地方展開型ECコンサルタントの考え方
JECCICA理事・特別講師 小林 厚士
私が思うECコンサルタントのミッション
私が思うECコンサルタントのミッションとは、
「お客様のビジネス全体を理解し、同時に目的、目標、成果、指標、タスクを理解し、お客様の立場に立ち、戦略・戦術の策定及び、PDCAを回すこと。また、そのDNAをお客様の企業に植え付け、浸透させることである。」
と考えております。
このミッションを根幹とし、地方においてECコンサルタントとして活動をしていく中で、感じたことをお話させていただきます。
地方におけるECコンサルタントの現状 首都圏、地方都市に並び、そもそも地方において、なぜ個人事業主〜企業がEC業界に進出していくかを考えてみます。
それには複数のケースがあります。
- 創業の際、事業軸のメインをECでまかなっていくケース
- 本業における営業不振により、EC業界へ進出するケース
- 業務拡張により、企業として更なる飛躍を目指しEC業界に進出するケース
EC業界に進出する理由としては、先に上げた3つの理由が多いと考えます。
全ての方が「3」の理由であれば幸いなのですが、過去の私のように、「1」を選択せざるを得ない環境下の方、「2」のように、再起をかけるべく挑戦される方と、その企業によって様々な理由が存在します。どのような事業戦略にも「先駆者利益」があるように、EC業界にもそれが存在しています。96年〜01年あたりにEC事業に進出した企業は、今となってはまさにその恩恵を受けている部分があります。しかし、それ以降にEC事業に進出した企業は先駆者に比べ、運営ノウハウや顧客リスト数において、圧倒的不利な状況からのスタートとなるわけです。従って、第三者からのサポートによる事業の向上を目指していくというスタイルが生まれてきました。
近年、一般的に認知されているサポートの一つとして「制作サポート」があります。いわゆる制作会社であり、現在は全国的に、それぞれの得意分野を持ってしての展開が行われています。その「得意分野」について着目すると、デザイン系、システム系、マーケティング系と分類でき、完全個人で営んでいるケースも多くあります。制作を自社でまかなえないEC事業者は、制作会社の得意分野によって、売上=会社の運命が自然と決まってしまうのです。
少々怖い話ではありますが、自社の明暗を分けるといっても過言ではない制作会社を自分の意思を持ってコントロールできていない個人事業主〜中堅企業を地方では多く見受けられます。
また、その制作会社がECコンサルティングを事業として行っていくというケースも近年は増えてまいりました。その多くは「実際に経営者として商売を経験した事がない」や「ECショップ運営経験はあるが、売上実績としてはほとんどない」といった人がECコンサルティングを行い、並行して制作サポートも行っていくわけです。当然、ECコンサルティングの内容においては、最新手法の受け売りがメインとなり、極めて戦術的な進め方になって行きます。最終的にその企業の事業戦略を軽視した形で進めていくスタイルになるので、極めて不健康な状態での関係が構築され、最終的に短期のお付き合いでご縁をなくしてしまう経験値の浅いECコンサルタントが多く存在しているのが現状です。
その地域の特性を熟知しているか?
地方展開していくにあたり、実は非常に重要な要素であります。
基本的に、著書やWEBのインフラをもってすれば、いわゆる情報面においては全国平等です。
しかし、運営面においては地域の特性が大きく出てまいります。会社規模にもよりますが、雇用問題から始まり教育環境、販売商品の特性、仕入れ条件や送料原価の問題等、挙げだしたらキリがないほどです。
運営面において、首都圏や地方都市では通用する話が、地方では通用しにくい。という話を多く耳にします。地方展開を行うECコンサルタントは、その地域の風土や特性を理解した上でのサポートを行うことが絶対条件になっていくと考えております。
業界、企業の背景をいかに知ることができるか?
同じ業界の企業であっても、その背景は違います。それを軽視した上で、最新の販売手法等をご支援しても販促につながらないケースが多くあります。
例えば、販売商品が重複する、都内のA店、そして地方のB店。事業母体や売上はA店の方が大きいが、仕入れ交渉力や固定費、変動費等はB店が優れている。といった様に、同じ商品を販売していても企業の背景は様々です。
このあたりにもしっかりとフォーカスし、その企業を最良に導く為に、ECコンサルタントは様々な要素が問われます。
そのためには、業界の仕入れ原価や粗利等も、事前に知っておく必要もありますし、企業情報も可能な限り収集しておく必要もあります。
それらを知った上でのサポートは、クライアントと良い関係を築いていく第一歩であり、ECコンサルティングを行っていく上での必須条件と言えます。
「地域の活性化」の前に、「地域への貢献」を
「地域の活性化」というキーワード。
このコラムをご覧頂いている皆さんはじめ、地方展開を行っているECコンサルタントの方はよく耳にされるのではないでしょうか?
ECやWEBの力を使い、地域の活性化を目指すという考えは、それは大変素晴らしいことであると思います。しかし、その前に、「地域への貢献」を行っているかがポイントとなります。
いわゆる、点と点が線になり、線と線が面になり、その面同士がつながり合っていくという話です。
私は、ECコンサルタントとして、その地方に根付く企業をサポートしていくことにより、点の数を増やしていくというイメージを常に持っています。他の人や企業が出来ないサービスを持ってして、これからも地域に貢献していきたいと考えます。地味な考え方かもしれませんが、EC事業で、その企業が元気になっていくことで、サポート先の従業員や、企業を取り巻く様々なものに恩恵が生まれていくと思っております。
契約迄にいかにコミュニケーションがとれるか
地方企業というのは、その地域においての横のつながりが深く、様々な団体があり、多くの経営者はそれなりの数に参画、加盟をしています。
当然、「飲みの席」も多く、その中で様々な情報交換や交流が行われています。ECコンサルタントとして地方展開を行っていくには、やはりそのような環境に多く足を踏み入れたほうが機会も増えますし、多くの経営者とのコミュニケーションを取ることができます。深くコミュニケーションを取っていく事は大変重要であり、かつ、有効手段と言えます。
私はよく「仕事はデジタル系なのに、あなたはなぜそんなにもアナログなのか?」と聞かれますが、私はサポートする側とされる側が、常に同じベクトルでなければ成功はないと考えていますので、結果必然的にそのような動きとなるわけです。
従って、契約に至るまでには多くの時間を費やし、お互いの人間性を理解し合い、考え方の共有をしっかり行ってからのスタートとなります。 当然、飲みの席での話も増えるわけですので、ある意味体力勝負的な要素でもあったりします…(笑)
ECコンサルタントはクライアントにとって「先生」ではない。
私は「先生」と呼ばれる事が好きではありません。
先にも書きましたように、あくまでもクライアントとは同じ肩を並べていたいのです。
ECコンサルタントの多くは、ある意味大学の教授のようなスタンスをとられ、一方的に自身の考え方を話しして終わり、または聞き手にとって薄い理解のまま押し付けるというケースが多いのですが、「教えて終わり」「伝えて終わり」ではただの授業です。
私は、大学病院の教授ではなく、多くの人に愛され、信頼される町医者でありたいと、常日頃より意識をしています。
机上の知識も大切ですが、ありとあらゆる問題に対してクライアントと向き合い、時にはぶつかり合いながらも、クライアントが常に抱いている問題に対して、健康的に解決の方向に向かわせることのできる、あくまでも現場主義的な立ち居地でありたいと考えています。
地方で必要とされるECコンサルタントとは?
これからの時代、EC業界がなくなる事はないといっても過言ではありません。
現存するECショップも場合によっては様々な理由で撤退を余儀なくされ、力のある新参者が入れ替わり立ち代り参入してくるでしょう。
今後は地方の時代と言われておりますが、地方のEC運営者がますます元気になってもらう為に、地方特性を熟知した「成功のレール」がきっちり引ける地方展開型ECコンサルタントの存在や育成が必須であります。
これは私にとって急務であり、本質を語れる地方展開型ECコンサルタントが圧倒的に少ない現状が逆に脅威であります。
地方展開を行うことは、報酬額や進め方等、首都圏や地方都市の展開に比べて若干ルールの相違があり、勿論デメリットもありますが、地方で展開しながらも、全国で活躍するECコンサルタントとの横のつながりは必須です。
そのネットワークにより、それぞれの得意分野において、今までになかった多くの気づきを得ることが可能となり、結果、人間力向上につながって行くことは間違いございません。
私はよく、「戦略ありきの戦術」という言葉を使います。EC業界は次から次へとインフラや販売ノウハウが変化していく業界ですので、これ以上、特に地方において、その企業の命となるEC戦略を定められることが出来ないECコンサルタントが増えない事を切に願っています。
最後になりますが、過去より、本質主義であるECコンサルタントを養成する団体はありませんでした。私は一般社団法人日ジャパンEコマースコンサルタント協会「JECCICA」の特別講師として、これからの時代に向けて、一人でも多くの地方展開を行うECコンサルタントを養成して参りたいと考えております。
最後までお読みくださり、誠に有難うございました。
JECCICA理事・特別講師 小林 厚士
地方拠点かつ海外事業部展開をしたEC企業経営で培ったマーケティングノウハウ及び実績を活かし、経営戦略的視点を重視した、現場最優先の実践的なアドバイスを得意とする。