2016年 年頭所感《JECCICA専務理事 雨宮 雄一》
新春を迎え、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
2015年は、小売業界にとってのマイナス要因であった消費増税の影響も一巡し、インバウンド旅行者の旺盛な需要も相まって、明るい話題が豊富だったと思います。
Eコマース業界においては、引き続き成長基調にありましたが、振り返ってみると、長期的な戦略視点での新しい取り組みが本格化した年だったと感じます。
2016年も継続しそうな流れを4つ挙げます。
⑴ オムニチャネル元年
セブンアンドアイグループやイオングループなど、流通大手が一斉にオムニチャネル構想を発表したことに止まらず、Amazon・楽天と主要コンビニとの提携など毎月のようにオムニチャネル関連のビッグニュースが飛び出していました。
各社とも様々な実験を開始しています。
WEB発注・店舗受け取り、店舗に陳列していない商品のその場でのWEB発注・自宅配送、ECと店舗のポイント・購買情報連携等々。
JECCICAセミナーでもカメラのキタムラ様の事例をご紹介頂きましたが、本当にネットとリアルの垣根がなくなりつつあります。
私が最も注目した取り組みは、食品ECのオイシックスによるリアル店舗展開です。
オイシックスは、これまでもブランド認知を主目的としてリアル店舗を出店していましたが、オムニチャネル推進に舵を切って、多店舗展開を加速させています。
オムニチャネルというと、どうしてもリアル店舗を保有する企業のネット展開と考えがちですが、米国でAmazonがリアル書店をオープンしたように、2016年はネット企業のリアル展開も一気に加速しそうな様相です。
⑵ 配送コスト対策
2014年から続く配送コストの上昇は、2015年もECショップを苦しめました。
私のクライアントでも、売上対比の配送コストが1%以上も上昇し、利益を圧迫しています。
一方、配送業者サイドも、配送個数の大幅な伸びに対して必要な人員を確保できておらず、人材不足ゆえに賃金が上昇し値上げせざるを得ない、といった、八方ふさがりの状況です。
そんな中、楽天がロッカーサービスを始めたり、ローソンが店舗から個宅へのラストワンマイル配送に取り組んだりしています。
コンビニで店舗での受取サービスも一気に広がってきています。
ECにとって、配送は必要不可欠ですが、自身でコントロールすることが難しいコストです。
2016年は、従来の宅配便以外の配送サービスが充実し、ECショップにとって選択肢が増えることを願うばかりです。
⑶ 共通ポイント・電子マネーの競争激化
これまで、リアル店舗ではTポイントとPontaポイント、ネットでは楽天スーパーポイント、電子マネーはNanaco、Waon、Suica、Edyなど、それぞれがすみ分けながらサービスを展開してきました。しかし、2015年はこのすみ分けが一気に崩れ、戦国時代さながら、陣取り合戦が激化しています。
2014年にTポイントは電子マネー機能を搭載しましたが、Pontaも電子マネーに参入。楽天は2015年にスーパーポイントのを付与・利用できるリアル店舗を一気に増やしました。
さらには、東京電力がTポイントとPontaポイントを選択制で付与出来るようにしたり、NTTドコモのDポイントがローソンでも利用できるようになったり、等々。
ここまで来ると、もはやポイントは、顧客囲い込みのツールとしては意味をなしていない、と言っても過言ではありません。
むしろ、決済手段としての電子マネーに限りなく近づいていると、考えられます。
2016年は、ネットでのポイント競争が沈静化していく一方で、ネット決済の手段としての電子マネー対応が広がってくるかもしれません。
⑷ 越境EC
2015年にJECCICAセミナーや相談会で取り扱った話題の中で、注目度が高かったものが越境ECです。
越境ECといえば、現地モール等に出品しても、現地に店舗があるなど知名度が高くない限り、あまりにも多数の商品の中で埋もれてしまう、という声を聞いてきました。
これは日本のモールでも同じですが、これまでの経験から一定のマーケティングノウハウは確立されています。
これが、海外では商習慣やモール特性が異なるため、通用せずに苦戦してしまう訳です。
しかし、近年では、インバウンド旅行者が日本で購入した商品を現地からネットでも購入する、という新しい流れが生まれているようです。
しかも、インバウンド旅行者は富裕層なので、現地に溢れる模倣品を好まず、日本純正の商品を購入するとのこと。
まさに、日本ブランドのなせる業ということです。
2016年はインバウンド旅行者に対する日本でのブランド認知・購入体験を経て、越境ECでのリピート購入が勝利の方程式となりそうです。
以上は業界の大きな動向ですが、ECショップは小売業、本質的な差別化要素を追求し、「基本を磨く」ことを忘れてはなりません。
また、ショップを支えるサービス提供者側は、ショップの「本質的課題」を解決する一手を提案する必要があります。
JECCICAとしては、「基本」を大切にしながらも「進化」出来るEコマース人材を育成していくべく、引き続き努力していく所存です。
最後になりましたが、皆様方におかれましては、この一年が希望に満ちた躍進の年になりますよう心からお祈り申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきます。
フォーセンス・パートナーズ(株)代表取締役パートナー公認会計士。コンサルタント歴20年、小売業の経営改革とM&Aに精通。元HMVジャパン社長としてEC事業運営にも従事。