしょう。もちろん法律なども違うので、日本の様に「消費者保護」の制度なんて無いかも知れません。基本的には「それを選んで買った方が悪い」という商習慣を持っている国の方が多いのではないでしょうか。
もう少し続けます。電気の規格も違うし、宗教も違う。日本人には「あたりまえ」のモノでも食べ方や使い方、あるいは保存の仕方などが分からないかも知れません。日本という外国から間違いなく本当に商品が届くのか、いつ届くのか・・・。EC黎明期のお客様にそっくりだと思うのですが。では、この様な「不安がいっぱい」のお客様に対して、まず何から訴求すべきでしょうか?もうお分かりですよね(笑)当時はネット回線自体が遅かったこともあって、ショップ側としても大きなサイズの画像を使うとダウンロードに時間がかかったり、ダウンロード失敗で画像自体が表示されなかったりもしました。このためHPではあまり大きなサイズの画像は使えなかったのです。このため商品画像を見ても今一つ商品の詳細が分からないこともしばしばでした。最近はネットの環境も整い、PCではほとんど画像ダウンロード失敗は起こらなくなりましたが、最近でもダウンロード失敗が起こるデバイスがありませんか?600x400サイズのブラウン管モニターのごとく、画面サイ
ズが小さくて、場合によっては回線が不安定で(というよりも電波が かも知れませんが。)というデバイスがスマホではないでしょうか。画像のダウンロード失敗が起こることがあった当時のネットショップでは、ユーザーが画像のDLを失敗しても「本来は何の画像が表示されていたのか」が分かる様に 必ず 画像ALT(画像の説明テキスト)を入れていました。特にメニューなどの「リンク画像」には 絶対ALTを入れるべきとされていました。画像自体のDLに
失敗してもALTのテキストは表示されるので、見栄えは悪くてもそのテキストをクリックすればリンク先のページに飛べるからです。
また、リンク先に飛ぶごとにHPのDLに時間がかかることを考慮して、大変長大なページでありながらも1ページで完結するネットショップというものも存在していました。最初はページのDLにかなりの時間を要しますが、一度お客様のPCにHPが表示されれば、「回線が切れても」スクロールするだけで最後までコンテンツを読んで頂けるからという意図でつくられたものですが、まだ笹本は スマホ専用ページなどではこの様なサイトスタイルを見かけたことはありません。ちなみに1ページ完結スタイルのショップは結構購買率なども高かったと記憶しているのですが。あっ、ちなみに中国のネット回線は南北別々に整備されたこともあって、現在でもDLにかなりの時間がかかることがあるそうです。ではどんな対策をして行ったら良いでしょうか。「不安がいっぱい」でインフラやデバイスも「快適とは言えない時代」なのがネット黎明期。他にもいろいろ「現在のホットなテーマ」に応用できるネタがたくさんあるかと思います。ゆっくりお茶でも飲みながら当時を振り返ってみるのも面白いかもしれませんねっ。